2019/5/11。【文 SHANNON STIRONE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社】。月のちりと大気を調査するために送り込まれたNASAの探査機LADEE(ラディ―)が、隕石が衝突する際に月面から放出される水を検出した。2019年4月15日付けの学術誌「Nature Geoscience」に掲載された論文によると、微小な隕石が衝突する際の衝撃によって、年間最大220トンもの水が放出されているという。月面付近には、これまで考えられてきたよりもはるかに大量の水が存在することになる。
「あまりに大量の水だったため、探査機に搭載されていた機器が、大気中の水をスポンジみたいに吸収したのです」。研究を主導したNASAゴダード宇宙飛行センター、(米国メリーランド州グリーンベルト)の惑星科学者、メディ・ベンナ氏はそう語る。この発見は、月がそもそもどのように形成されたかを理解する新たな手がかりになるだろう。また、今後の有人ミッションの際には、月面の水分を水分補給や推進力の確保に活用できるかもしれない。「これまでずっと、月は非常に静かで寂しい場所だと考えられてきました」とベンナ氏。「今回のデータによって、実際の月は非常にアクティブで刺激に敏感であることがわかりました」。
月に水がもたらされる経路には2種類ある。①太陽風に含まれる水素が月面にある酸素と反応し、さらに月の岩石と作用して含水鉱物となる、というのが一つ。もう一つは、②月面に衝突する彗星や小惑星に水が含まれるケースだ。
「何百万という数の細かい岩石が、雨のように降り注ぎます」と、ベンナ氏は言う。「われわれは29回の隕石群を確認しました。そのすべてが彗星と関連していました」
こうした小さな粒子が月面に衝突する際、いちばん上にある細かい表土の層(レゴリス)を舞い上げる。そのおかげで、地表からわずか7.5センチメートルほど下の層に、予想よりもはるかに多くの水があることが判明した。
「こうして放出され、失われる水の量は、太陽風によって運ばれてくる水素や、微小隕石自体によってもたらされる水では埋め合わせることができません」と、ベンナ氏は言う。「つまり、月の土壌にはこれら2つでは補充し切れないほどの水が存在することになります。これを説明するには、月には太古の昔から蓄えられてきた水があり、それが長い時間をかけて徐々に枯渇してきたと考えるしかありません」
太陽系ができたての頃、巨大な若い惑星同士が衝突し、宇宙空間に放たれた岩屑が2つのまとまりになり、互いの周りをバレエのようにグルグルと回り始めた。これが月と地球ができた経緯だ。結果として、月と地球は歴史の一部を共有することになったが、地球にある量と比べてなぜ月にあれほど水が少ないのかについては、これまで明確な理由はわかっていなかった。
「これは重要な論文です。なぜなら、今起きている水の放出を測定しているからです」と、米ブラウン大学の惑星科学者、カーリー・ピーターズ氏は言う。[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年4月17日付]https://style.nikkei.com/article/DGXMZO44158040U9A420C1000000?channel=DF130120166020&style=1&n_cid=NMAIL007&page=2