ガイド日誌 - 北海道美瑛町「ガイドの山小屋」

北海道美瑛町美馬牛から、美瑛の四季、自転車、北国の生活
私自身の長距離自転車旅
冬は山岳ガイドの現場をお伝えします。

吠える40度。 自転車で旅するニュージーランド

2016年11月07日 | 自転車の旅 海外

ダニーデン ー バルクルーサ
オタゴ地方 ー サウスランド

ダニーデンの街は、険しい。
もともと、ダニーデンとは、ゲール語からきている。
ここは、スコットランド人が拓いた町だ。

素人解釈だけど、
Dun=砦
Edin=現在のエディンバラ

つまり、スコットランドのエディンバラ城を指すとみていいかと思う。
いや単に、南のエディンバラという意味かもしれない。

いやもう、名前の通りで、街が城砦なのだ。
すり鉢のような地形になっていて、
町の中心部が底になっていて、僅かに平坦。
あとは移動するには、坂、坂、坂。
町中に、スキー場の中級斜面みたいな急坂が四方に立ち塞がり、人々は何食わぬ顔をして坂を行ったり来たりしている。

中世の山城か、ダニーデン。
要塞のなかにいるみたいだ。

三方を険峻な山で囲まれ、東側は海が開く。
その立地、
まるで要害の地、鎌倉ではないか。

入るときもその「険峻な」山を北から越えてきたが、
出るときもまた「険峻な」山を南へと越えて行かなければならない。

ルートはふたつある。

街の中心の「オクタゴン」から西上して標高350mの山を越えて隣町モスギルに抜ける山越えルート、
もうひとつは、
国道1号をひたすら追っていくルート。
距離か短くて早いのは前者の山越えルート。
坂が少ないのは後者の国道1号線沿いとなる。

以前、山越えルートを進んだことがあるけど、フル装備の自転車では結構きつい。ただし確かに早かった。

ダニーデンの国道1号は自動車専用道路なので、
迂回路を進むことになる。
迂回路は概ね「メイン サウスロード」という「旧道」からなり、分かりやすい。
また、ちゃんと案内看板がある。

国道1号と、自転車用案内看板。
自転車に優しい。

南に向かう人用、分かりやすい。

北へ、ダニーデンに向かう人用はこちら

この通りに進めばいいので非常に助かるのだ。

まあ、しかしながら。
山越えルートは標高350mの山を越えると書いたが、
こちらの道も標高120mを2回、数十mを1回、登ったり下ったりするから、実はあまり変わらなかったりする。
しかも、街中を突っ切るので信号待ちや車も多いから時間がかかる。
18キロ進むのに1時間半掛かってしまった。

隣町モスギルから先は一転して平野のように穏やかになる。45km先のミルトンまでずっと快適なサイクリングだ。

まるで釧路湿原。

北海道好きにはたまらない。

美しい風景が続く。

だからと言って、観光地じゃない。


途中の湖。

トイレ休憩に立ち寄ったのだが、このあと中国人団体客に巻き込まれてしまった。

このあたりの水辺では、

黒い白鳥を見かける。
黒い白鳥。かつて英語圏では「あり得ないこと」を意味したそうだ。(ロンリープラネットから引用)
黒い白鳥はオーストラリアのパースにもいた。初期の開拓者はきっと面食らっただろう。

いつの間にか、南緯46度を越えていた。
「吠える40度」に突入だ。

強風注意の看板が立つ。

こんな木があったりする。


やばいぞ!


でも、きょうは穏やか。
しかし、本日最後の10kmは、坂、坂、坂道だ。


「なにか用かね?」

もたもた走っていると、牛が寄ってくるのだ。

バルクルーサの町が見えてきた。
ここからは、最南端地方「サウスランド」に入る。


サウスランド地方は天気が安定せず、曇りや雨、強風が吹く日が多い。
「吠える40度」の真っ只中にいるのだから、仕方ない。

あとは運しかない。

風まかせで行こう。





雷様と俺。 自転車で旅するニュージーランド

2016年11月04日 | 自転車の旅 海外

オアマル − モエラキ村 − パーマストン − ワイコウアイティ − ダニーデン
オタゴ地方

オアマルの街を南に抜けるのは少々骨が折れる。

町外れ、いきなり心臓破りの坂がある。それは悪夢の始まりでしかなく、そこからは34km先のハムデン/モエラキまでずっと、延々と登り降りが連続する。50m100m登っては下るを無数に繰り返すのだ。

キツいぞ。

おまけに途中から小雨が降り出した。天気予報は当たらない。
汗なのか雨なのか両方なのか。
もうビショビショだ。

ハムデンに着いた。

やっと晴れた。
34km走るのに2時間半かかった。

昼メシの間に濡れたものを乾かす。

昼メシはバナナとニンニク(写真下)

