少数派シリーズ/政治情勢
牧原出教授(菅政権評)2◇コロナ対策は官邸集中主導では機能せず・地方の意向重視を
■菅首相のコロナ対策で見えたこと「安倍政権で見過ごされていた問題が菅首相になって浮かび上がった」
牧原出教授の毎日新聞インタビュー記事・その2回目です。8.31付夕刊/「外交は政治家同士の交渉術だし、経済は詰まるところお金の問題です。でも内政の問題である新型コロナは、外交や経済のように交渉や金銭では解決しない。にもかかわらず、同じ官邸主導のトップダウンで打開しようとするから失敗する。7年半に及んだ(第2次)安倍政権で見過ごされていた問題が、菅首相になって浮かび上がったのです」と牧原さんは話す。55年体制の自民党政権時代は、官僚主導の政治スタイルだったといわれる。各省庁の国家公務員が政策を立案し、自民党政権を下支えする統治のあり方だ。そもそも、官僚主導が、なぜ政治主導に変わったのか。1993年に非自民の細川護熙・連立政権の成立で自民党が下野した後、再び政権を奪回した橋本龍太郎内閣(96~98年)の功績が大きい、と牧原さんはみる。橋本首相は首相直属の「行政改革会議」を設置し、自らその会長となって行政改革を進めた。「おそらく橋本首相は、自民党を政権与党として立て直すには、政治主導型の統治を目指さなければいけないと考えていたのでしょう」。
政治主導型の政治はその後も踏襲され、小泉純一郎政権(01~06年)は「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズに、政治主導で経済政策を進めた。更に政権交代で民主党が実権を握ると、政治主導の統治スタイルは決定的になった。民主党最後の首相となった野田佳彦政権(11~12年)では、政治主導で消費税の増税を含む税と社会保障の一体改革関連法を成立させている。選挙を経た政治家が国民の意思を反映させる政治主導の統治は、今や政党を超えてスタンダードとなっている。その政治主導の系譜を受け継ぎ、より内閣に権能を集中させた官邸主導型の統治スタイルを取ったのが、民主党から政権交代した第2次安倍政権だった。
■これからは住民の意向をくみ取る政治・『災厄後』の政治のあり方が問われている
ただ、その安倍政権でも、発足当初は官邸主導だけではない統治のあり方も機能していた、と牧原さんは言う。「安倍首相の対抗馬として総裁選に出た石原伸晃、林芳正の両氏を入閣させ、石破茂氏も幹事長に起用しました。再び下野しないように『オール自民党』でスクラムを組み、官邸だけでなく、より幅広い意見が集まる環境がそろっていたんです」。しかし、そうした閣僚や党幹部も、刃こぼれするように政権から離れていった。「長期政権の弊害ですね。結束が失われ、徐々に人材が先細りして側近政治のようになってしまった。その限界が来たところに官房長官だった菅氏が首相に就任し、側近も一人一人離れていって、菅氏を誰も支えられなくなっています」。追い打ちをかけるようにして今、政権には新型コロナ対策が突きつけられている。だが、官邸主導の菅政権は有効な手立てを示せてはいない。
むしろ今は小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事など、地方のトップが存在感を発揮しているようにも見える。「新型コロナ対策に地方で取り組む知事も政治家です。知事だって有権者に選ばれたリーダーですから、官邸が頭ごなしに政策を進めることはできません。内政の問題は、官邸主導の集権的な政治システムだけで処理するのは難しいという課題が浮かび上がっています」。新型コロナ対策は、私たちの生活に直結し、私たちが最も政治の力に頼りたい難題でもある。牧原さんは今、政治の転換期を迎えていると指摘する。「東日本大震災で『災後』の政治のあり方が問われるようになりました。でも、新型コロナでまた変わりましたよね。新型コロナは『災厄』です。その厄を、どう落としていくのか。社会的距離を取る人間関係から、もう一度、絆を取り戻すために、より住民の意向をくみ取る政治が求められています。これまでの政治スタイルとは異なる『災厄後』の政治のあり方が問われているのです」。
