小さなあなたがいました。
話す言葉はお互いに違いました。
例えば
私は赤くて甘くて、水水しぃ拳大の果実を「リンゴ」とよびましたが、
あなたは「ウァッポォ」とよびました。
私にはあなたの言葉が赤くて甘いそれを指すものだとわかりませんでしたし、あなたも私の言葉がそれだとはわかりませんでした。
私たちはお隣同士に座っているのに、お互いにその美味しさを言葉で伝え合うことができませんでした。
それに加え、もうひとつ厄介なことがありました。
どうやら私とあなたとでは時々世界がズレてしまうようです。
というよりも、
むしろ度々にしか私たちは同じ世界にいることができないようでした。
あなたは確かにここに、
私の隣りに座っているはずなのに
まるでどこか別の次元を悠々と散歩しているような…
そんな不思議な感覚にとらわれます。
ある日、あなたが寒そうに丸まっていたので、ブランケットをそっと肩にかけました。すると、とても恥ずかしそうにはにかみました。
それは同性のためか
はたまた年下にされたためか
けれどもあなたが「ふふ」と顔を埋めた瞬間、世界がピタリと噛み合った気がしました。
私の右手が北風のしっぽをつかむような、そんな一瞬でした。
だから私は何度でも次元を越えてあなたに会いに行こうとおもっています。
なるべく同じ世界であなたの隣りにいたいから。
【おわり】