かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の鑑賞 277、278

2024-06-21 10:30:05 | 短歌の鑑賞
     2024年度版 渡辺松男研究34(16年1月)
        【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
         参加者:S・I、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
         レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
   

277 フライス盤に西日当たりてしずかなり無人の時間よどむ日曜

      (レポート)
 西日は独特の強さをもって事物を圧倒する感じがある。無機質なフライス盤があってそこには誰もいない。そんな場の日曜日のある時間帯をよどませるほどなのだ。(慧子)


      (当日意見)
★フライス盤ってどんなものか分からないのでネットで調べてみました。(みんなに写
 真を見せて)こんなのです。(鹿取)
★フライス盤って回転して手で材料を削っていく、そんな機械です。CNCはコンピュ
 ーター制御ですね。ソフトを組み込んで設計どおりに作ってくれる。平日はフライス
 盤を扱う人たちがいたんだけど、日曜だから無人であると。(鈴木)
★無人の工場で、静止している機械に西日が当たっている、時間がよどんだ感じってと
 てもよく分かります。(鹿取)


278 CNC旋盤見る見る鉄削る 削られてゆく未来オモエリ

      (レポート)
 旋盤の運動制御をコンピューターによっているCNC旋盤。それが今みるみる鉄を削っている。削られてゆく見える物質。一方で目には見えない未来というものを作者は「オモエリ」という。コンピュータープログラムによって動いているので、そこに人間の勘やためらいはない。それを「オモエリ」と乾いた感じの表記とした。(慧子)


        (当日意見)
★下の句に既視感があって、塚本邦雄かなあ、誰かの本歌取りかなあと思うんだけど思
 い出せなくて。誰か知りません?まあ未来思えりって誰でも使うような言葉だけど、
 「思えり」ではいけない理由がこのカタカナの「オモエリ」にはあるんですよね。
   (鹿取)
★削られてゆくに目が行っているのは、何かが無くなっていくようで。(鈴木)
★工場って何か作り上げるところなのに、何かが失われてゆく。(S・I)
★そうですね、失われてゆくものが過去のものではなくて未来に繋げているところ、時
 の矢が前方から迫ってくるような感じが怖いですね。(鹿取)
★何かを作り上げるということは価値のあるものばかりを目指す訳で、そこから排除さ
 れるものがあるわけです。役に立たないと思われているもののなかに本当はすごいも
 のがあったかもしれないのに。経済成長だけが善という今はいきかただけど、成長し
 なくてもいいのではないか、そこで失われていくものは何なのか、そういうことを言
 っている。(鈴木)



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