㉔ 社風と企業風土 「ビッグモーターがトンデモ事件をおこした。」
ほとんどの同業たちは、真面目に経営努力をしている。迷惑な話だ。そこで、社風と企業風土。これは同義語としたいところだが、社風はオーナー社長など先人経営者が構築する当該企業の理想。企業理念とも言える。以前は、社是とか企業スローガンとして発表していた会社も多い。典型的なのは、「お客様と栄える」とか「お客第一」など顧客向けの場合と、「自由闊達」とか「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる。」などと社員向けの場合もある。
一方、企業風土は、会社が年数を経て他社にない独特の企業の雰囲気・慣例などが企業内に息づく様(さま)を言う。風土とはまさに知らず知らず内に慣習の積み重ねであたかも当たり前の常識の様に構築される。当初、社風と風土はともに違いはないはずだったが、理想としての社風が建て前となって特殊な企業風土を産む。
分かりやすく言うと、「わが社は自由闊達な社風だ。しかし社長の力が強いので意見具申はしない企業風土が出来上がった。」などと言うことになる。それは企業文化ともいう。文化とは和風文化や平安文化などと芸術や宗教などの精神文化にも及ぶ高尚な意味でつかう時もあれば、「夜這い」や「奇祭・風習」などの地域特有の民俗学的文化でも言う。それが企業文化と言ったとたんに、正規の手続きを踏まず判断を行うとか、なれ合いによる企業運営の元凶となる。まれに不正行為の正当化まで行ってしまう。それも企業文化だと言うこともある。
本来目指す「社風」とは高い理想を掲げているはずだったのが、企業利益や個人の出世栄達を目的に手段の正当化が企業風土に隠れて行くのである。程度の差こそあれどの企業もまぬかれ得ない道筋なのだ。かの中古車販売の会社も後発ながら業界に大きな影響を及ぼすほどに発展する過程で「社風」とは違う「文化」を産んだのだ。高いに目標にチャレンジするという理想は、いつからか達成不可能な無茶な目標設定になり、手段を選ばない「文化」となってしまった。事件になるその瞬間まで目標へプレッシャーをかけることに何の疑問もなかったはずだ。今頃、その愚かさに気づいたかも知れない。しかもその文化に共感できない社員には即刻退職を勧めていたらしい。これにも何の疑問もなかっただろう。誰しも嫌な会社にはいなくても良いのである。しかし多様性を失くした組織に自浄作用は働かない。会社は好き嫌いではなく自分の能力を発揮し自己実現する場であるはずだ。少なくとも辞める自由は社員にあるが、排除の強制は企業にはない。秩序を乱すことがないなら、異質な社員こそがけん制機能として必要な時もあるのだ。
そこで、ガバナンスと言われるけん制機能が期待される。この度の事件は未上場とはいえ保険業界・中古車販売・車検業者などへの信頼を損ねただけでなく、絶対的オーナーへのけん制について警鐘が鳴らされた。規制の緩い未上場企業にもガバナンスガイドラインが厳しく運用される画期となる事件だろう。なぜならば被害者はオーナーではなくお客と従業員なのだから。