高校ではクラブ三昧の生活だった わき目もふらずに集中したよ それなりの結果は出したけどね
推薦で大学には行かなかった 体操を続ける気はなかったんだ 続ければ将来は教師になるのかなと思った
俺には家業を継ぐ宿命があった 年上の個性の強い連中を相手にする苦労は分かっていたよ
社会に揉まれていろいろな経験と知恵をつけないと太刀打ちできないと思っていた
大学に行ったら社会勉強をする必要があると思っていた 親父もそれを望んだからね
現役での大学入試は失敗したよ 一年浪人した 受験勉強をして大学入試をしたけど希望校に合格するまでには至らなかった
それでも大学には入れたよ 大学に行ったら同好会程度でも運動をしたかった 新入生の勧誘が行われていたよ
ふらふらしてたら見覚えのある顔に出会った 小学生の頃の同級生だった ひ弱な奴だったけどね
見ると硬派で引き締まった顔をしてたよ 格闘技をやってたよ 誘われて俺も入部した
同級生は先輩になる 言葉遣いから入った 何かこそばゆったけどね 先輩として接したよ
二人になった時、敬語はいいよと言われたけどね 区別がつかなくなるから先輩として接したよ
基礎練習は軽いものだった 高校の体力作りに比べれば６分目程度で俺にはきつくなかった
型を練習してから乱取りをやった グローブをつけて試合形式で練習もしたよ 面白かったよ
試合は遠慮は要らないからね 慣れてきたら俺は先輩に負けなくなった 体は出来ていたからね
おまけに間接が柔らかいだろ 手足が自由に動くんだよ 試合で心おきなく戦ったよ
練習が終ると一週間に一度位の感覚で気合を入れられて殴られるんだよ ２年生が一発づつ殴ってくる
十数発殴られるんだけどね 殴るほうも加減してるよ 慣れてくるとそれ程でもなくなるよ
でも、中には嫌で辞めたくなるやつが出てくる 先輩に脅されて恐くて逃げ出せない奴もいる
先輩連中は辞めさせないために脅したよ 辞めるようなやつは大学にいられなくしてやる
リンチでボコボコにするぞ まともな体では帰さないからなと言って脅すんだよ 俺はこの脅しには反発したよ
そのうちに３年が俺に声を掛けてきた 暮れの大会に演舞でパートナーにならないかと誘ってきた
演舞で俺を投げると気持ちがいいらしい 俺は綺麗に投げられてピタット着地するからね 気に入られたんだよ
何があっても我慢しろよ 我慢しても一年だからな 絶対辞めるなよと言われたけどね
そのうちに３年では一番の実力者が俺と乱取り練習をした 回し蹴りの威力は防御が効かないほど強烈だった
受けた腕は折れそうになるし、当たった背中はしびれてきたよ ３段の実力はプロだね 別格の強さになってるよ
乱取り中に俺の蹴りが間違えて顎に入ってしまった まずいと思った瞬間に鬼の形相になったよ
ボコボコに蹴られた 素手だったので、さすがにパンチは当ててこなかったけど 蹴りの破壊力はあったね
その先輩は高校時代にボクシングをやってた実力者だった 拳のパンチは危ないと思って使わなかったんだろう
朝鮮高校の生徒と喧嘩になり、一人で５～６人をノックアウトした猛者だった クラブでも実力ナンバー１だと思うよ
夏休みが近づいてきた 夏の合宿に参加すれば初段になるんだけどね クラブを辞めたいと言う仲間が出てきた
２～３人いたんだけどね 恐くて震えて辞めるって言えないんだよ 脅しに屈しているんだね
他の大学でリンチ殺人が出ていて社会問題にはなっていたけどね 大学の風習は残ってたからね
辞めたいって言ってる連中は大学を辞めるって言い出したんだ 辞めたら半殺しにされるから恐いと言い出した
大学を辞める以外に方法がないって言うんだよ 俺は大学まで辞める必要はないだろって言ったけどね
震えて今にも逃走しそうな雰囲気だった 脅しの言葉を真に受けているんだね
リンチ殺人も殺す気でやる訳はないからね 当たり所が悪かったのかもしれない 簡単に人を殺せるとは思わなかったよ
ただ、恐怖で押さえつけてるからね 先輩にも恐怖で頭をやられている奴がいるんだ
自分自身が恐いから、やれって命令されると加減知らずでやってしまう そんな奴は目でわかる
俺は脅されてやるのが嫌だった、恐怖に屈して負けているように感じたよ 「やってみろよ！」反発心が出たんだ
一年があまりにも恐がるから「俺が退部届けを出すよ、俺の結果を見てから判断しろよ、大学は辞めるな」と言ってしまった
そんなの無理だろ 本当に出せるのかと疑われたけどね 俺も引っ込みがつかなくなったよ
退部届けを書いて出したよ ３年から呼び出された 実力ナンバー１の奴が出てきたよ
脅してきたよ「お前、辞められると思ってるのか、生きて帰れないぞ、それでも良いのか」と脅したよ
