猫ばけて女となる
2022.7
ある旗本が、娘の世話をする女性を探した。
そして、谷中の法恩寺の内にある教蔵坊のあっせんで、年増の局(つぼね)を、召し抱えた。
文字もきれいに書き、和歌も少し心得ていた。
物腰も、上品であったので、長年、仕えさせていた。
ある夜、主人が、娘の部屋をのぞいたが、娘は寝ていた。
その局は、独りお歯黒(鉄漿)をつけていたが、口は耳の根まできれて、耳は尖っていた。
これはどうしようか?とは思った。
しかし、もし打ち仕そんじては、まずいことになると思った。
そこで、夜が、明けるのを待って、かの局(つぼね)を呼び出した。
「思う子細があるので、暇をとらせる。」と話した。
すると、
「これは、思いがけないことでございますね。
なんで、このような事を、おっしゃるので、ございますか?」
と大変な恐ろしい顔で答えた。
それで、刀で、いきなり抜き打ちにした。
はたして、その死体は、大きな年ふりた猫であった。
その猫の書いた伊勢物語、その外、草紙なども多く、今に残っているとのことである。
新著聞集より
編者注:
この法恩寺は、1695年(元禄8年)に、墨田区に移った、とある。
すると、この話の成立時期は、江戸幕府の成立した1603年から1695年(元禄8年)の間の、出来事であることになる。
これも、化け猫の物語の一つ。
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