8月歌舞伎座「納涼歌舞伎」の第二部は「京人形」と「ひらかな盛衰記」。二部の演目の中心「ひらかな盛衰記 逆櫓」を観るのは初めてだったので少し下調べをしてから出掛けた。
「ひらかな盛衰記」のネット上の説明では、次の説明が要を得て一番分かりやすかった。≪『平家物語』・『源平盛衰記』等を題材とする浄瑠璃の代表的作品の一つ。木曾義仲とその遺児・遺臣の物語を中心に、梶原源太をめぐる逸話を加えて構成されている。好評のため、歌舞伎にも移され、三段目「松右衛門内」から「逆艪」の段がしばしば上演される・・・≫と。
その「逆櫓」の主人公の船頭松右衛門を演じるのが中村橋之助。NHK大河ドラマの毛利元就役で初めて橋之助を観たのはもう18年も前のこととなる。いかにも歌舞伎役者といった顔立ちで、30歳前半という若さだった。その後一昨年立て続けに新橋演舞場で2本観た。『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』と『男女道成寺』ではその存在感が際立っていた。 さて
「逆櫓」の前半の筋立ては入り組んでいるので、はしょる事とします。摂津国に住む船頭松右衛門は、逆櫓(船をバックさせる事。又はその装置)という船の操作術使いの名人権四郎(坂東彌十郎)家へ、密かな目論見があって入婿しています。実は松右衛門は、義経に討たれた義仲の遺臣樋口次郎兼光(今井兼平の兄)で、亡き殿の仇を討たんと機会を狙っての事でした。
今やその技をマスターした松右衛門のもとへ逆櫓の技術を教えて欲しいと若い衆4人がやって来ます。訓練を終え陸に上がったとたん、若衆たちは松右衛門に襲い掛かかり、激しい闘いが始まります。松右衛門の“面は割れていた”のでした。各々手にするのは船を漕ぐ櫓です。(写真:左橋之助、右権四郎役の坂東彌十郎)
イヤホンガイドは逆櫓の説明に時間を費やします。技術的な面は、実際に観るほうが良く分かります。船をバックさせるために櫓を普段とは逆に、支点を船の前方にも置いて漕ぐのです。
義経が摂津国の渡邊津に軍を進めたときの軍議で、梶原景時は、「船のへさきにも櫓を付けて、どの方向へもたやすく転回出来るようにしたい」と“逆櫓”を進言します。それに対して義経は、「はじめから逃げることを考えては縁起が悪い」と景時の意見を退けた。・・・この辺のくだりは『平家物語』で読んではいましたが、全く忘れていて、イヤホンガイドが有難いことです。
閑話休題
さて切り合いは刀ではなく櫓です。全て様式化された絡み合いで、やはり立ち回りが観ていて一番楽しい場面です。癇筋(かんすじ。隈取の一種)をした橋之助の面構えが堂々としていて風格を感じます。最後は捕らえられ縄を掛けられ消えてゆく橋之助に、大きな大きな拍手が湧きました。