比江(ひえ)の怪鳥 「土佐風俗と伝説」天狗怪禽
2024.6
今は昔、江村老泉(名は、重胤)が若かりし時、ある年、藩主の江戸への參勤の供をして長岡郡比江村(国府村)に宿った時のことである。
ある農家に泊まって、夜更けて厠に行った。
農家の習いとして、厠は、本宅を離れた所に、大変大きく造ってあった。
厠の戸の中に入ろうとする時に、何やら大きなるものが飛び下りる影が見えた。
それは、やがてこの厠の屋上にとまって身を震わせたので、地震の様であって、この厠が今にも崩れそうになった。
もし、その何者かが蹴破(けや)ぶって入って来たらば、一太刀あびせようと脇差を抜いて待っていた。
しかし、一向に来る様子もなく、又地上に飛下りた。
江村は、うづくまりながらのぞき込んで、出てくる所を捕まえようとした。
大きな鳥が、こちらの方を睨んでいるのが、かすかなる月明かりで見えた。
なお、静かにしてうかがっていると、獲物がとれないと思ったのであろうか、飛び上がっていった。
何所に行ったのか、行方が、わからなくなった。
このような鳥のことを、この地では、大鳥と言う。大鷲の類(たぐい)であろう、と言う。
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