東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

下肢切断者の在宅診療での注意点(朝の勉強会)

2015-05-13 19:15:06 | 勉強会
 今日は、昨日の朝の勉強会の内容を紹介します。後期研修医の橋川先生が、診療のなかでの疑問からテーマを選んでやってくれました。アドヒアランスの問題含めて、義肢が必ずしも導入できない方もいますよね。コントロールの悪い糖尿病がベースにある方も多いですし。そのようななか、在宅でどのように下肢切断者をみていけばよいのかを疑問に思い、調べてくれました。


<下肢切断者の在宅診療での注意点>

★背景
下肢切断者は近年増加、高齢化。
60歳以上がほとんど。
原因は末梢循環不全でASOとDMが85%。
 (高齢者切断の義肢 -処方の実学- Jpn J Rehabil Med 2008;45:331-348)

★下肢切断の生命予後
30日死亡率
 大腿 16.5%  下腿 5.7%
  (原因:敗血症、心疾患、創部感染、肺炎)
1年生存率
 大腿 50.6%    下腿 74.5%
 DMあり 69.4%  DMなし 70.8%
 CKDあり 51.9%  CKDなし 75.4%
5年生存率
 大腿 22.5%    下腿 37.8%
 DMあり 30.9%  DMなし 51.0%
 CKDあり 14.4%  CKDなし 42.2%

(JAMA Surgery April1,2004,Vol 139,No4
Major Lower Extremity Amputation outcome of a modern Series)

★下肢切断後合併症
断端痛、 幻肢痛
皮膚病変
抑うつ 1年後21%に発症
(動けるか、痛み、フラストレーションが関与。)
健側下肢にも病状進行
健側膝関節・股関節に炎症や変形
健側肢の皮膚病変
筋力低下
 (Ann Vasc Surg. 2015 Feb 26. pii: S0890-5096(15)00082-5. doi:
10.1016/j.avsg.2014.12.005. [Epub ahead of print]
Domains that Determine Quality of Life in Vascular Amputees.)

★下肢切断者QOL決定因子
Mobility 65%
Pain60%
Progression of disease in the remaining limb 55%
Depression/Frustration 54%
(Ann Vasc Surg. 2015 Feb 26. pii: S0890-5096(15)00082-5. doi: 10.1016/j.avsg.2014.12.005.
   Domains that Determine Quality of Life in Vascular Amputees.)

★まとめ:下肢切断者の在宅診療で気を付けること
皮膚所見
  健側・切断側ともに。
  健側のフットケア
筋力低下
関節痛
創部痛/幻肢痛
抑うつ


 個人的には生命予後も結構悪いなというところと、やはり健側の状態をいかに保つか、精神的なケアなどが重要だなと感じました。訪問看護との連携は重要かなと思います。
 

「高齢者の自転車による事故・負傷」について

2015-05-11 20:34:02 | その他


今日は外来をしていました。外来も継続的に拝見させていただいている方が多いので、長い方はもう8年ほど診察させていただいております。当院はやや不便な場所にあるので、外来の高齢患者さんがどのような手段で通院してくるのかは気になるところで、聞いたりします。当院で働く前の話ですが、自転車で外来に来ようとして、その途中で事故にあった方がいました。健康のために、病院に来ているのに、事故にあってしまっては・・・とひどく後悔したのを覚えています。それ以来、病院にどのような手段で来ているのかを気にするようになりました。患者さんによっては、自転車・自動車・徒歩も通院において危険となる場合もあり、またそれは通院に限らず、普段の生活においてもであると思われ、介入が必要であれば、短い時間にはなってしまいますが、外来でアドバイスするようにしてはいます。
 本日はその中で、「自転車」について書きたいと思います。


<高齢者の自転車による事故・負傷>

★高齢者の自転車事故・負傷は多いのか?
米国:1975年 死亡事故の32%⇒2000年 71%↑
スウェーデン:1967-96年で死亡事故の約半数が高齢者
自転車に関する負傷(スウェーデン):65歳以上で3倍、75~84歳で6倍増える (Ekmanら,2001)

