教室の方が数名で村山聖の住んでいた前田アパートに行く話になったそうで、ちょうど時間が空いたので妻と二人で後で行くことにした。念のために田中さんに連絡しておいた。村山家のご両親とは8月の怪童戦でお会いしていたが、前田アパートに行くことは、私にとって村山聖に会いに行くような楽しみがある…
田中さんもご高齢なので、いつまで前田アパートの存続に協力していただけるか…私自身もいつまで元気に来られるか…それを片隅に置きながらも、まだまだ続いてほしいという願いが優先するのだ。
私と村山聖の縁はある時期の凝縮した日々のつながりが主だが、棋士になってからは、いつかは独り立ちするので、離れよう…それだけを考えていた気がする。私にとって弟子は「将棋に関することの師匠」と思っているので、弟子の将棋以外の人生までは関われない…今もそう思っている。そういう距離感で弟子と師匠の縁を深く大事にしたい…
村山君との縁は少しその距離感を超えてしまった気もする。それだけ村山聖の魅力、魔力?に惹かれたのかもしれないが、村山君はとぼけながらも私の考えをわかっていたようで、亡くなる前の半年間はそれを感じる。
この日もあえて村山君の下手な絵を描いた。きっと怒るだろうと思う。でもそれでいいのだ…
近くの喫茶店「URA」に入る。マスターと妹さんに村山聖の話を聞かせてもらった。
いつも座っていたという場所もある。近所の人も棋士とは知らなくて、風貌と服装を見て心配していたそうだ。ある日背広を着ていたので「よかったなあ、就職できたんやろう」懐かしい話ですと教えてくれた。
喫茶店からの窓越しの風景
メンバーと別れてシンフォニーホールに向かう。
将棋会館を通る。この風景も消えていくのだなあ…
JR福島駅に戻る。更科食堂がないのもさみしい。
前田アパートに行くたびに、自転車で通った村山君の住んでいた部屋の薄い灯を思い出す。
村山聖の漫画本と将棋の暮らしと生きざまが、いっぱい詰まった部屋の写真を撮る。