まもなくモエラキの浜がみえてきた。

ここから国道を外れて3キロほど東にいくと村があり、小さな漁港がある。
そこのキャンプ場は、凄くいい。

古いけれどよく手入れされたキャビンがある。

格安な上、海側に大きな窓があり、ビーチが例えようのない美しさだ。

そこは、10年くらい前にたまたま立ち寄ったときに見つけた。今回は通過するけど次回は再訪しよう。

モエラキは、モエラキボールダーという球状の石の産地として知られる。
主にガーデニングに使われ、よく庭先に置いてあるのを見かける。

ボールみたいなのが、海岸にゴロゴロしている。

モエラキ・ボールだ。(モエラキ・ボールダーのこと言ってます)



砲台みたいだ。


モエラキからは道路は穏やかになる。
25キロ先のパーマストンまでは平和なサイクリング。

しかし、カーチェイスに遭遇!
クラクション鳴らしまくりながら猛追している。双方、怒り狂っている。

国道の端っこを走る自転車など眼中にない。
恐怖だった。

しばらく走ると、かなり先にパトカー?
先ほどのカーチェイス二台ともに御用になっていた。

警察グッジョブ👍

あのままだと路上で喧嘩になっただろうから、
暴力事件を未然に防いだことになるだろな。

偉いぞ警官!

パーマストンの町を見下ろす塔が見えてきた。

1910年代の石造り。建設はかなり大変だったはずだ。

パーマストン駅。
旅客が廃止され駅舎は現在パブになっている。


パーマストンの先にあるワイコウアイティ集落。

定宿にしているお気に入りの宿泊施設があるのだけど、なんと満室だ。

その宿は酒場に隣接している。

なんでも、
メルボルンカップで盛り上がった周辺の牧場のお父さんたちが夕方になると酒場に集い、そのまま酔っ払うので

今夜の宿泊棟は満室になんだという。

メルボルンカップは、盛り上がりたいお父さんたちが酒場に集う格好の口実になっている。

お父さんたちは、なにかと口実を見つけては酒場に行きたくてソワソワしている。
お母さんたちもたぶん、そんなこと承知で送り出しているのだろう。

「アンタッ!飲み過ぎるんじゃないよ!」

背中で聞きながら、
お父さんはいそいそとトラックに乗り込んで酒場に繰り出す。

いいな。
俺も、盛り上がりたい…。

仕方がないので3キロほど先のビーチキャンプ場に移動。

誰もいないキャンプ場で孤独に宿泊。
メルボルンカップの季節は要注意だ。

ワイコウアイティからは峠になる。
20kmほどでいったん峠は終わり、カーギル山の麓の入り江、ワイタティ村に至る。

ここからはもう、ダニーデンの街は近いけど、
国道は「自動車専用道路」になるので自転車は走れない。
迂回路がある。

その迂回路は、カーギル山を越えていく。
カーギル山の向こうは、直ぐにダニーデンの街だ。

さあ、カーギル山を登ろう!

カーギル道は四国の峠越えのような道で、ダラダラと標高400mほどまで登る20kmの行程だ。

ニュージーランドの主要峠と比べるとかなり易しいが、

穏やかな国道を走らせてもらえず、わざわざ迂回させられている感が、なんとも切ない。

しかも、嫌な予感。山頂付近が只事ではない。

そして、それは、いきなりやってきた。

登り始めは晴れていた。
登り始めて30分。標高200mほどまで登ってきたところで雨が降ってきた。
空にはまだ晴れ間が見えているので止むかもしれないと思い、大きな木の下で雨宿り。
しかし一向に止む気配はなく、雨はますます激しくなってきた。

仕方がないのでレインウェア着用。
基本、雨の日は走らないと決めているにも関わらず、またしても雨具登場だ。

その間も、雨、どんどん降る。
そのうち、凄い音(轟音)が近づいてきたなと思ったら、雹が降ってきた。

うヒョー!

くだらないオヤジギャグを言うてる場合じゃない。
木の下もヤバくなってきたので、雨具完全版に移行。

両方の靴にスーパーのレジ袋を履かせる。
オーバーグローブ着用する。
ヘルメット上からフードすっぽり被る。

突然、地響き!
バリバリドーン!

雷が頭上から降ってきた。

しかし、もう身動きは取れない。

木の下は危険とかいうけど、いま雷雲の直下で飛び出して雷の射程圏内をウロつくほうがヤバくないか?

