このほど完結した劉慈欣『三体』シリーズを一挙読破しました。大体5時間くらい。
日本のSFで1番近いのは、小生の見るところでは光瀬龍『百億の昼と千億の夜』ですかね。
『百億の〜』は思弁的な描写が多いので、SF度合いは薄めですが。
さて、『三体』日本語版は全部で5冊。
ヒューゴー賞に相応しい作品ですし、若干女性の造形が甘いのは洋の東西を問わないSFの宿痾だと思うのでそこはある意味仕方ないです(特に2人目の主人公の妻になる女性が、まるでモテない理系かつヲタク系男子の妄想そのものなのがまあご愛嬌)。主人公格の三人が全て中国人ですが、これはもちろん中国SFですから当然。その他の登場人物が中国人ばかりと言うこともないので、アメリカ育ちの華人4世あたりが書いたとしても違和感ない感じです。
SF的要素を抜いても多分、中国文学として金字塔を打ち立てたと言って良いでしょう。
絶賛する方が多いのも納得ですし、『ファウンデーション』シリーズや『2001年宇宙の旅』シリーズと並べてもさして遜色ない傑作だと思います。
異星人の性格や行動が些か低劣、と言う声もアマゾンの書評で目にしましたが、まあ文明が進んでいるからといって地球人的尺度において民度の高い民族になるかというとさにあらず、なのは世界史をかじった方ならご存知の通り。
人類と敵対する宇宙人は意外に近くの星系に住んでいますが、そりゃ種族まとめてああなるよなぁ、な過酷な環境で、種族には何ら責任のない特有の事情によって文明崩壊を数多く繰り返して進歩した種族ですし。
超絶的な種族(魔法と見分けがつかないような科学で、恒星系など小指一本で滅ぼしてしまうような)は意外にあちこちを彷徨いていますが、何というか色々な恒星系に発生する知的種族を畑の害虫くらいにしか捉えていないようです。
ただ、手放しに褒め称えられるかと言うと・・・・・・
小生がこれまで読んだ中で1番読後感が近いのは
です(流石に『資治通鑑』原本を素読できるほどの漢文の素養はないです)。
率直にいえば、筆者は何処かで人類の悟性や善性、あるいは宗教的救済に対し、素粒子どころかクォーク1個ほどの信頼も期待も置いていないんだなぁ・・・・・・・と。
同じ設定を思いついたとしても、西欧人や日本人には絶対に書けない作品ですね。
(欧米文化で育った白人なら恐らく一神教的救済を何処かで意識するだろうし、現代日本人は何処かで全ての人間や宇宙人は本質的に善だと信じている)
多分、今のところ作者・劉慈欣氏が当局に逮捕されたという報道はないので、中国共産党はこの小説を認めたと言うことになります。
全ての文芸活動が直接政治的意味を持つ中華文明において、このことが持つ意味は極めて重大です。
ディストピアだよなあ。