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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 230

2021-05-26 19:07:59 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


230 重力は曲線となりゆうらりと君の乳房をつたわりゆけり

        (当日意見)
★重力って何でしょう?例えば汗なら重力で落ちてきますけれど。(石井)
★うーん、人間の手とか舌とかだったら重力ではなく人為的な行為なので……(鹿取)
★女性の体が自分で揺れる場合があるじゃないですか、上田三四二の歌にそういうのがあ
 ったかな。でも、これ男性の手ですよ。その手の動きが重力となって女性の体に伝わっ
 ていったという。(鈴木)
★男性の手と考えなくても、重力だから自然界に備わっているもので、女性の体からまた
 どこかへ行くような気がして、そこがいいなと思いました。(慧子)
★手だとありふれている。もっと情熱的な何かだと思いました。(石井)

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渡辺松男の一首鑑賞 229

2021-05-25 16:16:51 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


229 星微光いまだ届かぬものもあり待ちきれざればわれら抱きあう

         (レポート)
 遠い宇宙から来るかすかな星の光は中々届かないものもあるように、恋人との仲もまだ良い雰囲気が醸されたとは言い難い。けれどとても待ちきれなくて私達は抱き合ってしまった。(曽我)


        (当日意見)
★「待ちきれざれば」は曽我さんと違って、お互い求め合っているから待ちきれないのだ
 と解釈しました。だから「良い雰囲気が醸されたとは言い難い」も違う意見です。
   (鹿取)
★鹿取さんと同じ事を言っているんだけど、書き方が悪かったかな。(曽我)
★待ちきれずに抱きあう恋人同士に星微光が取り合わせられているところが面白いです
 が、他の方いかがでしょう?(鹿取)
★星のひかりはまだ届いていないものがたくさんあって、見えないところで爆発している
 星がいっぱいある、と考えました。それで「待ちきれざれば」とうまく結びつかなくて、
 よく分からない一首でした。(真帆)
★詠い起こして結句に行くまでにどう繋ぐかというのがあるのですが、これはうまく繋い
 でいると思います。星の微光が届かないというのと待ちきれないのがうまく合っている
 と思います。(慧子)
★うまく繋がっている理由を説明してくれますか?(鹿取)
★抱きあいたいのですね。だけど、それに何を付けるかというと日常のちまちましたもの
 でなくて宇宙を持ってこられた。待ちきれないこころの中が届かない星微光でようく見
 える。とても上手いつなぎ方だ。(慧子)
★届かない星の光を待つ気分が、早く抱きあいたいという思いと似通っているというこ
 と?星の光を待つ茫洋とした気分と、抱擁を待ちきれない切迫感とは少し遠い気がする
 のですが。(鹿取)
★まだ夕方で周囲が明るいので星の光が届かない。もっと暗くなれば星は輝き出す。二人
 で星を見ようと思うけれど、その時間を待っていられない。それで抱きあっちゃう。
  (鈴木)
★なるほど、星が光り始める暗さまで待ちきれないで抱きあっちゃう、その解釈だと星微
 光と待ちきれないが繋がりますね。(鹿取)
★スケールの大きなものと身近な恋人同士の対比が面白い。星というのは爆発して何万光
 年とか届くまでかかるけれど、そういうことを暗示しているのかなあと。(石井)

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渡辺松男の一首鑑賞  228

2021-05-24 17:49:56 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


228 恋人の御腹(おなか)の上にいるような春やわらかき野のどまんなか

          (レポート)
 恋人のおなかの上にのっかっているような心地よくほんわかとした春のたけなわである。 (曽我)


