程暁農★冷戦開始後2カ月、エスカレートする米・中軍事対決 2020年9月8日
by minya-takeuchi • October 19, 2020 • 日文文章 • 0 Comments
★⑴ 南シナ海のミサイル
米・中冷戦が始まった。
7月20日に「程暁農★米・中冷戦、南海水面下の対決」でその起りについては書いた。
当時、私は、冷戦はいったん始まれば、双方がまず軍事分野で対抗し始めると思っていた。
しかし、一カ月半前の私はも、中共が軍事レベルの冷戦をこれほど早くエスカレートさせるとは思わなかった。
中共は「自分たちは最初の弾丸を撃たない」(程暁農★バイデン勝利を「我慢して待つ」 米国有権者頼みの中共 2020年8月19日参照 )と言っていたのだが、そう言いつつ「銃口を空に向けて撃って見せた」のだ。
これがすなわち最近の南シナ海におけるミサイル演習だ。
冷戦では、どちらの側も最初の1発を撃ってはならないというのが鉄則だ。
1発目を撃てば、相手側も必ず応戦するから、2発目を撃たなければならなくなって、3発目も、となって激しい銃撃戦になり、最後には劣勢に立たされた側は、核兵器に訴えようとしかねない。
中共は1969年に珍宝島(ダマンスキー島)で、ソ連軍に急襲をかけた。
規模は大きくなかったが、ソ連は最後には、核兵器使用まで考えるに至り、そうならなかったのは米国がソ連を脅したからだった。
当時は米・ソ冷戦中で、双方が「第1発目は撃たない」という鉄則を守っていたから、冷戦状態が40年も続いても世界大戦にも、核戦争にもならなかったのだ。
冷戦では、双方が「銃を装填してお互いに照準を合わせる」で、この状態で「1発目は自分からは引き金を引かない」だった。
ただ、もし一方が、突然、銃口を直角に向きを変えて、横に向けて撃ったとしたら、それは「第1発目」を撃ったことになるのか、ならないのか、どっちだろう?
8月の最終週に中共がやったのがこれで、突然、「空に向けてミサイルをぶっぱなした」のだ。
これは、「第1発目を撃った」とも言えるし「撃っていない」ともいえる。
8月26日、中共の中距離ミサイル部隊と大陸間ミサイル部隊は、海南島の南方数百キロの海域に4発のミサイルを発射した。
この軍事姿勢は、米・中冷戦の枠組みにどれほどの影響を与えるだろうか?
鍵になるのは、このミサイルがどんなタイプかである。
今回、中共が発射したうちの2発は「空母キラー」と呼ばれる中距離ミサイルで、さらに2発は大陸間ミサイルだった。
★⑵ 米空母を脅かすか「空母キラー」
中共は「空母キラー」にあたる中距離ミサイルを大いに宣伝したが、同時に発射した移動式の核弾頭大陸間ミサイルについては、香港の「明報」が簡単に報じただけだった。
この2発のミサイルのうち、青海省デリンハ市の固定基地から発射された東風26B型ミサイルは、最大射程4千キロで、そのロケットブースターが交際チワン族自治区の農村部に落下した。
浙江省の西部山岳地帯のトラック上から発射された東風21D型ミサイルは、射程距離5千キロだ。
中国国内では、この4発は皆、陸上基地から発射され、落下したロケットブースターを失敗したと見る人もいるが、間違いだ。
中共は宣伝で、今回の2発の陸上基地発射ミサイルの目的は、南シナ海で活動する米国空母への威嚇であると強調した。
中共プロパガンダメディアの「多維ニュースネット」は8月29日に「空母キラーが米・中の南シナ海での力関係を変えた」という記事を掲載した。
「西側世界は初めて中国の南シナ海における東風26型ミサイルを確認した」と伝えた。
これは核弾頭搭載可能で、最長距離で「第2の島嶼ライン」と言われるグアム島を射程内に収める戦略兵器だ。
これが登場したと言うことは、次の段階の南シナ海での対立が一段と高まったということだ。
「この兵器は、今後の南シナ海における一種の入場券になる」と述べているが、その意味は、今後米軍の空母打撃群が南シナ海に来れば、中距離ミサイルの目標になりうるということだ。
中共は、すでに占領しおえた南シナ海の数百万平方海里の公海支配圏を確保するために、同地域を戦略核原子力潜水艦を隠すのに十分な安全を確保し、米国艦隊の同地域での活動を許さず、いつでも米国に向けての核攻撃ができるぞ、という意味だ。