<プロフィール> 牧原出(まきはら・いづる)さん
1967年、愛知県生まれ。東北大教授を経て東京大先端科学技術研究センター教授。専門は行政学、政治学。著書「内閣政治と『大蔵省支配』――政治主導の条件」(中央公論新社)でサントリー学芸賞。他にも「『安倍一強』の謎」(朝日新書)など。
投稿タイトル付けは、新聞の原題・原文に基づいて投稿者が行ったものです。
投稿者からのひと言/コロナ対策は、地方の声(実情)を取り入れるべきだ。安倍政治になってから、国民の声を聞かなくなった。同じ自民党議員でありながら、党内論議がなされない。異論を挟めば、選挙区公認されない。官僚も、飛ばされる。安倍・菅政治の欠陥は、世間からずれた官邸だけの声を聞いていたこと。菅首相も辞任に追い込まれて、初めて小泉進次郎氏と4日間もしみじみ世間の実情の会話をしたとのこと。「アホかいな!」(関東人だけど・笑)。強硬な菅流人事を行った結果、周りに誰もいなくなる。今更、小泉氏に聞かなくても、毎日のTV情報番組を見ていれば分かること。国民は舐められましたね、もっと怒らなきゃ!(正しくは選挙で意思を示すこと)。コロナ禍になり、知事の能力の違いがまざまざと露呈した。投稿者は東京在住だが、23区の区長でもコロナ対策や五輪開催の問いに、区民のほうを向いている真面目な区長、逆に常に「上」ばかりを見ている”ヒラメ区長”がいた。各地で、首長の「有能・無能」が見えてきた。終わりに牧原氏は全国の知事が台頭してきたことを仰りたいと思うのだが、小池都知事への評価はいただけない(苦)。「東京無策」によって、次に追い込まれるのはこの方だ。五輪が終わった途端、腑抜けになってしまった。つまり心(しん)からのコロナ対策ではなく、何とか東京五輪を開催するための見せ掛けのコロナ対策だったことが明確になった。
前編|牧原出教授(菅政権評)1◇コロナ対策は官邸主導型のトップダウン政治と相性が悪い
牧原出教授(菅政権評)2◇コロナ対策は官邸集中主導では機能せず・地方の意向重視を
■菅首相のコロナ対策で見えたこと「安倍政権で見過ごされていた問題が菅首相になって浮かび上がった」
牧原出教授の毎日新聞インタビュー記事・その2回目です。8.31付夕刊/「外交は政治家同士の交渉術だし、経済は詰まるところお金の問題です。でも内政の問題である新型コロナは、外交や経済のように交渉や金銭では解決しない。にもかかわらず、同じ官邸主導のトップダウンで打開しようとするから失敗する。7年半に及んだ(第2次)安倍政権で見過ごされていた問題が、菅首相になって浮かび上がったのです」と牧原さんは話す。55年体制の自民党政権時代は、官僚主導の政治スタイルだったといわれる。各省庁の国家公務員が政策を立案し、自民党政権を下支えする統治のあり方だ。そもそも、官僚主導が、なぜ政治主導に変わったのか。1993年に非自民の細川護熙・連立政権の成立で自民党が下野した後、再び政権を奪回した橋本龍太郎内閣(96~98年)の功績が大きい、と牧原さんはみる。橋本首相は首相直属の「行政改革会議」を設置し、自らその会長となって行政改革を進めた。「おそらく橋本首相は、自民党を政権与党として立て直すには、政治主導型の統治を目指さなければいけないと考えていたのでしょう」。
政治主導型の政治はその後も踏襲され、小泉純一郎政権(01~06年)は「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズに、政治主導で経済政策を進めた。更に政権交代で民主党が実権を握ると、政治主導の統治スタイルは決定的になった。民主党最後の首相となった野田佳彦政権(11~12年)では、政治主導で消費税の増税を含む税と社会保障の一体改革関連法を成立させている。選挙を経た政治家が国民の意思を反映させる政治主導の統治は、今や政党を超えてスタンダードとなっている。その政治主導の系譜を受け継ぎ、より内閣に権能を集中させた官邸主導型の統治スタイルを取ったのが、民主党から政権交代した第2次安倍政権だった。
