2024年度版 渡辺松男研究35(16年2月実施)
【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
参加者:S・I、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:S・I 司会と記録:鹿取 未放
285 誤りを容易に認めなくなりし君も組織の一部を背負う
(レポート)
組織と個人の価値観は、互いにせめぎ合うことがある、組織に入った当初は純粋で、誤りを素直に認めた友であったのだろう、それが、容易に認めることをしなくなったのは個よりも全体、組織を優先させたためである。個は組織にとって手や足であり、バラバラでは機能を全うし得ないのである。作者は組織人としての君を肯定的に描写することによって自己自身を重ねている。
(S・I)
(当日意見)
★作者が組織人としての君を肯定的に見ているかというと、そうでもないようだ。
(藤本)
★言っている意味は同じです。組織人はそもそもそこのルールに従わないといけないの
です。そのルールに従っている君を肯定的に見ていることで、自分自身の内面はいろ
いろとあるのですけれど、価値観は違うのですけれど、やはりそういうところに働い
ている以上、自分自身もそれを認 めざるをえないので肯定的と言ったのです。
(S・I)
★組織の一部を担うようになったんだなと嘆いているように読めました。(M・S)
★君が変わってしまったなあと思っている。(曽我)
★君に対しては違和感もあり疑問もあるけれどそうするしかないのかなあという嘆
き。複雑な気持ちでうたっている。(藤本)
★組織人としての君というのを強調したかった。組織に生きるとはそういうことなんで
す。勤めている以上自我とかは捨てないといけない、おそらく根底には諦めというか
そういう思いがある。そういう君を肯定的に見ている。(S・I)
★個人と組織がせめぎ合う世界と決めつけてしまうのでは前進が無い。改善の意見な
どは上司に言えるはずで、それができない君を嘆いている。市民の立場に立って個々
の意見は言えるはず。全てが個人と組織で相反するわけではない。(藤本)
★もし個人だったらね、これは誤りですと言いたいこともあるんでしょうけれど、組織
人だから自分が謝罪すれば部下が困るかもしれない、組織ってそういうところです。
(S・I)
★S・Iさんの意見、全部ひっくるめて組織ってそういうものかもしれないけど、「作者
は組織人としての君を肯定的に描写することによって自己自身を重ねている」という
ところには違和感を覚えます。やっぱり「君」はそうあってほしくなかった、と嘆い
ているように読めます。〈われ〉が実際どれだけ「君」と違う行動がとれるかはおい
て、違う行動を取りたいと思っている点で肯定的描写ではないし、自己自身を重ねて
はいないというのが私の鑑賞です。それから、改善意見が言えたはずという藤本さん
の意見は、組織人というS・Iさんの反論で出てきたんですけど、そして藤本さんの気
持ちはとてもよく分かるんですけど、この「君」だって改善意見はいっぱい言ったか
もしれませんね。ここでは作者は「誤りを認めない」とい う一点に絞って詠んでいる
ので、 「君」が組織に対して全て唯々諾々と従っているとか、ものが一切言えない
環境だとか、そういうことは言っていないです。(鹿取)
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