もう、ちっちゃくなって、じっとしているしかなかった。

30分ほどだろうか。
徐々に雷鳴りが東の方に離れていく。

雨も小降りになってきたので、頭を上げた。
西の方は、
雲が途切れて青空も見える。

ひんやりした空気、思い切り酸素を吸う。

しかしだ。

第2波がありそうだ。

西から、えげつない積乱雲が追いかけてくるのが見える。すでに、さほど遠くもない。

いかにも、ヤバい。

猶予は1時間か、それ以下か?
カーギル山は、あと40分くらいで登れると思うが、道は濡れているので速度は落ちるだろう。

しかし考えている暇はない。小雨のなか登り始める。
雨具装着の完全版は、つまりサウナスーツ。

暑いわ!

まもなく雨は上がったが、どうせまた降るのだから、そのまま着て登る。
汗、だらだら。

袖を振ると、レインウェアの袖の部分に汗が溜まってチャプチャプと音がする。

袖口を開き、真下に向けたら、
ジャーッと、小便みたいに地面に汗が流れ落ちていった。左右とも。

レインウェアの意味なし。
中もビショビショだ。

標高300m。
異変あり。

突然、

GPSが不能になる。

台風や雷雨のとき、ほら、
衛星放送が映らなくなるアレだ。
GPS衛星の電波が、入らないのだ。

やばい予感。頭上は分厚い雲ってことだ。

雷がくるぞ。

暫くしてGPSは回復したが、標高表示やトリップメーターが異常値を示す。

機器はもうアテにならないから、がむしゃらにペダル漕ぐ。

ペダルに集中だ。

雨、再び降り出す。
やっぱりきた。

雷が先か、俺が先か。

最悪なのは、カーギル山頂上で雷に遭遇すること。

そうなるともう、雷は上からだけでなく、周囲からも襲ってくる。
360度、死角なし。

真横や、斜め下からも雷がくる。

そこらへんの大気が帯電しており、目の前でパシッとフラッシュが起こったりする。

昔、大雪山系で経験した。
あれは怖い。

もう、嫌な予感しかない。

俺、必死こいて漕ぐ。

そのうち、また雹きた。

金平糖みたいな氷の塊がバチバチ当たる。
痛い。痛い。
痛いけど、このあとお約束のように襲ってくる雷が嫌だ。

うヒョー!
やめてぇー!

必死。

雷鳴きた。やっぱりきた。
まだ大丈夫?

いや、やばい。

標高計、360m?
まだまだか…。

いや、GPSは、さっき狂ったはず。デジタル機器は全滅だ。

そこらへんの大気が帯電しているのか、無茶苦茶な数値が表示されたりする。

もう、あてにはならない。
しかし、この景色に見覚えあるような気がしている。

雷鳴。
雷鳴。
ゴロゴロ…

あ、山頂!やっぱり!

山頂無視。 通過。

一息いれるなんてあり得ない。
命のほうが大事だ。

ゴロゴロ、ゴロゴロ、
 
ドーン!
 
どっかに落ちたぞ。
しかし少し離れてる。

やがてMt.カーギルロードは下りになった。
ダウンヒルだ。

必死で漕ぐ。
ともかく、
雷から逃げるのだ。
少しでも離れなければ、やられる。
 
速度がぐいぐいあがっていく。
ハンドルぶれる。

新しい自転車と新しい荷台は相性最悪。
下り坂でブルブルして、危なくて仕方ない。

ぐらん、ぐらん…
ハンドルぶれる。

しかし、ディスクブレーキきく。
雨でも雹でも、きっちりきく。

これで普通のブレーキだったら、俺死ぬな、たぶん。

ガンガン、下る。
Mt.カーギル、くだる。
 
背中に雷鳴。
逃げて逃げて逃げまくれ!
 
路面が荒い。
ひび割れや、小石や
穴もある。
 
あれに引っかかたら、
大転倒するぞ。
 
集中しなければ!