同時に、南シナ海で領海200海里の権利を持つベトナム、フィリピン、マレーシアなどの国々に対して、「南シナ海はもう公海ではなく、中共のものだ。米国と手をつなごうとする奴はひどい目にあうぞ」ということを知らしめる為でもある。
この2発のミサイルは、本当に米海軍にとって脅威になるか? 結構疑問視されている。
一つには、米軍の空母攻撃軍は常時時速50キロ以上の戦闘巡行速度で回避運動を行えるので、中共の衛星システムがミサイル発車前の座標が、位置変更後の艦隊を捉えられるか、という疑問。
二つには、ミサイルが成層圏を超えて高速で落下してくるとき、大気摩擦が生じて、弾頭外部にできる電離層によって電子信号が途絶えて、正確なミサイル誘導ができなくなる、というものだ。
★⑶ 中共の核原潜はなぜ試射したか
南シナ海のミサイル演習で、中共がさらに2発の大陸間弾道弾を発射したのは、対米威嚇が目的だった。
先の中距離弾道弾は同じ着弾地域だったが、性格は異なるものだ。
第一に戦略原潜から発射される海上発射型ICBMであり、そのために海軍の戦略ミサイル原潜094Aは、海南の三亜玉林港の第2潜水艦基地から渤海湾沖の胡蘆島市に出撃し、そこから巨浪2A型のICBMを2機発射した。
巨浪2A型ICBMは、核弾頭装備すれば最大射程距離は1万1千キロだ。
つまり、中国の宴会から発車して、米国の西海岸を射程圏内におさめる。
もし、ミッドウェー島海域まで移動すれば、全米を射程圏におさめることができる。
米国にとっては、2発の中距離ミサイルと2発のICBMが同じことを物語っている。
南シナ海の公海は、戦略的原子力潜水艦の「隠れ家」と「発射場」として中共に占拠された、ということだ。
中共がこの「発射場」を公海で無理やり占拠したのは、渤海や黄海は戦略原潜が隠れるには浅すぎて人工衛星に探知されやすいからだ。
南シナ海の深海に隠れてこそ、戦略原潜は米軍に発見されにくくなって、安全なのだ。
この配備は、米ソ冷戦終結後、核の脅威のない30年間の平和が終わり、核ミサイルで米国を攻撃する準備のできた新たな核保有国が「剣を見せ始めた」ことを意味する。
中共の戦略原潜は、南シナ海に「安全な家」と「発射位置」を持つったのみならず、水深4千〜5千メートルのバシー海峡(台湾とフィリピン間にある海峡)からグアム島のあるマリアナ海にも安全に出入りでき、さらに深いところではミッドウェー、パールハーバー、米国西海岸にも直接入ることができ、米国全土を好きに攻撃できるわけだ。
つまり、中共戦略原潜に対する米側の第1島列島ラインの探知は失敗に終わった。
広大な太平洋は、いまや中共戦略核潜水艦の「発車陣地」になってしまって、米国の国防の安全は、これまでにない挑戦と脅威にさらされたのだ。
今回は、海南島の南が着弾地点だったが、今後はいつでもパラメーターをちょっと変更するだけで、ICBMの目標地点を南から東にして、日本の米軍基地やグアム、ウェーク島、真珠湾の太平洋艦隊基地や米本土が、いつでも中共核攻撃の標的になる。
つまり、表面上は「空に向けての空砲」のようだが、実際にはキナ臭いことこの上ないもので、核戦争の臭いすら漂わせ、中共の赤裸々な核による脅迫の素顔が露呈している。
★⑷ 戦争の方で君に興味を持つ
中共は、実はICBMによるこうした威嚇行為が「第1発目は撃たない」という善意のジェスチャーと矛盾することを、本当は全然気にしていないし、それどころか対外プロパガンダでは、より危なっかしい好戦的な声すら上げている。
8月30日、中中共の対外プロパガンダ「多維ニュースネット」の記事は、「中国と米国の対立の勢いが激化し、『二国関係安定化』の軍事関係は最近、剣の音を鳴らし始めた、硝煙の臭いが強まった」や。
8月28日の「最悪に備え流?1カ月で9回の軍事演習!」とい憂慮すべき見出しが見られる。
記事では、ソ連赤軍の父トロツキーの「君は戦争に興味がないかもしれないが、戦争は君に大いに興味があるかもしれない」という言葉を意味ありげに引用している。
また「最近、1カ月の多くのニュースは正常ではない。
まず、指導者が高らかに食料の節約を訴え、その後、全国が上から下までそのとおりに実行し、食料節約は明らかに食料や農業の話ではなく…(この…は、戦争に備えよ、という意味)と書かれている。
二つ目は、少なからぬ大都市で家庭用緊急備蓄ガイドラインする宣伝ポスターが貼られている。
警報が鳴ったときに何をすべきかを体系的に伝え、最寄りの避難所がどこにあるかを知っておこう、などというのは今年になってからの特徴だ。
