赤坂名物のミイラ薬
2019.9
ミイラは薬だった
江戸時代の赤坂に、ミイラを薬として売っていた生薬屋がありました。
安い価格で売り出したので、よく売れたとのことです。
ただし、本物のミイラではなく、偽物を安く売ったのでしょう。
ミイラ、古代エジプトで作られたものが、中近東、中世・近世ヨーロッパで、薬として広く用いられていました。
往事のヨーロッパの立派な薬局には、ミイラが、本物を扱っていますよ、とばかりに、飾ってあったそうです。(Medicinal Cannibalism in Early Modern English Literature and Culture by Louise Noble 2011)
それが、オランダ船を通じて、長崎に伝わり、江戸でも、ミイラを薬として用いるのが流行ったようです。
ミイラは、貴重品であったので、当然の様に、偽物が現れたようです。
その一つが、赤坂のミイラです。
ミイラに薬効があるのかは、面白い問題ですが、ここでは、考察しません。余りにも、面白すぎるし、膨大な文章となるでしょうから。
私が、ミイラや、人体の一部などが、江戸時代に、薬として用いられていたのではないのか?との疑問を持ったきっかけは、貝原益軒先生の「大和本草」の、一文からです。
ミイラの項に「・・・ミイラは人肉なり。人肉を用いるものは、人を以って人を食う。仁厚の事にはあらず。たとえ功効が有れども、君子の為すに忍ばざるところなり。いわんや、右に記す所の功効悉く信ずべからずや。・・・」とあります。
ミイラが、ヨーロッパで広く用いられたのは、以前から常識として知られています。また、中国や朝鮮では、人体を薬とするのは、いわば伝統的なことです。特に、李朝期には、人肉、人骨、人血を、多くの事に用いられていました。つい先年も、韓国で、人肉カプセル事件がありました。これは、表面化しただけですから、実際は、相当のことが、現在でも行われていることでしょう。
しかし、日本では、このような事は、ほとんどないであろう、と私は思っていましたの。それで、益軒先生の文章には、驚きました。
それから、ミイラも、日本でも、医薬に用いていた文献を捜しました。すると、ありました。
そのうちの一つが、「八十翁昔話」 (新見正朝、天保8年・1837年出版)です。
この「八十翁昔話」の本来の題名は、「八十翁疇昔話」ですが4番目の文字は、今では使われない漢字ですので、いくつかの文献には、「八十翁昔話」の題名で出てきますので、私もそのようにしました。ただし、「八十翁昔語」等としているのもあります。
この、「八十翁昔話」の本文の各項が、すべて、「昔は」で始まっています。
「八十翁昔話 前編」
以下、本文
昔、6・70年以前(延宝、天和)、「みいら」という薬が大いにはやった。大名や偉い人達も飲み、下々も飲んだ。痞(ツカエ)に能く、虚症を補い、脾腎を調え、気力を強くし、食べ過ぎその他にも良いとして、飲まない人は無かった。
方々の薬種屋でも売っていた。
「赤坂みいら」と言って、赤坂に大坂屋と云う生薬屋(きぐすりや)が、安く売っていた。皆、調整して飲んでいた。
代金は、長崎屋等では、二十双三十双などで、売っていた。十五双斗のもあった。
ところが、「赤坂みいら」は、五双三双で売っていた。(編者注:この文からは、重さいくらに対して
金銭がいくらというのが、はっきりしない。)
何か、生薬2・3種類に松ヤニで練ったような薬であった。
病気には、効かず、また副作用も無く、何の益も無い薬であった。
七、八年たって、人気が無くなり、だんだん売れなくなった。
以上
その後、「なかみ」、「黄精 おうせい:ナルコユリのこと」、「なたまめ」等が流行ったとも、述べられています。
その後、4・50年以前、「なのみ」という薬は、酒にて飲んだ。「なのみ」薬と名づけられて呑んだ。
また、三・四年以来、「黄精(おうせい)」を諸病に良いとして、呑んだ。身を養う薬であった。
流行ると、すぐに廃れた。
又、近年「なたまめ」が・・・流行った・・・
等々と、述べています。
以上
江戸時代も、今も、健康に良い、というのが、流行ったり廃れたりしたのですね。
しかし、「ミイラ」を薬として飲みたくないですね。
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