手が痛い。
ブレーキは握りっぱなしだ。

ダニーデン見えてきた。
雨のダニーデン。
自転車ごと町に吸い込まれていく。
 
街が、無音に感じる。

雨、ますます激しく、
しかし、
雷はいつの間にか遠のいていく。

やれやれ、
やれ、やれ…
 
助かったのか俺。

雨上がりのダニーデン。

もう連泊決定だな。

レインウェアも何もかも洗濯して、
身体を休めよう。
一週間毎日休まず走ったから、そろそろ休んでいいよな。

街の中心部に近い、偶然見かけた、
ちょっと高そうなモーテルに飛び込み
料金交渉もせずにチェックイン。

選択する余裕は、なかった。

リビング・ダイニングと寝室が別だった。
豪華だが、
俺は疲れすぎていた。

このあたりには、日本食レストランがいくつもある。

写ってるだけで、3〜4軒。

でも、たぶん行かないと思う。
疲れ過ぎて食欲がない。

それにしても、
疲れた。
本当に。

「久々に、ボコボコにされたな。」
 
アウトドアはいつだって想定外だ。
アウトドアの修羅場に、ルールなんてない。
 
その瞬間に感じたこと、
きっとオレの奥底にも流れている野生の勘を信じて、
サムシンググレートに導かれて、
本能と勇気で乗り切るのみだ。
 
合羽を脱いだ。
濡れたもの全部脱いだ。
 
台所で、水を一杯。
 
俺は静かに崩れ落ちた。
 





主張する町、ワイマテ。の巻。 自転車で旅するニュージーランド

2016年11月01日 | 自転車の旅 海外
アッシュバートン − ティマル − ワイマテ − オアマル
カンタベリー平野南部 − オタゴ北部

引き続き、カンタベリー平野を走っている。

天気は回復して暖かさが戻ってきた。
朝晩は冷えるが、昼間は15度前後まであがるようになった。
ダラダラと汗も流れないし、良い塩梅だ。

概ね平坦な道が続いたが、それはティマルの町で突然覆される。

ティマルの市街地を抜けるまでの間は平坦な場所などない。登っては下りの繰り返し。6回くらいある。丘の町美瑛の、美瑛ー美馬牛間よりも激しいじゃないか。

ずっと平らだったのに、
なんでまた、わざわざ…と愚痴っぽくなる。
わざわざ坂だらけの場所に街を建設したのには、当時きっと、それだけの理由があったのだろう。
それにしても、堪える。

ティマルでは格安なモーテルに泊まった。
国道沿いのそのモーテルは古びてはいるが、スーパーは近いし今どき6000円くらいでバストイレ・キッチン付きのワンルームに泊まれるので僕の定宿なのだ。

スーパーが近いのはポイント高い。

その夜のことである。

食事を終えてベッドにあぐらをかいて地図などの資料を英語に苦労しながら読んでいたら、突然、合鍵を使って若い白人女性が部屋に入ろうとしてきた。

びっくり‼️

「おーまいが。いっつ マイルームひあ!」
もう必死だ。

押しとどめてお帰りいただいたけど、いったい何だったんだろう⁉️



さて。
ティマルの次の主要な町はオアマルだが、その90kmほどの中間地点には
「ワイマテ」WAIMATE
という町がある。

国道1号から8キロほど内陸にあるこの町は、
道ゆく殆どのドライバーは無視して通り過ぎてゆく。存在すら知らぬ地元民もいるかもしれない。

おい、そこの車!
待て待て。
待てい!

ワイマテ。ワイ、マテ。

わい、待てい!
関西弁か!

その名が示すとおり、この町は主張が強いのだ。

国道の至るところに「ワイマテ寄ってけ」な看板があり、無視されぬよう、通り過ぎぬよう、我々に語りかけるのだ。

ま、
99.999パーセントのドライバーは、無視して通過していくわけだ。

しかし、チャリダーは速度が遅い。
遅いが故に、この手の主張がどっしりのしかかってくる。

「いやもう、わかったけん。行くけん行くけん。」
こうして今回もまた、予定外の無用な寄り道が増えて行くのだった。

ワイマテは1950年代で時が止まったような、素敵な町だ。
馬が、歩いていてもおかしくはない。
また周辺の風景は、美瑛にそっくりで
旅してる気がしない。

結構好きな町だけど、残念なこともあった。
定宿にしていた宿のオーナーが変わっていたのだ。
おまけに値上がりだ。
女性オーナーらしくシュッとしたスタイリッシュな印象になっていたけど、なんか寂しい。

東日本大震災があった年に立ち寄ったとき、旧オーナーのジョン親父は、
「お前、死んだかと思ったぞ!」と、再訪をたいそう喜んでくれたのだ。
あのニュースは親父には、全日本瀕死の印象に思えたのかもしれない。
まあ実際、そうなった可能性は高かったけど。

オーナーが変わるのは、この国ではよくあることだ。仕方ない。

ワイマテと国道の位置関係は、
二等辺三角形。

6キロだけ、余計に走ることになるけれど、
ティマル−オアマル間の走行中に、
雨や向かい風など悪条件に遭ってしまったら、
騙されたと思って立ち寄るといいだろう。

なにもない、いい町だ。

ワイタキ河を越える。

テカポ湖の水も、まもなく海に至る。

ついにカンタベリー平野が終わり、
オタゴ地方に入った。

さて。
いまこの原稿は、オアマルの町で書いている。
町の中心に近いキャンプ場「ホリデーTOP10」に滞在しているが、

なんだかなあ。
イマイチだな。

また、天気もイマイチだ。
風はさらに強くなってきた。
肌触りが変わり、みるみる薄雲が広がってきた。

飲もう。

不思議な気分だ。
含むと、瞬時に日本のどこかの地方都市のホテルの二階あたりにあるラウンジにひとりでいるような錯覚を覚えるぞ。

今夜は雨だろうか?
朝には止んでくれたらいいのだけど。