第三に、先月、中国は少なくとも9つの軍事訓練イベントを発表している …… 1996年を除いて、この20年間は 中国はこれほどまでに集中的な演習をしたことがない。
中国は孫子の教えの影響を深く受けており、「兵は国の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」としている。
だから、一般の人々が何か雰囲気がおかしいと感じることは、何かが容易でない事態だということだ。
戦争はいつも突然勃発する。
だから、一番観察するに値するのは、中国は人々や社会に戦時下の状況を馴染ませるために、小刻みに進んでいくかどうか注目することだ」と書いている。
米国防総省は8月27日、中共の南シナ海軍事演習と弾道ミサイル発射について声明を発表した。
南シナ海の不安定化をさらに招いているとし、このような演習は、紛争を複雑化させ、エスカレートさせ、平和と安定に影響を与えるような活動を避けるという2002年の南シナ海における当事者行動に関する宣言に基づく中国の公約にも違反していると主張した。
★⑸ 米国の対応
米・中冷戦が勃発し、中共はこの問題を議論してから2カ月が経過したが、米側は「米・中冷戦」という言葉を使ったことはなく、軍事レベルでの口先の脅しを演できるだけ避けてきた。
冷戦をこれ以上エスカレートさせない為でもあり、また中共の新たな脅威に対抗するには、「口先での争い」ではなく行動を重んじているからだ。
マーク・エスパー米国防長官は、8月24日付ウォールストリート・ジャーナルの記事
「Pentagon Prepares to Deal with China」で、8月1日に行われた習近平の建国記念日演説で、人民解放軍を「世界レベルの軍隊に造り上げ、その影響力を沿岸から遠く離れた場所にまで広めていく」とはっきり要求していた、と指摘した。
人民解放軍は、中共の政治体制に服するものであって、国家に服するものではない。
中共は国際秩序を変えようとしており、全世界が受け入れているルールを動揺させ、その権威主義を国外でも常態化させ中国が他国を支配できるルールを作り出そうとしている。
こうした局面は、我々がすでに新しいグローバルな競争の時代にあることを意味するものであり、全盛期のソ連を相手にした時と同じように、世界各国は慎重に考え、備えなければならない。
エスパー長官は、中共の行動に対して、米国国防部は全力で全面的に対応しなければならず、速やかに米国国防戦略を実行しなければならないとした。
まず、我々は空でも地でも、海でも宇宙空間でもネット空間でも処理するにたる軍事的力を持っていることを保証し、次に同盟国との関係を強化し、同名曲の国防能力を強化する。
こうした方法で、米国が北京の横暴と支配の意図に反対し、同盟国との約束を反映したものであり、過去数十億人の人々が長年にわたって暮らしてきた安定と繁栄を支えてきた自由で開かれた国際システムを守るためのものである、と述べた。
このスピーチにはいくつかのポイントがある。第一に、今日の米・中対決と昔の米・ソ冷戦の類似で、どちらも共産党政権が世界を支配しようという意図にどう対応するか、だ。
次に、過去数十年、世界の大部分の国家が平和的繁栄を享受できたのは自由な、開放的な国際システムだったが、現在の中共はそれを変化させて、北京の派遣のために道を拓きたいと思っている。
第三に、米国は自由と開放的な国際システムを維持継続するために、同盟国やパートナーと共同で、中国の脅威に対応したいとしていること。
第四には、米欧は、中共の軍備拡張に全力で対応しなければならない、なぜならば、中共hあいままさに軍隊を国防目的から、全世界の脅威になる武力パワーに変えようとしているからだ。
ソ連と中共の冷戦戦略は、経済的利益や地政学的配慮だけではなく、イデオロギー的な根拠を持っていた。 このイデオロギーは、資本主義に対する社会主義の最終的な勝利というマルクス主義的な目標だった。
共産党の核大国がいったん一定の軍事的実力を身につければ、この目標を達成しようと、実力を強化するために、米国や他の西側主要国家を押しつぶし、あるいは空洞化しようとし、また国内の力を一身に集め自らの統治を強固にしようとする。
大半が過度に楽観的な西側のウォッチャーと政治家は、ある可能性を無視している。
