社会保障改革の機運乏しく 増税後で負担増回避か 社会保障改革 波高し(上)
2019/10/8 23:00
- 情報元
- 日本経済新聞 電子版
政府が医療や年金、介護など社会保障改革の司令塔となる会議を9月に立ち上げた。
人口の多い「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年以降を見据えた姿を議論する。
社会保障改革を展望し、課題を探る。
これまで政府は12年に関連法が成立した「社会保障と税の一体改革」を推進してきた。
最大の柱だった消費税率の引き上げが完了したのを踏まえ、新たな改革を検討するために省庁横断で設置したのが「全世代型社会保障検討会議」だ。
政府は70歳までの就業機会を確保したり、年金を受け取り始める年齢を70歳超まで選べるようにしたりするなど、高齢者の就労を後押しして社会保障の「支え手」を増やす政策を進める構えだ。
ただ今後の超高齢化を見通すと、社会保障の負担増や給付の見直しが避けて通れない課題だ。
25年には人口の2割弱が75歳以上の後期高齢者になる。
この年齢層の医療費は1人あたり平均で年92万円程度と現役世代の約5倍かかる。
年金や介護も含む社会保障給付費は政府の推計では25年度に140兆円。1
8年度に比べて16%も増え、放置すれば現役世代の負担が一段と重くなる。
「22年危機だ」。
大企業の健康保険組合がつくる健康保険組合連合会は団塊の世代が75歳に到達し始める22年度にも医療・年金・介護を合わせた社会保険料が年収の30%(これを労使折半)に達するとの試算を示した。
75歳以上の医療費窓口負担を原則1割から同2割に上げるなどといった負担と給付の見直しを迫っている。
だが本来なら財政健全化へ社会保障改革を求める立場の財務省の存在感は薄い。
関係者によると、改革議論のたたき台は首相官邸の信頼の厚い経済産業省幹部の主導で作られ、財務省が主張してきた給付と負担の見直し議論は隅に追いやられた。
「消費増税の直後で強くは言いにくい」。財務省からはこんな声が上がる。
負担と給付を大幅に見直すには丁寧な議論が必要なのに、「年末までに中間報告」という短期で方向性を出す日程になった。国民の痛みを伴う改革の議論に消極的な姿勢が透けて見える。
足元の社会保険財政が安定し、危機感が薄れているのも改革機運が乏しい理由だ。
約7割の健康保険組合と4千万人が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)は黒字を維持する。
国の社会保障費の自然増は20年度の概算で5300億円程度で近年で最も少ない。
相対的に人口が少ない戦中・終戦直後の生まれの世代が75歳にさしかかり、後期高齢者数の伸びが一時的に鈍っているためだ。
「改革のドライブがない」。厚生労働省幹部は現状をこう指摘する。
医療費の窓口負担を引き上げた1997年度、2003年度はともに直近の医療保険財政が赤字になり、財政変動に備えた準備金を大幅に取り崩した時期だ。
制度の持続性に黄信号がともり、いや応なく負担増は決まった。
だが今後の財政悪化を待っていては改革は後手に回りかねない。
日本総合研究所の西沢和彦主席研究員は「短期間で制度を見直すと本来削ってはいけないものを削り、セーフティーネットの機能が弱まる」と懸念する。
社会保険の財政悪化が一服しているいま、どこまで聖域なき議論を進められるかが改革の本気度を示すことになる。