         (当日意見)
★恋真っ最中の人ならこういう発想ができるのかな。M・S)
★春ののどけさ、心地よさを表現するのにこういう環境をもってきて非凡な方だなと思いま
 す。(崎尾)
★自然との一体感を渡辺さんの場合はこういう形で表現している。うまいなという感じがあ
 る。他の人はこういう詠み方しないですね。自然との関係でこういうイメージを出してきている。
    (鈴木)
★この歌は大好きです。安堵感というか心も体も繋がりあっている幸せな気分が、春の暖か
 い野のど真ん中にいる気分と自然につながっています。男性の安堵感って、こういう感じ
 かなあって。詠み方もやわらかくまあるく、いい感じです。(鹿取)
★うららかな春の気分を詠っていらっしゃるのですね。(曽我)
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渡辺松男の一首鑑賞  227

2021-05-23 16:51:08 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


227 汗かけば別のまぶしき宇宙見え陰陽石が突っ立っている 
  
       (当日意見)
★ネットで調べると、男の性器と女の性器が対で祀ってある、そういうのを陰陽石(いん
 ようせき)というそうです。自然の営みの中にそういう陰と陽が存在している。(鈴木)
★私は「汗かけば」は226の歌(汗ばむということ秘密めきていて春霞する谷(やと)
 を行くなり)の続きで読めると思います。谷を行きながら汗をかくと昂揚して別の世界
 が見えてくる。その別世界に陰陽石が突っ立っている。あるいは昂揚した気分になると、
 自分が踏みしめている大地が全く違う世界のように見える。そういうことってハイキン
 グでも山歩きでもあることですよね。だから陰陽石は〈われ〉の頭の中に見えていても
 いいし、現実に突っ立っていてもいいと思います。しかもその陰陽石はとても自然でお
 おらかに存在していたのだと思います。(鹿取)
★性愛のことを詠っているとは思いますが、スポーツをして汗をかくと別人になったよう
 な気分がする。そんな感じかな、上句のすばらしさを思いました。(慧子)
★言葉の取り合わせがとてもおもしろい。宇宙ということば、陰陽石という言葉など。陰
 陽石は神社の裏手などで見たことがありますが、子孫繁栄とかを願っているんですね。
 おもしろい歌だと思います。(石井)
★先ほど慧子さんがおっしゃったのを聞いて、スポーツによる別世界というのがすとーん
 と胸に落ちました。陰陽石は男性女性問わず生々しい生き物のようなぎょっとする感じ
 がします。汗をかくと、この世とは別にある生々しい石の宇宙が見えてくるのではない
 でしょうか。(真帆)

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渡辺松男の一首鑑賞  226

2021-05-22 23:20:59 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


226 汗ばむということ秘密めきていて春霞する谷(やと)を行くなり

        (レポート)
 汗ばんでいるということは何か心に隠し事を秘めて昂ぶっているから。「汗」は端的に言えば「体温調節」の為にあるが、「精神的緊張」によっても出る。この「陰陽石」の一連は暗喩法を交えながら男女の「性的心象」が歌われており、今までの歌とはかなり異なった印象を受ける…。(曽我)


       (当日意見)
★曽我さんが書いているように、汗ばむは性的なことに関連する。谷(やと)という言葉 
 には女性のホトと共通する何かがあるようだ。(鈴木)
★今回の一連は性の交わりをおおきな自然の中でみていくという意図があるのではない
 か。それを暗い感じではなく明るく性を讃えるという感じで詠っている。この歌は春霞
 があるところに露が降りている質感だとか、スモークがかかっているような質感が面白
 かった。(真帆)
★今回から始めるⅢに収められている歌は、朝日歌壇に載った歌だと本人がおっしゃった
 か、どこかに書いていらしたかの記憶があります。ですから、Ⅰ、Ⅱから比べると比較
 的分かりやすい歌だと思うのですが。真帆さんがおっしゃったように、この一連は明る
 くというか天真爛漫という印象を受けます。性は別に隠すべきものではないという、陰
 陽石という題からしてあっけらかんとしていますから。私は楽しい一連として読みまし
 た。この歌についていえば、春霞する谷を歩いていると汗ばんできた、その汗にふっと
 秘密めいた性愛の場面などを思っているのでしょう。(鹿取)
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