中共政権は経済市場化と経済のグローバル化を利用してあらたな世界平和と安全に対する脅威を形成しており、その全世界的な目標を実行に移し始めているということだ。
地球上で、共産大国の冷戦戦略の唯一の障害は、米国に他ならず、米国だけが共産大国の意図を実現する戦略を阻止できるのだ。
★⑹ 二つの冷戦における米国の抑止戦略
中共史上最初の核の脅威はソ連からだった。
アメリカは中・ソ間の核戦争を回避するために、ソ連が中国に対する核攻撃をすれば、アメリカがソ連に核攻撃することをソ連に示し、最終的にソ連は中共への核攻撃を諦め、世界平和は維持された。(1969年、珍宝島事件の直後の話)
この時、アメリカが「山の上に座って虎の戦いを座視する」と決めこんでいれば、ソ連は中共を戦略的攻撃する目標を達成し、中共政権はソ連に敗北しないまでも絶望的な状況に陥っていただろう。
そして、ソ連は背後からの中共の脅威を無くした後、第2次大戦で関東軍を破って軍隊をシベリアから西側に転じさせたように、欧州を主戦場としただろう。
1960年代後半に中共が敗北すれば、ソ連は軍隊を西側に配備し、米軍をリーダーとするNATO軍は、更に大きなプレッシャーに晒されることになる。
これがニクソン大統領が、中共という「紅色の鬼」を受け入れた理由だ。
この歴史的経験は、冷戦時代の基本的なルールの一つ、すなわち、米国の核の脅威が世界の平和維持に有効であることをも示している。
米共和党下院議員で下院軍事委員会のマイク・ターナー委員は26日、米シンクタンクのアトランティック・カウンシルで、大国競争に対処する上での抑止戦略の重要性を説くセミナーを開催した。
彼は「抑止戦略の役割は、敵対者にリスクを警告し、我々の能力を十分に評価した上で紛争を回避するよう促すことだ」と述べた。
さらに、米国の戦略的競争相手である中共は、軍事近代化を終えた後、野心が高まり、米国を凌駕する能力を持つようになっているので、米国は積極的に軍事的コミットメントを高める措置を取らなければならないと付け加えた。
「中国の冒険的で威圧的な行動を抑止するためには、抑止戦略を実施するだけでなく、追い抜く方法を見つける必要がある。 そのためには、軍事現代化を進めるだけでなく、創造性も必要です」と述べた。
米・ソ冷戦時に米国の抑止戦略が成功したのは、ソ連指導部が「人命は貴重」「核戦争で国を滅ぼして地球を滅ぼすことはできない」という普遍的価値観の最低ラインを受け入れていたからであり、「冷戦の鉄則」というコンセンサスによって、熱い戦争を回避することに成功した。
しかし、米・中冷戦になっても同じような結果になるのだろうか。
我々には分からない。重要なのはアメリカではなく、中共にある。
米国の行動準則は決まっている。つまり米・ソ冷戦と同様、自ら核攻撃を仕掛けることはない。
しかし、中共は三つの方面で、ソ連共産党とは全く異なっている。
第一に、中共は初めから人の命はかけがえがないなどとは思っていない。
それどころか反対に、政権の目先の必要性に応じて、民衆の生命を犠牲にしてきた。
大躍進は大飢饉を生み、数千万人の餓死者を出したのがその一例だ。
天安門事件もしかりだ。
第二に、毛沢東の「人がいくら死んでも、まだまだ残っている」という観点は共産軍の中にずっと影響を残している。
だから、中共の核戦争への恐れは、ソ連共産党ほどではない。
第三には、中共党のトップの軍隊に対するコントロール能力は、条件付きだということだ。
軍が軍備拡張を求めるときにブレーキを踏むのが大変難しいのだ。
間違えたら軍隊を管理できず、権力の危機を招きかねない。
そして、このようにして軍の存続に甘いアプローチをとれば、第2次世界大戦で日本軍部が政府を操作して独自の戦略を勝手に進めたような状況を作り出すことができるのだ。
軍隊は軍事力を展開することによって、摩擦を意味だし軍備拡張の目的を達成しようとすれば、冷戦はエスカレートし続ける。
そしていったん、局面のコントロールが効かなくなった場合、党のリーダーは軍の意思に従うことになる。他に道はないからだ。
太平洋戦争の勃発前に、日本の近衛首相は辞職の道を選んで、個人でまだ何とか戦争開始の決断をしないで済んだ。
今後、米・中冷戦の中で、もし共産軍がブレーキをかけようとしなければ、誰がかけられるだろう。
この機能がないということは、まさに中共体制の致命的な弱点なのである。
(終わり)