★高齢者はどのように自転車で負傷するのか?
Scheimanらの報告(2010年):65歳以上の自転車で負傷した456例
自転車の乗り降り時の転倒(20%)、地面のくぼみや歩道のはしによる転倒(13%)、車にぶつかる(6%)
負傷の半数は、骨折・脱臼。10%が脳震盪・頭蓋内出血

★どのような高齢者が自転車で負傷しやすいのか?
⇒該当文献なし
★高齢者の自転車での負傷を防ぐには?(Janice,2003)
・ヘルメットの着用(頭部外傷85%↓、下顎以外の顔面外傷↓)
・交通規則守る    ・天気の悪い日は乗らない
Cf.単独事故⇒60歳以上、アルコール摂取、夜間、不慣れな道でリスクUp

上記をふまえて、「自転車」で通院している患者・「自転車」によくのる患者に対しての外来でのチェックポイントを考えてみました。

・最近、自転車で転倒しそうになったりは?
・乗り降りでバランスくずしそうになる時は?(高さあってる?)
・ヘルメット着用の推奨
・夜間・天気の悪い日に乗らないよう
・アルコールや内服にも注意

 
 ついつい忙しいと、流してしまう部分ではあるのですが、診察室の外も意識した診療を行わねばと、本日書いていて思いました。

 ちなみに写真は、先日学会で盛岡に行った際に、見かけた「石割桜」です。

施設における看取りを考える

2015-05-08 22:08:57 | その他
 私たちが嘱託医で関わらせていただいている特養の1つが、最近看取りの対応をするようになっています。施設の開設時から関わらせていただき、いろいろ協力・相談しながら看取りを行える体制になってきたことは、関わらせていただいている1人としてうれしいことです。施設のスタッフの方々のがんばりによるものと思います。全国でも、現状ではまだまだ特養で最期までいられる方は3割程度というのが現状のようです。夜間に看護師さんがいない施設が多かったり、介護職の方も看取りの研修機会が少なかったりといろいろな障壁があるからとも言われているようです。個人的には、「施設で看取るべきだあ!」とかそういう強い思いはないのですが、何より入所者さんや家族にとって、「施設で亡くなる」という選択肢があることが重要なのかなと思っています。それを選べることが・・・。少し文献も含めて施設でお看取りするにあたってどのようなプロセスで医師として関わっていけばよいのかを考えてみました。(私見中心ですので、あしからず)


<施設における終末期対応について>

★“看取り”前まで
①患者・家族・施設職員と終末期であることの共有
②施設でみることが困難となる状況をできるだけ避ける
 症状コントロール:施設入所者で、最後の1か月で47%に「痛み」、48%に「呼吸苦」、72%に「食事量低下」を認め、亡くなった約半数は痛みや呼吸苦のコントロールが十分ではなかった。(Hansonら,2008)→早めのHOT導入やオピオイドの使用を具体的に検討
★“看取り”のとき  
①死亡場所にどこまでこだわるか:遺族の満足度と死亡場所(施設かどうか)は関連あり(Vehra,2004)→「施設で亡くなる」という選択肢があることは重要か。
②介護職員の心理的負担:介護職員は看護職員より施設看取りへの精神的負担大きい(早坂ら)、介護職員は「看取りに対する恐怖心」を持っている(深沢ら,2011)
 →介護職員の不安・心配・恐怖心を医療者としてどのように軽減するかは重要か。
ちなみに、特養の看護職員の7割が看取りを困難と感じており(橋本ら,2014)、看護師への負担の配慮も重要と思われる。
★“看取り”後
家族や職員へのケア(産業医との連携)、ふりかえり(デスカンファレンス)

上記をきちんと実践できているとは、まだまだ言えませんが、以前と比べると形になってきているのかなと感じています。
先日行った施設スタッフとのデスカンファレンスも非常に勉強になりました。


          

                                                                       

