1928年ロサンゼルス郊外の住宅街。
息子のウォルターと二人で、幸せな毎日を送っているシングル・マザーのクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)。
ある日職場からの要請で急遽出勤することになり、仕方なくウォルターを一人置いて家を出たが、予定よりも退社が遅くなってしまった。
慌てて帰宅すると、家にいるはずのウォルターがいない。
町内をさんざん探し回るが見つからず、警察に届け出るが、警察は子供の行方不明は、消息が消えてから24時間経過しなければ捜索はしないという。
まんじりともせず夜を明かしたクリスティンは、翌日ようやくやってきた警察官に訴えるものの、手がかりもないまま、捜査は難航する。
誘拐かどうかもわからない状態のまま5ヶ月が経ったある日、ウォルターが遠くイリノイ州で発見されたとの報せを受ける。
警察に保護されたウォルターが、列車で帰ってくるというその日、警察がお膳立てして集まった報道陣に囲まれながら、クリスティンが駅のホームへ駆けつけると、そこに現れたのは見ず知らずの少年だった。
「息子じゃない!」
訴えるクリスティンだが、警察は全く取り合わない。
今は混乱しているだけだ、この歳の少年は成長が早いため風貌も短期間で変わるものだなど、さんざん理由を並べてはクリスティンを言いくるめようとする。
警察は、顧問の医者までも動員し、彼女が精神的に不安定な状態にあり、自分の息子が認識できていないなどと“鑑定”する。
担当の警部は彼女が母親としての責任を放棄しようとしていると罵倒し、挙句の果てに精神病院へ“措置入院”させてしまう…
驚愕の実話に基づいた本作。
当時のロス市警の腐敗ぶりを生々しく描き、国家権力が暴走する様の恐ろしさをまざまざと見せてくれる。
しかしそれよりも、ごく普通に暮らしてきた平凡な主婦が、行方不明となった息子を取り戻したいというただその一心で、強大な権力にひとり立ち向かっていく姿に胸を打たれる。
たとえ相手が国家であろうと警察であろうと、決して怯むことなく真実を求めて突き進む、凄みをはらんだ母性の力強さを体現するアンジェリーナ・ジョリーの熱演が素晴らしい。
また、声高にアジテーションを叫ぶような押し付けがましさの無い、寡黙に淡々と物語を運びながらも、ゆっくりじわじわと心を揺さぶる、クリント・イーストウッド監督の演出に今回も大いにハマった。
彼の演出は、深々と雪が降り積もるように、心に感動を染み込ませてくる。
名監督と名優が奏でるハーモニーを堪能できる傑作。
「
チェンジリング」
2008年/アメリカ 監督・製作・音楽:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン、コルム・フィオール、ジェイソン・バトラー・ハーナー