大手企業などでハラスメント教育や相談対応に当たってきた吉本恵子さん。
組織でハラスメントが起きたときの対処などについてうかがいました。
■被害者も加害者も、まずは相談を
──実際に職場でハラスメントが起こってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
吉本さん:人と人が集まる以上、衝突やコミュニケーションの食い違いが起こるのは避けられません。
そこでもし、職場でハラスメントが起こってしまったらどうしたらいいのか。ハラスメントの被害に遭った場合、まずは相談することが大切です。
特に大きな組織では、ハラスメント通報窓口など、自社内に体制が整備されている場合も多いでしょう。
ケースによっては、働き方の問題に詳しい最寄りのハローワーク、労働基準監督署に相談も可能です。
一人で抱え込まないことが大事です。
相談するときは、自分が一番相談しやすい方法を選んでください。
もともと人と会うのが苦手な人もいれば、気持ちが落ち込んでいるときは、「人に会うのが嫌だなぁ」と思うこともあります。
そんなときは、メールや電話でも大丈夫。最近はLINEで相談できる機関も増えています。自分自身が最も使いやすい方法を選んでほしいと思います。
「加害者」とされた場合にも、まずは相談です。
自分のことを客観的に見るのは難しいですから、自分が本当にハラスメントに当たる行為をしたのか、第三者の意見を聞くことが必要です。
■ハラスメントで悩む人に気づいたら「見る」「聴く」「つなぐ」
──もしハラスメントで悩んでいる人を見かけたら、何をしたらよいのでしょうか。
吉本さん:ハラスメントで悩んでいる人に対して、周りの人ができることもあります。それが「見る」「聴く」「つなぐ」です。
「見る」では、まずその人の様子をさりげなく観察してください。元気があるか沈んでいるか、髪型が乱れていないか、服装は以前に比べてどうか、
会話が少なくなっていないか、会話を単語レベルで話そうとしていないか、などが心身の不調のサインです。
「聴く」のフェーズでは、ちょっと声をかけてみましょう。相手が応えてくれたらチャンスです。
相手の話を徹底的に「傾聴」しましょう。ここでは口を挟まずに最後まで集中して「聴く」ことが重要です。
途中で自分自身の経験談、たとえば「自分もそれは乗り越えられた、君も絶対大丈夫だよ」なんてアドバイスしたら、信頼関係が破綻することがあります。
相手は自分の話を聴いてもらいたいだけなのですから。
最後が「(専門家に)つなぐ=リファー」。カウンセラーなどの専門家ではない場合、その人の深い悩みになかなか対応することはできません。
そんなときは社内、社外の専門家につないでほしいと思います。
この「見る」「聴く」「つなぐ」は、ハラスメントに悩む人の周りにいる誰でもができることです。
■企業のトップは組織風土を「つくる」
──会社としても、ハラスメント対策は喫緊の課題です。組織としては、何が求められているでしょうか。
吉本さん:企業や組織のトップ、あるいは管理職の人たちのハラスメント防止に対する意識も大分変ってきました。
国は、職場でのハラスメントの防止を目的として2020年6月に「労働施策総合推進法」を改正し、パワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付けました。
いわゆるパワハラ防止法です。
大企業はもとより、2022年4月からは中小企業にも適用され、「ハラスメント防止研修の実施」や「相談窓口の設置」など、対策を講じることが強く求められています。
このような背景もあり大企業ではハラスメント防止の対策がかなり進んできましたが、中小企業ではまだまだ整備が追いついていないところもたくさんあります。
「私が作った会社で、私のやり方でここまできた。これがパワハラだって言われても……」と話す町工場の社長さんもいます。
これまでのやり方を引きずってしまうそのような会社では、どうしてもハラスメント対策は後ろ向きになりがちです。
一方で、「ハラスメントは決して許されない。ハラスメントはときとして死に至るまでの危険行為だ。
会社からハラスメントを絶対になくす」と言って、さまざまな施策を続けてきた大企業のトップもいます。
企業においてハラスメント防止が進むかどうかは、トップの決断が大きいのだと思います。
トップの宣言は、ハラスメントを含めた職場のトラブルを未然に予防する抑止の意味でも効果が大きいですし、
従業員にとっても「大切にされている」と感じられ、労働意欲の向上に大きくつながっていくと思います。
ハラスメントを防止するには、まずは職場のコミュニケーションを良くすることが必要です。
風通しの良い職場の風土を作ることを意識してほしいですね。
次に、そこで働く人すべてが、「ハラスメントはいじめであり嫌がらせだ。危険行為でもある」としっかり理解することが重要です。
この理解が徹底されていれば、職場でのハラスメントを見たときに、何か行動に移す人が出てくるはずです。
最後に、過去にハラスメントをしてしまった人たち、あるいは「ハラスメントに当たるかもしれない言動を取ってしまった」と悩む人たちもいると思います。
そんな人たちは、今日からそれをやめていただければ、いいのです。
トップから社員まで、組織を構成するすべての人の協力があってはじめて、組織は変わります。
自分も組織を良くする一員なのだということを、ぜひ覚えていてほしいですね。
PROFILE 吉本恵子さん
株式会社キャリア・ストラテジー代表。大学卒業後、商社で中国貿易に従事し、フリーランスの中国語通訳として独立。40代で大学院に進学し、日本語学校や大学、大学院などで多くの学生を指導している。産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、精神保健福祉士の資格保有。多くの組織でハラスメント防止研修や相談対応を行っている。