■これからは住民の意向をくみ取る政治・『災厄後』の政治のあり方が問われている
ただ、その安倍政権でも、発足当初は官邸主導だけではない統治のあり方も機能していた、と牧原さんは言う。「安倍首相の対抗馬として総裁選に出た石原伸晃、林芳正の両氏を入閣させ、石破茂氏も幹事長に起用しました。再び下野しないように『オール自民党』でスクラムを組み、官邸だけでなく、より幅広い意見が集まる環境がそろっていたんです」。しかし、そうした閣僚や党幹部も、刃こぼれするように政権から離れていった。「長期政権の弊害ですね。結束が失われ、徐々に人材が先細りして側近政治のようになってしまった。その限界が来たところに官房長官だった菅氏が首相に就任し、側近も一人一人離れていって、菅氏を誰も支えられなくなっています」。追い打ちをかけるようにして今、政権には新型コロナ対策が突きつけられている。だが、官邸主導の菅政権は有効な手立てを示せてはいない。
むしろ今は小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事など、地方のトップが存在感を発揮しているようにも見える。「新型コロナ対策に地方で取り組む知事も政治家です。知事だって有権者に選ばれたリーダーですから、官邸が頭ごなしに政策を進めることはできません。内政の問題は、官邸主導の集権的な政治システムだけで処理するのは難しいという課題が浮かび上がっています」。新型コロナ対策は、私たちの生活に直結し、私たちが最も政治の力に頼りたい難題でもある。牧原さんは今、政治の転換期を迎えていると指摘する。「東日本大震災で『災後』の政治のあり方が問われるようになりました。でも、新型コロナでまた変わりましたよね。新型コロナは『災厄』です。その厄を、どう落としていくのか。社会的距離を取る人間関係から、もう一度、絆を取り戻すために、より住民の意向をくみ取る政治が求められています。これまでの政治スタイルとは異なる『災厄後』の政治のあり方が問われているのです」。
<プロフィール> 牧原出(まきはら・いづる)さん
1967年、愛知県生まれ。東北大教授を経て東京大先端科学技術研究センター教授。専門は行政学、政治学。著書「内閣政治と『大蔵省支配』――政治主導の条件」(中央公論新社)でサントリー学芸賞。他にも「『安倍一強』の謎」(朝日新書)など。
投稿タイトル付けは、新聞の原題・原文に基づいて投稿者が行ったものです。
投稿者からのひと言/コロナ対策は、地方の声(実情)を取り入れるべきだ。安倍政治になってから、国民の声を聞かなくなった。同じ自民党議員でありながら、党内論議がなされない。異論を挟めば、選挙区公認されない。官僚も、飛ばされる。安倍・菅政治の欠陥は、世間からずれた官邸だけの声を聞いていたこと。菅首相も辞任に追い込まれて、初めて小泉進次郎氏と4日間もしみじみ世間の実情の会話をしたとのこと。「アホかいな!」(関東人だけど・笑)。強硬な菅流人事を行った結果、周りに誰もいなくなる。今更、小泉氏に聞かなくても、毎日のTV情報番組を見ていれば分かること。国民は舐められましたね、もっと怒らなきゃ!(正しくは選挙で意思を示すこと)。コロナ禍になり、知事の能力の違いがまざまざと露呈した。投稿者は東京在住だが、23区の区長でもコロナ対策や五輪開催の問いに、区民のほうを向いている真面目な区長、逆に常に「上」ばかりを見ている”ヒラメ区長”がいた。各地で、首長の「有能・無能」が見えてきた。終わりに牧原氏は全国の知事が台頭してきたことを仰りたいと思うのだが、小池都知事への評価はいただけない(苦)。「東京無策」によって、次に追い込まれるのはこの方だ。五輪が終わった途端、腑抜けになってしまった。つまり心(しん)からのコロナ対策ではなく、何とか東京五輪を開催するための見せ掛けのコロナ対策だったことが明確になった。
前編|牧原出教授(菅政権評)1◇コロナ対策は官邸主導型のトップダウン政治と相性が悪い