かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 396

2022-01-06 17:32:43 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


396 耳ぞこに紅葉のごとくひろがりぬうらわかき日のははの呼ぶ声

  (レポート)
 「うらわかき日のははの呼ぶ声」は音色として、紅葉のようにきらきらと明るく華やいでいたのだろう。その声がいまだに耳底に残っていて、ふとした弾みに、その声が蘇えってくるのだろう。
※本歌集最後の歌に次の歌がある。
どの窓もどの窓も紅葉であるときに赤子のわれは抱かれていたり


   (当日発言)
★「うらわかき日のはは」は〈われ〉の幼児期ですよね、きっと。お母さん、男の子はみんな好き
 なんですよね。うちの母は若くて綺麗って。まあ、大人になっても、お母さんが生きていても、
 男の人って基本的に母恋がありますよね。(鹿取)
★この作者はお母さんのことを歌われた歌が多いのですか?(A・Y)
★多いですね。お母さんを早く亡くされている関係もあるでしょうが、何度かシリーズでお母さん
 の死を歌っています。茂吉の「死に給ふ母」に匹敵するくらいたくさん。「ああ母は突然消えて
 ゆきたれど一生なんて青虫にもある」(『泡宇宙の蛙』)は歌壇で物議をかもしましたけど、私は
 とてもいい歌だと思っています。(鹿取)
★松男さんはお母さんをとても愛していらして、何と良い声だろうと思っていらした。(曽我)
★若い頃お母さんを亡くされたので母の若い声を思い出せるけど、うちなんか100歳超えて母が
 亡くなったので、若い頃の声なんか思い出せないですよ。(鈴木)
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渡辺松男の一首鑑賞 395 

2022-01-05 16:44:49 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


395 ふわっとなる一瞬がありつぎつぎと緋の梢から離れゆくなり

      (レポート)
「緋の梢」とは紅葉した梢のことだろうか。そこから紅葉がつぎつぎに散ってゆく様子を詠んでいるが、タイミングとして「ふわっとなる一瞬」があって、それが合図のように紅葉がつぎつぎに散っていく。あるいはこの歌も前の歌(撓うときあらわなるきみのむねのほね吾(あ)はやわらかに鳴らしてみたし)に続く心象風景かもしれない。(鈴木)


     (当日発言)
★愛が醒めていくときの事ですか?(M・S)
★いや、一瞬だから……394番歌(撓うときあらわなるきみのむねのほね吾(あ)はやわら
 かに鳴らしてみたし)に続く性愛の歌なのでしょう。「ふわっとなる一瞬」って男性の感覚な
 のでしょう。その時、緋色の葉っぱが梢からつぎつぎと離れてゆく、そういうイメージが浮
 かぶっていうことだと思います。あるいは、自分が次々に飛んで行く葉っぱになっている感
 覚なのかな。(鹿取)
★実景としてよく分かる歌ですね。心象風景かな。(慧子)
★1首だけ読むと解釈が難しいですね。性愛の歌かも知れないし、次は実景の歌だから。(A・Y)
★歌集として歌を並べる時に意識して、ゆるやかに緋(の葉っぱとは書いてないけど)のイメージ
 から次の歌(耳ぞこに紅葉のごとくひろがりぬうらわかき日のははの呼ぶ声)の紅葉の実景に無
 理なく繋げているのでしょう。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 394

2022-01-04 18:43:41 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


394 撓うときあらわなるきみのむねのほね吾(あ)はやわらかに鳴らしてみたし

    (レポート)
 前の歌に続く性愛の場面のようだが、君が身体を撓わせたとき、思いがけずあらわな胸の骨に気づいて、そのほねをやわらかに鳴らしてみたい、その音色を聴いてみたいと思ったのだろう。(鈴木)