組織でハラスメントが起きたときの対処などについてうかがいました。
■被害者も加害者も、まずは相談を
──実際に職場でハラスメントが起こってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
吉本さん:人と人が集まる以上、衝突やコミュニケーションの食い違いが起こるのは避けられません。
そこでもし、職場でハラスメントが起こってしまったらどうしたらいいのか。ハラスメントの被害に遭った場合、まずは相談することが大切です。
特に大きな組織では、ハラスメント通報窓口など、自社内に体制が整備されている場合も多いでしょう。
ケースによっては、働き方の問題に詳しい最寄りのハローワーク、労働基準監督署に相談も可能です。
一人で抱え込まないことが大事です。
相談するときは、自分が一番相談しやすい方法を選んでください。
もともと人と会うのが苦手な人もいれば、気持ちが落ち込んでいるときは、「人に会うのが嫌だなぁ」と思うこともあります。
そんなときは、メールや電話でも大丈夫。最近はLINEで相談できる機関も増えています。自分自身が最も使いやすい方法を選んでほしいと思います。
「加害者」とされた場合にも、まずは相談です。
自分のことを客観的に見るのは難しいですから、自分が本当にハラスメントに当たる行為をしたのか、第三者の意見を聞くことが必要です。
■ハラスメントで悩む人に気づいたら「見る」「聴く」「つなぐ」
──もしハラスメントで悩んでいる人を見かけたら、何をしたらよいのでしょうか。
吉本さん:ハラスメントで悩んでいる人に対して、周りの人ができることもあります。それが「見る」「聴く」「つなぐ」です。
「見る」では、まずその人の様子をさりげなく観察してください。元気があるか沈んでいるか、髪型が乱れていないか、服装は以前に比べてどうか、
会話が少なくなっていないか、会話を単語レベルで話そうとしていないか、などが心身の不調のサインです。
「聴く」のフェーズでは、ちょっと声をかけてみましょう。相手が応えてくれたらチャンスです。
相手の話を徹底的に「傾聴」しましょう。ここでは口を挟まずに最後まで集中して「聴く」ことが重要です。
途中で自分自身の経験談、たとえば「自分もそれは乗り越えられた、君も絶対大丈夫だよ」なんてアドバイスしたら、信頼関係が破綻することがあります。
相手は自分の話を聴いてもらいたいだけなのですから。
最後が「(専門家に)つなぐ=リファー」。カウンセラーなどの専門家ではない場合、その人の深い悩みになかなか対応することはできません。
そんなときは社内、社外の専門家につないでほしいと思います。
この「見る」「聴く」「つなぐ」は、ハラスメントに悩む人の周りにいる誰でもができることです。
■企業のトップは組織風土を「つくる」
──会社としても、ハラスメント対策は喫緊の課題です。組織としては、何が求められているでしょうか。
吉本さん:企業や組織のトップ、あるいは管理職の人たちのハラスメント防止に対する意識も大分変ってきました。
国は、職場でのハラスメントの防止を目的として2020年6月に「労働施策総合推進法」を改正し、パワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付けました。
いわゆるパワハラ防止法です。
大企業はもとより、2022年4月からは中小企業にも適用され、「ハラスメント防止研修の実施」や「相談窓口の設置」など、対策を講じることが強く求められています。
このような背景もあり大企業ではハラスメント防止の対策がかなり進んできましたが、中小企業ではまだまだ整備が追いついていないところもたくさんあります。
「私が作った会社で、私のやり方でここまできた。これがパワハラだって言われても……」と話す町工場の社長さんもいます。
これまでのやり方を引きずってしまうそのような会社では、どうしてもハラスメント対策は後ろ向きになりがちです。
一方で、「ハラスメントは決して許されない。ハラスメントはときとして死に至るまでの危険行為だ。
会社からハラスメントを絶対になくす」と言って、さまざまな施策を続けてきた大企業のトップもいます。
企業においてハラスメント防止が進むかどうかは、トップの決断が大きいのだと思います。
トップの宣言は、ハラスメントを含めた職場のトラブルを未然に予防する抑止の意味でも効果が大きいですし、
従業員にとっても「大切にされている」と感じられ、労働意欲の向上に大きくつながっていくと思います。
ハラスメントを防止するには、まずは職場のコミュニケーションを良くすることが必要です。
風通しの良い職場の風土を作ることを意識してほしいですね。
次に、そこで働く人すべてが、「ハラスメントはいじめであり嫌がらせだ。危険行為でもある」としっかり理解することが重要です。
この理解が徹底されていれば、職場でのハラスメントを見たときに、何か行動に移す人が出てくるはずです。
最後に、過去にハラスメントをしてしまった人たち、あるいは「ハラスメントに当たるかもしれない言動を取ってしまった」と悩む人たちもいると思います。
そんな人たちは、今日からそれをやめていただければ、いいのです。
トップから社員まで、組織を構成するすべての人の協力があってはじめて、組織は変わります。
自分も組織を良くする一員なのだということを、ぜひ覚えていてほしいですね。
PROFILE 吉本恵子さん
株式会社キャリア・ストラテジー代表。大学卒業後、商社で中国貿易に従事し、フリーランスの中国語通訳として独立。40代で大学院に進学し、日本語学校や大学、大学院などで多くの学生を指導している。産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、精神保健福祉士の資格保有。多くの組織でハラスメント防止研修や相談対応を行っている。