投開票日の11月1日22時44分、「反対多数確実」とNHKが報じた後、記者会見に臨んだ維新代表の松井一郎市長と維新副代表の吉村洋文知事© HARBOR BUSINESS Online 提供 投開票日の11月1日22時44分、「反対多数確実」とNHKが報じた後、記者会見に臨んだ維新代表の松井一郎市長と維新副代表の吉村洋文知事

松井市長も吉村府知事も、政界引退を示唆

大阪都構想(大阪市廃止と4特別区への移行)の是非を問う住民投票の投開票が11月1日に行われ、約1万7000票で反対多数となった。

橋下徹・元大阪市長が政界引退をした2015年5月に続く2度目の否決で、看板政策の実現に向けて“全力投球”してきた維新は大打撃を受け、蜜月関係にある菅義偉首相の政権運営にもマイナスになるのは必至だ。

 賛成派が若干のリードを保ったまま、開票率が80%を超えた22時44分。

NHKが「反対多数確実」とテロップを打ち、維新ツートップの会見が予定されていたホテル会場はどよめきで包まれた。

モニター画面に釘付けになっていた記者たちからは「5年前と同じパターンだ」という声が漏れ聞こえ、すぐに複数のテレビ局が現場中継を始めた。

23時からは、維新代表の松井一郎大阪市長と維新副代表の吉村洋文大阪府知事が、公明党府連幹部とともに記者会見。

すでに、否決の場合には任期満了(2023年4月)での政界引退を表明していた松井市長は、この日も同じ考えであることを述べた。

そして、意外だったのは吉村府知事も「任期中に進退を考える」として、同時期の政界引退の可能性を示唆したことだ。

コロナ対応で「最も評価する政治家」の第1位に躍り出た吉村府知事はテレビにも頻繁に登場。

参院選でも党勢拡大につながった“吉村人気効果”で、都構想の住民投票でも「賛成多数は確実」と予想されたが、まさかの敗北を喫したのだ。

2週間にわたってゲリラ街宣を行った、れいわ・山本太郎代表

在阪の市民や、自民党大阪府連や立憲民主党、共産党議員が国政での壁を超えて反対の街宣を行ったことも奇跡の大逆転との要因だ。

れいわ新選組の山本太郎代表も、その1人だった。

投開票2週間前から大阪に滞在して、連日ゲリラ街宣を繰り返していたのだ。

投票日も、投票箱が閉まる1時間前の19時過ぎまで団地の前でマイクを握り、「投票に行ってください。行った人は、投票に行っていなさそうな人に声をかけてください」と訴えた。

「維新が言う『大阪の成長を止めるな!』。

その数字を見たら大阪の成長、維新が知事・市長をやってから全国レベルでは(平均以下で)止まったまま。いや下がっている」と繰り返し訴えた。 

また山本代表は、維新が「大誤報」と批判した10月26日付の『毎日新聞』の記事(見出しは「市4分割 コスト218億円増」)を“援護射撃”するような街宣を連日行っていた。

モニターでデータを見せながら説明する山本代表の街宣が、反対派の大きな戦力(そして賛成派からすれば大きな痛手)となったことは間違いないだろう。

維新は敗北を受け入れるのか?

今回の都構想否決は、維新と蜜月関係の菅政権にとっても悪影響は避けられない。与野党対決法案において、結局最後は賛成に回ってきた維新が、菅政権でも野党分断のカードとして重宝されるのは確実視されているからだ。

しかし、23時から始まった賛成派の会見会場では、松井市長も吉村府知事も「否決の結果を受け止める」と発言。

橋下氏も出演したテレビ番組(フジテレビ系組『Mr.サンデー』)で、「3度目の住民投票はない」と発言。さらに、自身も政界に戻ることはないことを改めて断言していた。

さらに翌朝のTBS系番組『グッとラック!』では、「松井さんも、政治家を辞めたくてしょうがないんですよ。早く民間人になりたいんです」「吉村さんもそうなんです。あの人も早く民間人に、自由な生活に戻りたいんですよ」とコメントした。

橋下氏の動向しだいでは3回目の住民投票も?

 ところが、そんな橋下徹氏は住民投票前の10月28日、それとは対照的な発信をTwitter上でしていたのだ。

「『毎日新聞』の『大誤報』記事が反対票を増やすのは確実だ」として(筆者記事「『維新』対『毎日』のバトル勃発。維新の無理筋批判は大阪市の住民投票に影響するか」参照)、こんなツイートをしていた。

「住民投票直前に、最大の争点について、大阪都構想に不利な形で在阪メディアが大誤報をしでかした。都構想が可決されればそれでいいが、否決されれば住民投票は無効だろう」

 そこで、開票前に馬場伸幸・維新幹事長に筆者が橋下氏のツイートの件を伝えたところ、「(無効訴訟など法的措置について)党内で議論することになるだろう」と答えたのだ。

もし橋下氏が都構想について何らかの具体的提案をした場合、維新の対応が変わる可能性は残っているということを匂わせていたのだ。

念のため、否決が決まった会見後にも再び馬場幹事長に聞いてみたが、「橋下氏の提案で方針が変わる可能性」を全否定することはなかった。

今回、都構想は否決されたものの、まだまだ波乱要因を含んでいる。

過去に、「(出馬は)2万パーセントない」と言っておきながら2007年の大阪府知事選にいきなり出馬した橋下氏のことだ。

いつ前言を翻すかも知れず、3度目の住民投票となる可能性が完全に消え去ったとは言い難い。今後の動向が注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数