漸くの想いで 『五能線』に乗車したのは旅の最終日(3日目)でした。 1日目と2日目は、東北の城下町「鶴岡」と「酒田」へ。ただ、短時間の滞在でしたから、多くの名所旧跡は巡り歩けませんでした。簡単な印象記述にとどめますが、「鶴岡」は端正な佇まいの地方都市。『致道館』で1日に16時間も学んだ生徒達の真摯な姿勢に襟を正される思いでした。藤沢周平記念館はまだ完成せず、今年の4月29日が開館予定日だそうで、”海坂藩”へは何れ日を改めて、訪れたいと思います。
(致道館入口)
「酒田」はかって商都市かつ港町として賑わいを見せた都市。今は「山居倉庫」にその名を残します。あちこちに「店舗売ります」の看板を見かけ、地方都市衰退を目の当たりにし、厳しい現実を再認識するのでした。
(山居倉庫)
(本間家旧本邸)
「本間家旧本邸」では、本間家3代目の光丘の志高い樹林事業を知り、感動しました。 この日も猛烈な吹雪。猛烈な寒さの中の散策と見学でしたが、何処を訪れても若い方々が親切で、初々しく丁寧な応対。心地よい印象で酒田を後に秋田へと向かいました。
1月23日(土)、漸く秋田発8時25分の「リゾートしらかみ1号」に乗車。この「しらかみ1号」はここ秋田から青森までを5時間7分掛けて結びます。しかし正確に記すとまだ「五能線」乗車ではありません。秋田→東能代間は奥羽本線の上を走り、東能代→川部間が五能線、弘前→青森間で再び奥羽本線上を走ります。
(レゾート しらかみ)
(しらかみ1号は ブナと命名)
(東能代が五能線の起点です)
秋田で乗車し、座った席は進行方向右側。「え!」と思いました。この席は”海がわ”では無いのです。おかしいと思い、早速車掌さんに聞いてみました。「東能代でスイッチバックがあり、そちら様の座っている席が海がわになります」を聞いて一安心。
8時25分漸く出発です。目的の「リゾートしらかみ」に乗車出来、いよいよ冬の日本海の荒涼とした風景を堪能できるかと思うと気持ちが昂ります。私たちが乗車したのは3号車で、東能代までは先頭車となりますから、早速運転席の直ぐ後ろに陣取りました。座り易い腰かけ椅子が備付けられていて、そこに座って暫し風景を楽しみます。辺りは一面雪に覆われ、白一色の平野が続きます。前を見ると、線路がただただ一直線に、長く長く延びているのでした。 「東能代」で進行方向が逆になり、私たち3号車は最後尾となります。この「しらかみ号」幾つかのイベントが用意されていて5時間以上の乗車に飽きが来ないような様々な工夫がされていました。「五能線」に入って最初の停車駅「能代」ではホームに降りて、バスケットのフリースローが出来ました。見事籠に入れば商品がGET出来ます。私も投げましたが、無情にもボールは籠の外へ。僅か5分の停車、慌ただしく出発進行!です。 (
次の停車駅「あきた白神」では「あきた白神駅観光駅長」の今井昌子さんがお出迎え、とパンフレットに書かれていましたから、デジカメを持って慌てて駅舎改札口まで移動。秋田美人をバッチリ撮影出来ました。
(あきた白神にて)
ここから先の「千畳敷駅」までが絶景ポイントです。撮影を狙う人々の動きが激しくなり、車内も騒然としてきました。列車は速度を落としての運転に変わりました。時速20kmほどの超ノロノロ運転で、景色をゆったりと眺められるようにとの配慮です。海の色が黒のみでは無い事に気がつきました。蒼みを帯びた黒です。雪と波しぶきの白と、海の蒼みを帯びた黒、景色の色はその2色のみのコントラストがどこまでも続くのでした。
(車窓からの日本海)
(荒涼たる風景が続きます)
鰍ケ沢を過ぎると「間もなく1号車で津軽三味線の生演奏が始まります」との車内放送が流れ、1号車へと急ぎました。年配の方とお若い方の2名による生演奏が始まりました。直ぐ前で聞き入りました。凄い迫力です。特にお若い方はある大会2連覇を成し遂げたとか。年配の方が謡った民謡も哀調を帯び、万雷の拍手受けました。
(車中での津軽三味線演奏)
生演奏が終わると間もなく「五所川原」到着。列車から「津軽鉄道のりば」の看板と駅舎が見え、列車も微かにその姿が望めます。太宰の故郷「金木」はこの沿線にあります。
(津軽鉄道のりば)
太宰だけでなく、高校時代の教え子Fさんの故郷「小泊」(今は町村合併で中泊と)もこの鉄道沿線にあります。中学を卒業直後、故郷を後にしたFさんのみならず、下北半島の脇野沢から、定時制高校を卒業した昭和43年に上京したSさんも青森県の出身。なんと遠くからの、希望と不安の入り混じった上京であったことかと、はるけくも来た旅の空から、感情移入してしまいます。旅は感傷旅行でもありました・・・。 列車は「川部」で五能線から奥羽本線となり、進行方向を変えて弘前まで。弘前からは再度進行方向を変え、一路青森駅を目指し、13時32分青森に到着し、5時間7分の長旅を終えました。 青森から「特急スーパー白鳥」で八戸へ。八戸から魚市場「八食センター」へ向かうバスの中から、なんと夕陽が見え始めました。日本海へでは無く、山の端へと沈みゆくオレンジ色の夕陽でしたが・・・。どんよりとした雲と吹雪に閉じ込められた日本海側から太平洋側へとポジションを変えた旅の終わりに、夕陽に巡り合え、Tさんも満足そうでした。