尾さき狐
2024.9
尾さき狐は、いかなるものであるかと、問われたが、再び答えよう。
尾さき狐は、上野・下野に多く、戸田川を界として、江戸には、絶えて入ってはいない、と云う。
その形は、イタチに似て、狐よりは小さい。尾は極めて太いが、尾先(おさき)が裂けて分かれているので、尾さきの名があるのであろう。上毛下毛(群馬栃木)にのみに限らず、武蔵であっても、北の方には、この獣がまれにいる。ともすれば、人の家につくことがあると云う。
一たび憑いた家は、それまで貧しかったとしても、豊かになった。しかしながら、そのひと一代かぎりであって、或いは、その子の代に至って、衰えないことはない。
それが既に憑いた家が、年々豊かになるままに、狐の種類も次第に増えて、群れ集うこと、限りがなかった。
もし、その家の、娘なるものが、他の村に嫁入りする事があれば、尾さき狐も相わかれて、婿の家に憑くと云う。
「曲亭雑記」広文庫 より
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