施設での抗精神病薬投与について

2015-05-05 23:54:34 | カンファレンスの話題
 ゴールデンウィークですね。当科でも交代で休みをとっています。ということでちょっと更新さぼってしまいました。言い訳です・・・。
先日のカンファの中で施設での抗精神病薬投与の話が少し出ました。訪問診療をやっていて、時々家族が、デイやショートで利用している施設の方から抗精神病薬の内服を医師と相談するようすすめられ、家族から相談されることがあります。また、嘱託医を行っている施設の患者さんでも、入所時や経過中に抗精神病薬の処方が行われることがあります。抗精神病薬の関しては、メリットもあればデメリットもあると思うので、そのあたりの知識を整理しておくことは重要なことですし、他の職種にも説明できるようにしておくことも必要かなと思います。とはいっても、現場では、知識とは別の次元で行動することも時には必要とは思いますが・・・。
 ということで、少し施設での抗精神病薬投与についてまとめてみたいと思います。

★抗精神病薬投与の害について
・FDAは2008年に、高齢認知症患者への定型•非定型の抗精神病薬投与は、死亡率を増加させることを勧告。
・Nursing Home(NH)において、抗精神病薬の投与は骨折の発生と関連
 (Rigkerら,J Am Geriatr Soc 2013)
★抗精神病薬を中止することのデメリット
 NH患者に限定した研究ではないが、抗精神病薬の中止により症状(NPI score)は悪化しない(コクラン2013)
★抗精神病薬を減量•中止することは可能か?
 心理社会的介入により、ホームの患者の抗精神病薬を減量することが可能(コクラン2012)
★実際にはどれくらい使用されているのか?
 EU8ヵ国を対象とした研究で、NH患者の3割以上が抗精神病薬内服(Foebelら,J Am Med Dir Assoc  2014)
★投与する場合の薬剤選択は?
・NH患者で、第1世代の抗精神病薬の方が180日以内の死亡率高い:リスペリドンと比較してハロペリドール有意に高く(HR2.07)、クエシアピン有意に低い(HR0.81)。 (Huybrechtsら,BMJ 2012)
・NH患者で、第1世代の方が開始20日以内の入院率高い。(Aparusら,Psychiatr Serv 2014)
・NH患者で、第1世代の抗精神病薬の方が、180日以内の感染症・MI・大腿骨頸部骨折の入院率を上げ、脳血管障害は下げる。
非定型の中では、リスペリドンと比較して、オランザピンとクエチアピンは脳血管障害の入院少なく、クエチアピンは感染症の入院少なく、大腿骨頸部骨折の入院は増える。
ドーズと入院との関連あり。  ( Huybrechtsら, J Am Geriatr Soc 2012)
★ちなみに、抗痙攣薬に関しては、BPSDに対してカルバマゼピンは有効だが、バルプロ酸は有効でない(YehらのSyS Rev)

上記を考えると、やはり抗精神病薬の投与はできるだけ最小限としたいですし、使うときも量などは少な目からにしたいなと再認識しました。また、種類でいうと、デメリットを考えると、やはり第1世代は第1選択としては避けたほうがよいのでしょうね(効果という面でどうかは違った検証が必要と思いますが)。


ちなみに、日本では・・・
最近、JーCATIA;1万人以上のアルツハイマー型型認知症を対象とした前向きコホートの結果が出たようです。ちょっと前に調べた時点ではまだ論文化はされていないようでした。(されていたらごめんなさい)それでは、「24週までの死亡率で抗精神病薬内服による有意な死亡率上昇なし」との結論でした。中身みないとわかりませんが、FDAの勧告が出てからそれなりに時間がたっているし、本当に必要な人に少量ずつ使うようになっているといったこともあるのでしょうか・・? 論文となったら、よく確認してみたいと思います。


自分たちが嘱託医をしている2つの施設では、約8%程度が抗精神病薬の内服をうけていました。EUのデータと比べるとだいぶ少ないのでちょっとほっとしましたが、引き続き非薬物的なアプローチでどうにかならないか施設のスタッフとともに今後も模索していきたいと思います。