足のないバッタが塀の下にいた。
帰りたいの?
僕はそっと塀の土を掘った。
みろ、足がないぞ。
先生が言って、取り巻きの生徒がわらった。
こんなとこからはやくでたいな。
et etc.etceteras
どんな大人になりたい?
出し抜けに聞いてみた。深い意味はなかった。数メートルだけ間を持たすための話題だ。うーん会社員ですかね。嘘だと思った。スーツを着る彼の姿が想像できなくはなかったが、答えていないことと同義だ。
でも、大学には行きたいです。経済学部に。そっか。その時、どうしてなのかと聞いてやればよかったのだろう。大人になると個人的なことについて不躾に理由を尋ねることが出来なくなっていった。というよりも、人の心に踏み込むことが怖くなった。だからだろう。とっさに誤魔化してしまった。大学生は楽しいぞ。先生だって戻りたいくらいさ。そういって、少しでも将来に期待してほしいと浅はかにも思った。けれど、きっとすぐに気づかれてしまったのだろう。彼はもっと切実な思いだったのかもしれない。なのに… 大人、あるいは私も平凡な多数の無関心のひとつなのだと。
「そうですね。がんばります。」耳をすませば諦めと侮蔑の音色が混じっていた。
et etc.etceteras
もし、自分の憐れな一面を見つめることなく大人になれば、どんな生き物になってしまうのだろう。
来年には大人になるとして、浅い渚でじゃれあうような瞬間を重ねるしかないんだろうか。
自分で家に帰って、自分で戻ってきた人
玄関で何をみたんだろう。
脅すことでしか誰かに頼れない人
なんと脅されてきたんだろう。
弟や妹、共に暮らす幼子、隣人の幼子に手をかけた人達はその後どうなったんだろう。
修学旅行の帰りで、搭乗機の前で、タワーマンションの一室で、相対する全ての物語を俺は知らない。
たくさん殴った子はたくさん殴る子に
たくさんいらないと言った子はたくさんいらないという子に
たくさんゲームをして、たくさん弄んで、たくさん移送して、たくさんねじ曲げたら、一緒にメロディのひとつに流そう。心地よい流れに身をまかせよう。それでもういいじゃないか。なにもかも。
それに、自分だってべつに大した人間じゃないさ。だってそうだろう?
【おわり】