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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 211

2021-05-12 17:23:00 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究27(15年5月)
                【非想非非想】『寒気氾濫』(1997年)91頁~
      参加者:石井彩子、泉真帆、かまくらうてな、M・K、崎尾廣子、M・S、曽我亮子、
          渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取未放

 ◆「非想非非想」の一連は、『寒気氾濫』の出版記念会の折、塚本邦雄氏が絶賛された。
   全ての歌に固有名詞が入っていて全て秀歌、「敵愾心を覚える」とスピーチされた。

221 秋津島にゴータマ・ブッダなけれども非想非非想鳥雲に入る
                   {注1}
         (レポート)
天照大御神(神道)につながる、日本の国、秋津島にゴータマ・ブッダは誕生しなかったが、非想非非想鳥は私たちを導き、煩悩から救ってくれるのだろうか、今、仏の最高の境地である「有頂天」への高みに飛翔して、雲に入ったところだ。  
秋津はトンボの古称である。『古事記』によれば、イザナギ、イザナミの二柱の神は男女の交わりをして、大八島を構成する島々を生み出した。その島の一つ本州が大倭豊秋津島(おほやまととよあきつしま)と記され、転じて日本全体の異名となった。「秋に成ると稲の豊作を象徴するトンボが出(いずる)島」→「秋津嶋」ともいわれている。四季に恵まれ、自然の秩序に順応して、神秘を感じ、畏れを抱いて生きる風土で、人々は自然を崇拝し、多神教的アニミズム信仰を生んだ。一方、仏教が伝来したのは飛鳥時代、552年とされ、当初は「皇族・貴族」のための宗教だったが、鎌倉時代以後、民衆にも受け入れられた。現代信者数は8690万(統計局HP-第六十四回日本統計年鑑){注2}とされている。
   (石井)
注1 「鳥雲に入る」 :春の季語。春に北方に帰る渡り鳥が、雲間はるかに見えなくなること。
    『歳時記』
注2 この数は現実を反映していない。国民の多くは宗教儀礼には参加するが、宗教を問われて、
   無宗教と答える。

         (参考)(鹿取)
   なお思想なきに非(あら)ざるを以て「非非想」、または「非無想」という。
   非有想なるが為に外道(仏教以外)は、この天処を以て真の涅槃処とし、非
   無想なるが為に内道を説く仏教においては、なお、これを生死の境とする。
      (『倶舎論』)


           (当日意見)
★世親という人が作ったインドの仏教書に『倶舎論(くしゃろん)』というのがあります。そ
 こで三界(無色界・色界・欲界)の内、最上の場所である無色界の最高天を有頂天または、
 「非想非非想天」と言うとあります。それで(参考)にあげましたように仏教以外では「非
 想非非想天」を悟りと考えるのですが、仏教では「非想非非想」というのはほぼあらゆる煩
 悩を捨て去る事に成功しているが、まだちょっとだけ残っていて完全ではない状態を指すそ
 うで、輪廻のうちにあると考えるようです。(鹿取)
★レポーターは「非想非非想鳥」と一つの名詞として解釈されましたが、私は「非想非非想」と「鳥
 雲に入る」は別の言葉だと思います。私はこの歌大好きですが、「秋津島」と結句の春の季語がかす
 かに衝突するような気がして少し気になります。でも、「日本」とか言ったら全然つまらない歌にな
 るし、固有名詞だからこだわる方がおかしいかもしれません。一首は「秋津島にはゴータマ・ブッダ
 は誕生しなかった、そして〈われ〉は「非想」とか「非非想」とか時折考えてみることもあるけど、
 空高く渡り鳥が雲間に消えてゆくのがみえるよ」と憧れの気分で空を見上げている歌かなあと思いま
 す。(鹿取)
★石井さん、鹿取さん、両方の意見に納得できると思いました。「非想非非想」でも「非想非非想
 鳥」でもそんなに違わないように思います。「鳥雲に入る」は春の季語だけど、短歌なんだからいい
 んじゃないですか、自由に使って。神道というのはほとんど思想がないんですよね。それに思想があ
 る仏教と対比でやったんだろうから、秋津島というしかないんじゃないですか。(うてな)
★なるほどね、すごくよくわかりました。うてなさん、いいこと言ってくれて助かりました。私に思い
 こみがありましたよね。確かに鳥だって「非想非非想」ってあるかもしれないですからね。人間だけ
もの考えるって傲慢かもしれないですね。(鹿取)
コメント
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