昨夜は、久しぶりにS君の事務所に顔を出し、珈琲をごちそうになってきました。
「バブ君は、今夜は何処にひっかかるのかなぁ?」
「今日はまっすぐ帰るよ、金もないし」
とんだ大嘘をこいてしまいました。結局はいつものバーでいい気分になって帰ってきました。S君、嘘をつくつもりはなかったんだけどね・・・・ごめんちゃい。
話は大きく変わりますが、昨日、ラーメン屋で昼食をとっていると、偶然に以前同じ職場で働いていたI君に出会い、その後の不義理を互いに詫びたあと、せっかくだからと近くの喫茶店でしばしの休憩となりました。
実家の商売を継いだI君に
「商売は順調なの?」と訊くと
「まぁ、商売はボチボチなんですけどね、お袋がボケてきちゃってまいっちゃってるんですよ」
「しょうがないよ、うちのお袋だってかなり来てんから」
ところが、そんな軽口を言えるボケではなかったのです。
I君のお母様は意外に年齢が高く、うちの母より5歳ほど歳を召されています。昨年の春あたりから徐々に物忘れが激しくなり、病院に相談したところ『アルツハイマー性老人痴呆』だと診断されたのだとか。
商売への影響や周りのことを考え、施設への入居も検討されたそうですが、お父様もご存命でいらっしゃるし、彼の奥様も自宅での介護を了承され、今はご自宅で療養を続けておられるのだそうです。
「いゃあ、悪かったね軽口叩いちゃって・・・・・・、たいへんだねぇなんて上っ面の言葉しか出てこないけど、頑張んなくちゃいけないよねぇ。」
私はふと、昨年の暮れに読んだ『母の詩集』という本を思い出しました。認知症の母を詠った息子さん、池下和彦氏の詩集です。
その内容に、同じ息子として、認知症介護の苦労のくの字も知らない私ですが、心から感動した一冊でした。
「俺なんかが、何言っても慰めにもならないだろうけど、『母の詩集』っていう、同じ認知症の母をもっていた方の詩集があるから読んでみてもいいと思うよ。」
彼はさっそくその本の作者名と題名をメモしていました。
- あずましかった -
家をあけて何日か
母を風呂に入れることができなかった
何日か振りの風呂あがり
母は
あずましかった
と言った
こころおきない気持ちをあらわす
この方言を耳にするのは
何十年振りだろう
あずましかった
おなじ声の調子でくりかえして
母は何十年まえの
母になる (池下和彦『母の詩集』より)
さて今日の一枚はボブ・ゴードンです。
ジェリー・マリガン、サージ・チャロフ、そしてゴードン、ウエスト・コーストのバリトン・サックス奏者には有能な若者が揃っていました。しかし、1955年8月には交通事故でゴードン(享年27歳)が、1957年7月には拳銃でサージ(享年32歳)が相次いでこの世を去ります。もし二人が生きていたなら、マリガンの独走は無かったかもしれません。まぁ、誰々が生きていたらというのは、特にジャズの世界では、多くあることですからさもない話ですが。
このアルバムは、そもそも10インチLP盤であったため、短めの曲ばかりになってしまっていることは少々残念ですけど、バリトンとは思えないほどのキビキビしたというか、小気味よいというか、ともかく、もう少し年齢を重ねた彼を聴いてみたかったという気持ちにさせる一枚であると思います。(もちろん私は日本再発盤の12インチしか持っていませんよ)
アレンジとテナーを担当した、ジャック・モントローズにとって、ゴードンは特別な存在だったらしく、亡くなって以降は活動意欲を無くしてしまったそうであります。
ゴードンがリダーとなったアルバムは後にも先にもこれ一枚。この二人のいかにもウエスト・コーストという感じの演奏の録音記録が少ないことを、残念に思うのは私だけではないと思います。(二人のコンビ盤はアトランティックにも残っていますが、リーダーはモントローズ)
ルゴロ楽団のメンバーでもあったゴードンですから、そのあたりでもゴードンのバリトンは聴けるっちゃ聴けるんですが、私はやはりこの二人の双頭バンド演奏のほうが好みであります。
MEET MR. GORDON / BOB GORDON
1954年6月5日録音
BOB GORDON(bs) JACK MONTROSE(ts) PAUL MOER(p) JOE MONDRAGON(b) BILLY CSHNEIDER(ds)
1.MEET MR. GORDON
2.TWO CAN PLAY
3.WHAT A DIFF'RENCE A DAY MAKES
4.ONION BOTTOM
5.TEA FOR TWO
6.TWO CAN PLAY
7.FOR SUE
8.LOVE IS HERE TO STAY