俺は撤回しなかった リンチを受けてでも止めると言い切った 前期の練習の最終日がリンチの日になった
厳しい練習で泣き出すものも出た 何時になくきつかったよ 練習後、学舎の屋上に連れて行かれたよ
２年が全員いたよ 俺の同級生はボイコットした 後で気合を入れられたらしい 迷惑をかけてしまったよ
正座させられてリンチが始まったよ、周りを囲まれて殴る蹴るが始まったんだ 最初は規則的に来たから蹴りやパンチが見えたよ
とんがった革靴で蹴ってくるから腕で腹を庇った 内臓破裂はまずいからね パンチは頭で受けた
おでこに当たるように動かし、当たる瞬間に軽くダッキングして顔を振ったよ ショックを吸収したんだよ
それでも当たる度に 赤い星が花火のように飛ぶよ パカーン パカーンて感じだね
右利きが多いからね 右利きのパンチは反応できたんだけどね 左利きが途中で参加してきた
こいつは危ない奴で頭がやられてる奴だよ 池袋で酒を飲んでるときにサラリーマンに絡んで殴った奴だ
普段は練習に出てこないのに人が殴れると思って出てきたんだろう 右利きのパンチを受けて流したところにこいつのパンチが来た
左利きだからこぶしがまともに目の下の急所に入ったよ やばいと思うような痛みが走った
パンチが見えなくなってきた ボコボコと衝撃だけが伝わってきたよ ４０～５０発位は殴られただろう
ようやくリンチは終ったよ 俺は最終電車に乗って家まで帰ったよ 異様な姿だったと思うよ
顎の間接をやられて口が開かない 一晩冷やして翌日病院に行ったよ
整形外科のレントゲンで骨の骨折を見てもらった 幸いにも骨折箇所はなかった
顔はバスケットボールみたいに腫れて自分の顔ではなかったよ 打撲だから薬を貰って冷やして直したよ
顎の間接をやられて口が開かないからね 食べ物に困ったね 噛めないからね 流動食だよ
少しずつ開くようになってきたけどね 今度は顎が外れそうになる 噛もうとすると関節が引っ掛かるんだよ
ガクガクして思うように噛めないんだ 普通に飯を食えるようになるには３ヵ月位かかったね
あくびをすると間接が引っ掛かるんだ 顎の間接の違和感がなくなるには数年かかったよ
左利きにやられた顔面パンチはね 顔の左側半分の目下から唇にかけて神経が麻痺したんだ、痛みが感じられない
唇はしびれて触ると気持ちが悪いんだ 黒い鼻血が数ヶ月間出てきたね 唇の痺れが取れるまで数年かかったと思うよ
目下の急所の違和感は１０年位は取れなかったから一生抱える違和感だと諦めたけどね
天候が悪いとジュクジュクするような違和感が出てね 押すと痛痒い感じが出るんだよね
それでも回復するもんだね 今は殆んど感じないからね リンチで死者が出ても不思議ではないね
殴る奴が加減を知らないとね 急所に入ればやばいよ やられる方も守らないとね 致命傷になるね
異常事態だからね 今度ばかりは親にも事情を説明したよ 入学したばかりだからね 損害賠償請求をするかを考えたよ
まずはクラブの連中がしつこく絡んでくるかだったけどね 俺の退部は受理されていたよ
２年の先輩だったリーダー格に酒を誘われた 飲みながら俺に詫びたよ 儀式だからしょうがないんだとね
「お前はリンチを受けて辞めた もう誰も手は出さないよ 大学生活を楽しめ それにしても勿体無いことしたな お前の演舞を見たかったな」と言われたよ
「お前は格闘技が好きだろ、何が我慢できなかったんだ、上下関係か」って聞かれたけどね 応えなかった
俺も好きな格闘技だったのに何故意地を張って辞めてしまったのか分からなかった 未練が残っていたよ
俺は気持ちの整理がついたよ 親父に言って損害賠償はなかったことにしたよ
その後、俺の後を追って退部した連中が出た 一人は大学を辞めた 一人は逃げ回ったらしい
退部届けを出して正式に辞めたのは俺だけだったようだよ 当時のリンチは危なかったからね
２０１８年 ５月 日大のアメリカンフットボールで異常な傷害事件が起きたよ ゲーム中に相手選手を潰す（怪我をさせる）事件だよ
事もあろうに監督やコーチの命令で選手が殺人タックルをくらわしたんだね まるで刺客行為だよ ヤクザに倣ったヒットマンだね
教育機関で監督であり常務理事でもある責任者が命令するかね？ 異常な人格を管理者とする大学だね
この位の悪行は組織ぐるみってのは、５０年も前だったら分かるけどね 俺は実体験をしているからね
この様な環境で育った教員が全国に散って、体育系の新任教師として赴任するからね 教育が歪むんだよ
異常人格者を増産しているようなもんだよ 人を苛めるのは面白いし、罪悪感も感じないんだね
悪しき苛めの連鎖を恥て止めないとね 日本がおかしくなるね 立派な人を育てる人格教育を目指すべきだね