   (当日発言)
★女性の体を楽器のように例えていますね。(慧子)
★俵万智も『チョコレート革命』で自分の体を楽器に例えていましたよね。この歌、上句とてもリ
 アルですよね。下の句は実際に骨を鳴らすわけではなくて、比喩ですね。(鹿取)
★性愛の歌だと分かりますし、優しいですね。(曽我)


  (後日意見)
 当日の鹿取発言「俵万智も『チョコレート革命』で自分の体を楽器に例えていましたよね」は思い違いで、楽器に例えられているのは男性だった。(鹿取)
  生えぎわを爪弾きおれば君という楽器に満ちてくる力あり  俵 万智
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渡辺松男の一首鑑賞 392

2022-01-03 14:14:15 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


392 おそろしきひたすらということがあり樹は黒髪を地中に伸ばす 

       (レポート)
 この歌を読んだ時、能の『定家』を憶った。そのなかに、昔、式子内親王が藤原定家と誰にも知
られてはいけない「忍ぶ恋」をしたが、ふたりの仲は裂かれて離れ離れになって死ぬ。定家の執心は定家葛となって蔦紅葉のように色焦がれて彼女の墓に纏わりつくと、地中の彼女のからだから髪が伸びて、定家葛と絡まる、という下りがある。「おそろしきひたすら」とは、前の歌の「ひとの嬬」を思い、思われる執心のことなのだろう。その執心が黒髪(若き女性の象徴)を、樹の根が水を激しく吸い求めるように地中に伸ばしてゆく。(鈴木)


    (当日発言)
★樹の根っ子というのはほっておくとどこまでも伸びてコンクリでも壊すほどの勢いですよね。そ
 れを黒髪と見ておそろしきひたすらと見ていらしゃるのかなと。(M・S)
★前の歌の「ひとの嬬を吾はおもうなり六月の樹をよぎるとき魚のにおいせり」、次の歌は「黒髪
 にあっとうさるるわれの上にわらわらと解きはなたれにけり」との関連で黒髪が出てくるんです
 よね。だから樹の歌だけど情念とエロスがもろに出ている。(鹿取)
★この歌には根っ子という言葉は出てこなくて、黒髪というどろどろした情念のようなものが出て
 くるのですね。(慧子)
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渡辺松男の一首鑑賞 391

2022-01-02 15:22:18 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


391 ひとの嬬を吾はおもうなり六月の樹をよぎるとき魚のにおいせり

     (レポート)
 「ひとの嬬」を思いつつ樹をよぎるとき、そこから、生臭い「魚のにおい」がした、と詠む。
「嬬」は「雨」という文字を含み、柔弱、かよわいなどの意味もあり、梅雨時の歌の中では、「ひとの妻」ではなく、「ひとの嬬」の表記は的確だ。それが結句の「魚のにおいせり」をうまく喚起している。梅雨時のじめじめした生臭さでもあり、ひと嬬を思っていることの生臭さでもあって、それらが相まって、この歌の気分を高めている。(鈴木)


    (当日発言)
★生臭いと直接言わずに「魚のにおいせり」って言っているんですね。よくこの作者は人の妻を思
 っちゃうんですね。(笑)(真帆)
★「六月の樹をよぎるとき」ってどういうことを言っているのですか?(M・S)
★うーん、前の歌(おおきなる樹はおおきなる死を孕みいてどくどくと葉を繁らせてゆく)と
 関係があるのでしょう。大きな死を孕んでいる樹というのはある意味生臭いですから。それ
 に六月ですから葉が生い茂っているのですね。どちらが先に出来たか分かりませんが、相互
 に関係しているように思います。ところで、「吾は」は音数的にも「あは」と読むのかなあ
 と思ったのですが。(鹿取)
★後の方で、わざわざ同じ漢字に「あ」とルビを振っているんですよ、だからここは「われ」
 かと。(鈴木)
★そうすると初句、二句、結句と一音ずつ字余りがあって、読みにくい。そこがこの歌ちょっ
 と気になります。(鹿取)
★この歌は好きだなあと思いました。(A・Y)
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