韓国経済にウォン大幅下落の難題、文政権は「反日」で乗り越えられるか
アジアの通貨市場で 韓国ウォンの下落が目立つ
7月上旬以降、アジアの通貨市場で韓国ウォンの下落が目立つ。
この間、ドルに対する為替レートの変化率を見るとウォンは5%近くも下落した。8月に入りドル高・人民元安が注目を集めているが、ウォンの売られ方はそれよりも大きい。
中国経済の減速懸念に加えて、8月2日、日本政府が韓国を“ホワイト国”から除外したことはウォン安に拍車をかけた。
市場参加者の間には、米中問題のこじれや日韓の関係悪化などにより、韓国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が一段の悪化に向かうとの見方が増えつつある。
経済専門家の中には、これから文政権が経済政策を大きく変革しない限り、長期的に韓国経済についてかなり厳しい展開を余儀なくされるとの見方が多い。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、反日姿勢をさらに強めて支持を取り付け、来年の総選挙を乗り切りたいと考えているだろう。
ただ、韓国経済を取り囲む状況を考えると、経済状況がすぐに改善に向かうことは考え難い。韓国経済の不安定化は続くとみるべきだろう。
韓国経済の先行き懸念を 反映するウォン安
年初来、韓国のウォンが軟調に推移している。最大の原因は、韓国経済のファンダメンタルズの先行き懸念が高まっていることだ。
近年の韓国経済は、サムスン電子などによる半導体の輸出によって景気を支られえてきた。
韓国の輸出に占める半導体の割合は20%程度と高い。事実上、韓国の景気動向は、半導体の輸出動向と表裏一体の関係にある。
現在、世界的に半導体の需要は落ち込んでいる。
それにもかかわらず、サムスン電子などは楽観に基づき生産能力を増強してきた。
その負担も加わり、業績の悪化が止まらない。
4~6月期、サムスン電子の半導体事業の営業利益が前年同期比7割に落ち込むなど経営状況は厳しい。
サムスン電子の売上高は、韓国GDP(国内総生産)の10%程度もある。当面、韓国経済のモメンタム(勢い)は弱まる可能性がある。
その上、日本の対韓輸出手続きの見直しは、韓国経済にかなりの影響を与える可能性がある。
この懸念から8月に入りウォン安に拍車がかかった。これまで、韓国は日本などの技術などを使って半導体産業分野を強化してきた。
1980年代後半以降、韓国は日米半導体協定に乗じる形で、日本などから半導体の生産に必要な技術を吸収した。
それをもとに、韓国は、日本から高純度のフッ化水素や精度の高い半導体製造装置などを輸入し、サムスン電子を筆頭とする財閥企業などがICチップを大規模に生産できる体制を整えたともいえる。
特定3品目の対韓輸出手続きの見直し(リスト規制)に加え、わが国が韓国を“ホワイト国”から除外したことは、韓国経済のファンダメンタルズ悪化に直結する問題だ。
調達に従来以上の時間とコストがかかるようになれば、韓国企業がスムーズに生産を行うことは難しくなるだろう。
加えて、足元、世界的に半導体の生産能力は余剰気味だ。韓国の生産落ち込みを台湾勢などが取り込むことは可能だろう。韓国経済はかなり深刻な状況を迎えつつあるようにみえる。
限界を迎える 韓国の中国依存
ウォン安には、中国に依存した経済運営が限界を迎えるとの懸念も影響している。韓国にとって中国は最大の輸出先だ。輸出の25%は中国向けであり、香港を加えると30%を超える。
中国経済は成長の限界に直面している。
当面、習近平国家主席はインフラ投資や補助金の積み増しによって景気を支えようとするだろう。
ただ、景気刺激策がどの程度の効果を発揮するかは不透明だ。
なぜなら、中国国内では耐久消費財や社会インフラの需要が飽和し、投資効率が低下しているからだ。
韓国が中国の経済成長を当てにして自国の経済運営を続けていくことは難しくなっている。
それに加え、米中摩擦には、米国と中国の“覇権国争い”という側面がある。これは、長期的な世界経済の変化だ。
韓国経済にとって、米中摩擦は、無視できないリスク要因だ。
摩擦の激化とともに、韓国は、米国と中国の“板挟み”になる可能性がある。
今後、米国は自国だけでなく同盟国の企業にも、ファーウェイなどとの取引を制限するよう、再度、圧力をかける可能性がある。
それが現実のものとなれば、韓国経済にはさらなる下押し圧力がかかるだろう。
サムスン電子にとって、ファーウェイは最大の顧客だ。
取引が困難になることの影響は計り知れない。
加えて、中国が韓国に報復する展開も考えられる。
2017年、中国は、在韓米軍へのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備に対抗し、韓国向け団体旅行の制限などの報復を行った。
これによって、韓国経済にかなりの下押し圧力がかかったことは記憶に新しい。
また、中国の科学技術分野での進歩は目覚ましい早さで進んでいる。
日本に依存して半導体を生産してきた韓国に、自力でゼロから新しいモノを生み出す力があるか否かはかなり不確かだ。
一方、ファーウェイの半導体製造能力やIT、通信関連機器の開発力にはすさまじいスピードがある。
中国の科学技術力は韓国を上回っていると考えられる。
米中摩擦という世界経済の大きな変化の中で、韓国は動力源を失った小舟が大海を漂流するかのような状況に直面する恐れがある。
先行き懸念高まる 韓国経済
韓国ウォンの下落には、日本の輸出手続きの見直し以外にも、世界的な半導体需要の落ち込み、中国経済の減速、米中摩擦などさまざまな要因が絡み合っていることがわかる。
当面、韓国からは資金の流出が続く可能性がある。
なぜなら、経済を支えてきた財閥企業の経営悪化に加え、労働争議、政治不安など、懸念材料が多いからだ。
年初来で韓国総合株価指数(KOSPI)は6%以上下落した。アジア株式市場の中でも、韓国株の下げはきつい。
一因として、外国人投資家による売りの増加が考えられる。
韓国の大手金融機関、サムスン電子などの一般企業では、外国人投資家による持ち株比率が高い。
ウォン安と株安の同時進行は、外国人投資家が文政権への懸念を強めていることの表れと解釈できよう。
ニューヨークなどを拠点に資金運用に携わるファンドマネージャーらと話をすると、「日韓関係の修復と改善は韓国経済にとってのバックストップ=安全措置」との指摘が多い。
一方、来年4月に総選挙を控える文大統領は、世論の反日感情に合わせて反日姿勢を強め、支持率を高めておきたい。
当面、日韓の関係がこじれ続ける展開は避けられないだろう。ある意味、文大統領は、経済の安全措置を、自ら手放してしまっている。
その代わりに韓国政府はフッ化水素などの国内生産を実現して、日本に対抗しようとしている。
ただ、政府の予算規模や韓国の技術力を考えると、そうした取り組みの効果に期待するのは現実的ではないはずだ。
半導体製造装置や材料の分野で、日本メーカーのシェアは高い。
それは、日本メーカーの技術力が高いからだ。
自国の技術を高めるよりも日本に依存してきた韓国が、短期間で技術力をつけることは容易ではないだろう。
韓国の反日感情の高まりとともに、経済は一段と厳しい状況を迎える可能性がある。
すでに、韓国の政治・経済の不安定化は、北朝鮮の軍事挑発を許すことにつながっている。
この状況が続けば、極東情勢の不安定感は一層増すばかりだ。
わが国はその状況に自力で対応することを目指すべきだ。
政府は、国際世論を味方につけて自国の主張が理解され、賛同されやすい状況を目指さなければならない。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)