月刊パントマイムファン編集部電子支局

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アーティストリレー日記(129)チカパンさん

2022-01-23 11:12:04 | アーティストリレー日記

今号は、独自のマイムスタイルを確立し、全国各地で小さな子どもからお年寄りまで楽しめるプログラムを巡演するパントマイムプラネット主宰のチカパンさんの日記をお届けします。

「たんこぶだらけの豆タンク」

小さな頃から表現することは好きでした。
居間のソファをひっくり返しケコミにして兄と人形劇をして遊んだり、小学校のお楽しみ会でフィンガー5の妙子のモノマネをしたり、寸劇をやったり。大きくなったらこんなことを仕事にしたいと思っていました。

母はマルセルマルソーが大好きで、小学生の私は日本公演の度に連れて行かれました。白塗りのマルソーが演じる約2時間の公演は私にはクラシカルで退屈、すぐにウトウト寝てしまったものです。目を覚ますといつも隣で母は実に楽しそうに舞台を観ていました。
居眠りはしたけれどマルソーがチャーミングで身体がとってもお喋りだったことだけは強烈に印象に残っています。

私はパントマイムではなく、台詞のある芝居の世界を目指しました。高校で演劇部、そして演劇科のある短大に進みます。
ここまでは思い通り。
18歳、突然なにもかもにつまずきます。演劇学校で初めて「才能」というどデカい壁にドーンとぶつかったわけです。
明るい性格だったのに暗い顔になりイジける私。
世の中には自分よりも才能が有る人間が沢山いる。大好きな世界に自分より向いている人間が、いる。この壁にぶつかることはきっと誰にもあることで真剣に打ち込めば打ち込むほど痛みは大きく出血は多い。
追い討ちをかけて私の声帯は弱く、すぐに声が枯れてしまうことが判明。演出家の注文への理解力も弱い。それよりなにより団体行動が苦手!
そんなこんなを今更気づいても夢に向かって邁進していた豆タンクは急には止まれません。
アルバイトをしながら悶々の日々…。何処にも行かれず扉は見つからず、すっかり疲れ果て就職をしました。
壁にぶつかりおでこに大きなタンコブがある22歳、人生やり直そうと左耳にピアスを開けます。

真面目に通勤しているうちにお金もたまり、元気もたまり、死んだと思った役者への想いが再燃焼。
会社帰りにパントマイムの学校を手当たり次第見学に。
何故パントマイムだったのか?独りで、やれる。声が枯れることもない。誰の戯曲でもない自分の戯曲がやれる。自分が演出できる。主役になれる。芝居時代端役ばかりでしたから…。

学校は東京マイム研究所に決定!
アトリエでとてもゆっくりと静かに語りかけてくれた今は亡き並木孝雄先生。優しくてストーンズのキースに似たハンサムでなによりお芝居の香りがしました。
会社に勤めながらウキウキと研究所へ通ったものです。
当時テクニックの日と創作の日があって私は断然、創作が好きでした。
今に繋がっています。

24歳、会社を辞めました。
母は自分が好きなパントマイムの道を私が選んだことを喜びつつも行く末を心配し、「ホームレスになる覚悟があるならおやりなさい」よくそう言ってました。晩年脳の難病で寝たきりになった母は私の作品の一番の理解者でもっとも辛口でした。

そしてあっという間に30年。何枚も立ちはだかる壁に遭遇し私のおでこには新旧数々のタンコブだらけ。同じ壁に何度もぶつかっている気もするしそもそも壁など無い気もします。
有るようで無い、無いようで有る摩訶不思議なパントマイムの壁のようです。
ちょっと禅問答のようなところがあるパントマイムが好きです。
幸い今のところ屋根の下で眠れているし…。
さあみなさま、今年もがんばりましょう。

パントマイムプラネット・チカパン

 


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