95番 広隆寺
京都市右京区太秦蜂岡町32
山号 蜂岡山
宗派 真言宗単立
本尊 太子像
開基 秦河勝
別称 蜂岡寺 秦公寺 太秦寺
京都のお寺が大好きだ。おすすめ一番はここだ。
京福電鉄嵐山鉄道、通称「嵐電」本線の広隆寺駅の前に大きな山門が見える。嵐電は京都の街並みにすっかり溶け込んでいるので、古風なお寺の前を電車が横切っていても全く違和感なくむしろ京都の風物詩とも言える。下に路線図を貼りつけるが、駅名を眺めるだけでワクワクする。
さて、このシリーズでは大寺院である清水寺や東寺などは取り上げず、一般にはなじみは薄いが重要な寺院を中心に書いている。ただ今回の広隆寺は誰もが知る大寺院である。国宝指定第1号の弥勒菩薩半跏像で有名だ。言うまでもなく聖徳太子創建の太子信仰の中心寺院である。現在の本尊は、その太子像となっている。
しかし開基は秦河勝という人物である事は余り知られていない。秦氏の事実上の祖である。太古の日本は秦氏をはじめとする高麗氏、小野氏、土師氏、八坂氏などの唐や半島からの渡来人の高い技術のお陰で発展した。中でも秦氏は織物の技術を中心に太秦地区を中心に山城地域の開拓に貢献した。太秦「うずまさ」は、うずたかく積み上げられた織物を現わす言葉である。おそらく中国や朝鮮半島の政争に敗れ苦難の末、日本に渡って来たのであろう。その結果古代朝廷の発展に貢献したのだ。その秦氏と聖徳太子との深い関係が伝わるのが広隆寺である。
本堂奥の「霊宝殿」に安置される国宝仏像の豊富さに驚く。展示されないものも含めると、9個の国宝、34個以上の重要文化財を保有する。詳しい由来はさて置いて講堂本尊の阿弥陀如来坐像の存在感や弥勒菩薩の美しさにしばらく浸っていたい。今回訪問したのは、11月22日お火焚き祭の日であった。
その日は、聖徳太子の御命日という事で、太子への供養と信者たちの願いを込めて護摩木を燃やして、祈祷を行う。ちょうど紅葉の季節の真っただ中で、境内の鮮やかな紅葉も同時に楽しめる。昼過ぎに本堂では丁重な法要が行われる。その後、管主を先頭に山門の前に備えられた護摩壇に火が点けられる。その際の修行僧たちの所作の美しさと、注目すべきは管主様が美しい女性であることだ。古代の尼御前の醸し出す清廉な美しさはこのようなものであったかと思う。
そしてその日だけ秘仏の聖徳太子像が御開帳される。本堂での読経の後、順番に一人一人戒壇内に通してもらう。童形の太子像は普段閉じられているので鮮やかな彩色も残っているように見えた。その感動だけでもこの日訪ねる価値がある。
その後、御火焚きの方にまわって、写真にあるようにご利益を頭に頂いて、帰路についた。このように京都の寺はなるべく重要行事に合わせて訪ねて行きたい。因みに、こちらの境内社の大酒神社では、京都三大奇祭の一つ「牛祭」があり、10月12日に異相の仮面をつけた神様が牛にまたがり、周囲を赤鬼・青鬼が松明をもって巡行する。そして薬師堂の前で祭文を読み上げると周囲の参詣者から一斉に悪口雑言が浴びせられ神様たちは急いで堂内に逃げ込むと言う奇祭だ。残念ながら、是非見てみたいと思うが現在はしばらく行われていない。京都にはまだまだ解明されない奇妙な行事や風習がいっぱいあるのだ。