マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『月下美人はなぜ夜咲くのか』(著:井上健 出版:岩波 科学ライブラリー)を読む

2012年05月18日 | 読書

 このブログで何度か月下美人のことを話題にして来ました。月下美人が咲いた夜がいずれも満月に近かったことから、満月と関連あるかの様な予測を立てたこともありましたが、それは誤った予測だったらしい事に気が付き始めていました。岩波ライブラリーから「月下美人はなぜ夜咲くのか」が出版されている事を知り、読んでみました。

 話の内容は「送粉生態学」についてでした。植物は子孫を残すためには、動けない花粉を雌しべの柱頭に送りこまなければなりません。動物に花粉を運ばせるために、植物は”広告”と”報酬”で動物を惹きつけます。植物は花の色彩や匂いを工夫して、自らを最大限にアピールします。これを「送粉生態学」の専門用語で”広告”と言うのだそうです。
 一方、植物が動物に与える”報酬”としては、花蜜・花粉・花の油など物質的なものと隠れ場所・交尾場所などの空間があるそうです。
 この”広告”と”報酬”を巡っての花と動物の”駆け引き”などを研究する学問を「送粉形態学」と呼ぶようで、この本の前半は月下美人はまったく登場せず、送粉の話が延々と続きます。

 後半に至っても月下美人は登場しません。この冊子は僅か109ページの本なのですが、漸く80ページに至って漸く登場し、それも写真1ページに本文2ページの合計3ページのみです。
 大凡次の様に書かれています。
 『月下美人はクジャクサボテンの仲間で、自生地は中南米の熱帯雨林。月下美人の送粉者についての報告はまだないがコウモリによって花粉媒介されていると思われます』と。
 そこまでの話がかなり実証的であったに反し、推定的な話です。熱帯ジャングルで生息する植物はコウモリに花粉媒介を依存しているものが多く、それらの花の特徴の共通点として、夜間に強い匂いを放出するなど月下美人もこうした特徴を持つことから、月下美人の送粉者をコウモリの可能性が強いと想定しているのです。コウモリを相手にするのであれば夜咲くのが相応しく、『月下美人は本来育った環境での習性を今日にいたるまで残している』故に、遠く離れた日本でも夜咲くのだろうと、ほぼ断定したのでした。その論理は理解できましたが・・・。

 より多くのページを割いての説明が為されると思っていましたから「月下美人」について3ページのみの説明は期待外れでした。この本の題名の”甘い花粉”に惑わされてやって来たが蜜はなく、騙されただけで去るミチバチにも譬えられる私の気分でした。