かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 401

2022-01-11 18:24:38 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


401 香水のどこからとなく匂いきて遠花火ひらくごとくおもいぬ

      (レポート)
 匂いとは脳内に作用して何か新鮮になる感覚がある。誰かの用いる香水が匂ってきて「遠花火ひらく」ごとき思いになる。地上を離れた懐かしさのようなものだったのか。恋心を詠っていよう。
   (慧子)


    (当日発言)
★香水が唐突な気がしたんだけど、恋人なのでしょうね、相手がちょっと離れたところにいるのか
 な、身じろぎする度に匂うのでしょうか。それとも恋人が訪ねてくる場面で、近づいてくるのを
 匂いで感じているのでしょうか。その嬉しい感じ、期待感が「遠花火ひらくごとく」とたとえら

 れているのでしょう。恋と花火が繋がると中城ふみ子の歌を思いだしてしまいますが、あれは遠
 花火よりももっと強烈な花火ですけど。下句は「われは隈なく奪はれてゐる」だけど上句、ちょ
 っと忘れました。(鹿取)
★「遠花火ひらく」ごとき思いってどんな感じですか?(T・S)
★遠くで色とりどりの花火が開いているイメージですよね。だから憧れかな。中城さんの歌のよう
 に濃厚ではない。(鹿取)


     (後日意見)
 中城ふみ子の歌は次のとおり。
  音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪はれてゐる『乳房喪失』

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渡辺松男の一首鑑賞 400

2022-01-10 17:30:51 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


400 やまざくら抱くさっかくにおちいりて大空のごとく瞑りていたり

       (レポート)
 「やまざくら」とは恋人なのだろう。「さっかくにおちいりて」に、はにかみを込めているのかもしれない。目を閉じて、しみじみそのときを味わったであろう。(慧子)


      (当日発言)
★自分が大空になっているんですね、目をつむって。(T・S)
★やまざくらと大空の取り合わせがいいなあと思いました。でも、「さっかくにおちいりて」がよ
く分からないですね。(A・Y)
★抱いていたのは女性なんですね。でも、里の染井吉野のような華やかなさくらではなくてやまざ
 くらというところがいいですね。ちょっと野生があって素朴で、つんとすましたような都会の桜
 とは違う。それで女性を抱きながら、素朴な山桜をおおらかに包み込む大空のように自分は目を
  瞑っていた。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞 399

2022-01-09 18:26:52 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


399 秘というをきびしきなりとつくよみのひかりよりきよく訪いきしものよ

      (レポート)
 398番歌(われを赩(あか)くしてしまいたるほほえみにそっと体重へらされてゆく)に続き恋の歌と解した。二人の恋をまだ秘めていて、それを「きびしきなり」と相手は言う。きびしきを精神的に研ぎすまされた状態とそんな意味に味わった。いずれにせよ、恋の相手を月の光よりきよく訪いきしものよと神秘的に詠いあげていよう。(慧子)


    (当日発言)
★「きびしきなりとつくよみの」というのが分からないのですが、これはどういうことですか?
   (T・S)
★「つくよみ」は月の古名です。「つきよみ」とも言います。「きびしきなり」は慧子さんは相手
 の言葉ととられたんですが、やってきた相手が言ったともとれますが、まあ、ふたり共通の認識
 なのでしょう。すごーく下世話な解釈をすると前にひとの嬬(つま)を思う歌があったので、そ
 れだと秘めないといけないのでなかなか厳しい状況だと。「二人の恋をまだ秘めていて」という
 慧子さんの解釈の方がきれいですが。(鹿取)
★ところで、万葉集に湯原王という人の「月読の光に来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに」 
という歌があります。湯原王は志貴皇子のお孫さんで、女性に成り代わって詠った歌だというこ
 とです。「月の光を頼りに逢いに来てください、山が隔てるほどの遠い道のりではないのですか
 ら」って意味で、やってくるのは男性ですね。松男さん、この歌作るとき、湯原王の歌が片隅に
 あったのではないでしょうか。松男さんの歌の場合やってくるのが女性で、現代だから月光を頼
 りに来るわけではない。だから「つくよみのひかりよりきよく」です。美しい歌ですね。この下
 句からすると、恋は秘めないといけないという古代的な恋愛観にも繋がって、やっぱり慧子さん
 の解釈の方がよさそうですね。(鹿取)
★「月よみの光を待ちて帰りませ」って良寛の歌がありますね。(慧子)
★あれも、湯原王の歌の本歌取りではないですか。下句は「山路は栗の毬のおほきに」(山道には
 栗の毬がたくさん落ちているから)ですね。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞 398

2022-01-08 18:04:17 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


398 われを赩(あか)くしてしまいたるほほえみにそっと体重へらされてゆく

     (レポート)
 「ほほえみ」の人に作者は赩くなり体重はへるという。赩の持つ生命力あふれるイメージがありながら、「そっと」体重はへる。体の全神経を一点に集中させるとこのようになりうるだろう。恋をしているときの体の不思議な感じが喜びと共につつましく描かれる。(慧子)


     (当日発言)
★「体の全神経を一点に集中させると」というのは、どういうことですか?(鹿取)
★恋に全神経を集中すると心がきゅんとなった。(慧子)
★では、一点は恋ですか。彼女がほほえんだだけであかくなってしまう、そしていつもいつも彼女
 のことがこころから離れないので食欲もなくなって体重も減っていく。(鹿取)
★だれにでもあるようなことをすばらしい歌にしていますね。
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渡辺松男の一首鑑賞 397

2022-01-07 16:53:12 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


397 細き君おともなく来てありつるを鮠(はや)のごとしとおもう夕映え

     (レポート)
鮠は細長く流線型をした小魚。夕映えのなかを音もなく現れるスリムな君は、まるでこの鮠のようにすばしっこいひとだと思う。現実に目にしているのではなく、夕映えの中に幻視のように立ち現れるのかもしれない。(鈴木)


   (当日発言)
★「女の子は鮠…」って歌がどこかにありましたよね。(鹿取)
★私はすばしっこいとは思わなくて、鮠のように細い、夕映えのように綺麗な人。(曽我)
★おともなくだからお上品な人。それを鮠のようだと例えている。(M・S)
★枕草紙の「すさまじきもの」に「ありつる文」って出てきて、それは先ほど自分が使いに持たせ
 た手紙なんだけど、留守だったり物忌みだったりして持ち帰ってきたって場面があるのですが、
 「さきほどのあの手紙」ってすごくリアルで、「ありつる」って完了だから、さきまで傍らにい
たというまざまざと気配が残っている感じと読みました。鮠のようだったのはすばしっこく居な
 くなったからか、傍にいた時のほっそりしたみずみずしい感じなのか、その辺迷いますが。鮠の
ようだった女性の余韻を美しい夕映えのなかで味わっている場面。(鹿取)
★じゃあ、実際いたんですか。(鈴木)
★ええ、歌の上ではそうですね。君という人があっという間に来て去っていく歌もありましたね。
  (鹿取)
★幻視かもしれないというのは、それでも残りますね。(鈴木)


  (後日意見)
 当日の鹿取発言の「女の子は鮠…」は、第2歌集『泡宇宙の蛙』にある歌だった。(鹿取)
   おんなのこは鮠(はや)おとこのこは鯰鯰のゆめはどきどきと鮠
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