瀝瀝(れきれき)散歩道

瀝瀝というのは「水が音をたてる様子/風が音をたてて吹く様子」つまり、「ありのままの風景」ということでしょうか。

誰もが気をつけたいハラスメント防止(2)

2023-03-31 16:07:17 | 特別職国家公務員
大手企業などでハラスメント教育や相談対応に当たってきた吉本恵子さん。
組織でハラスメントが起きたときの対処などについてうかがいました。



■被害者も加害者も、まずは相談を

──実際に職場でハラスメントが起こってしまったら、どうすればいいのでしょうか。

吉本さん:人と人が集まる以上、衝突やコミュニケーションの食い違いが起こるのは避けられません。
そこでもし、職場でハラスメントが起こってしまったらどうしたらいいのか。ハラスメントの被害に遭った場合、まずは相談することが大切です。

特に大きな組織では、ハラスメント通報窓口など、自社内に体制が整備されている場合も多いでしょう。
ケースによっては、働き方の問題に詳しい最寄りのハローワーク、労働基準監督署に相談も可能です。
一人で抱え込まないことが大事です。

相談するときは、自分が一番相談しやすい方法を選んでください。
もともと人と会うのが苦手な人もいれば、気持ちが落ち込んでいるときは、「人に会うのが嫌だなぁ」と思うこともあります。
そんなときは、メールや電話でも大丈夫。最近はLINEで相談できる機関も増えています。自分自身が最も使いやすい方法を選んでほしいと思います。

「加害者」とされた場合にも、まずは相談です。
自分のことを客観的に見るのは難しいですから、自分が本当にハラスメントに当たる行為をしたのか、第三者の意見を聞くことが必要です。







■ハラスメントで悩む人に気づいたら「見る」「聴く」「つなぐ」

──もしハラスメントで悩んでいる人を見かけたら、何をしたらよいのでしょうか。

吉本さん:ハラスメントで悩んでいる人に対して、周りの人ができることもあります。それが「見る」「聴く」「つなぐ」です。

「見る」では、まずその人の様子をさりげなく観察してください。元気があるか沈んでいるか、髪型が乱れていないか、服装は以前に比べてどうか、
会話が少なくなっていないか、会話を単語レベルで話そうとしていないか、などが心身の不調のサインです。

「聴く」のフェーズでは、ちょっと声をかけてみましょう。相手が応えてくれたらチャンスです。
相手の話を徹底的に「傾聴」しましょう。ここでは口を挟まずに最後まで集中して「聴く」ことが重要です。

途中で自分自身の経験談、たとえば「自分もそれは乗り越えられた、君も絶対大丈夫だよ」なんてアドバイスしたら、信頼関係が破綻することがあります。
相手は自分の話を聴いてもらいたいだけなのですから。

最後が「(専門家に)つなぐ=リファー」。カウンセラーなどの専門家ではない場合、その人の深い悩みになかなか対応することはできません。
そんなときは社内、社外の専門家につないでほしいと思います。

この「見る」「聴く」「つなぐ」は、ハラスメントに悩む人の周りにいる誰でもができることです。






■企業のトップは組織風土を「つくる」

──会社としても、ハラスメント対策は喫緊の課題です。組織としては、何が求められているでしょうか。

吉本さん:企業や組織のトップ、あるいは管理職の人たちのハラスメント防止に対する意識も大分変ってきました。

国は、職場でのハラスメントの防止を目的として2020年6月に「労働施策総合推進法」を改正し、パワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付けました。
いわゆるパワハラ防止法です。
大企業はもとより、2022年4月からは中小企業にも適用され、「ハラスメント防止研修の実施」や「相談窓口の設置」など、対策を講じることが強く求められています。

このような背景もあり大企業ではハラスメント防止の対策がかなり進んできましたが、中小企業ではまだまだ整備が追いついていないところもたくさんあります。

「私が作った会社で、私のやり方でここまできた。これがパワハラだって言われても……」と話す町工場の社長さんもいます。
これまでのやり方を引きずってしまうそのような会社では、どうしてもハラスメント対策は後ろ向きになりがちです。

一方で、「ハラスメントは決して許されない。ハラスメントはときとして死に至るまでの危険行為だ。
会社からハラスメントを絶対になくす」と言って、さまざまな施策を続けてきた大企業のトップもいます。

企業においてハラスメント防止が進むかどうかは、トップの決断が大きいのだと思います。
トップの宣言は、ハラスメントを含めた職場のトラブルを未然に予防する抑止の意味でも効果が大きいですし、
従業員にとっても「大切にされている」と感じられ、労働意欲の向上に大きくつながっていくと思います。

ハラスメントを防止するには、まずは職場のコミュニケーションを良くすることが必要です。
風通しの良い職場の風土を作ることを意識してほしいですね。

次に、そこで働く人すべてが、「ハラスメントはいじめであり嫌がらせだ。危険行為でもある」としっかり理解することが重要です。
この理解が徹底されていれば、職場でのハラスメントを見たときに、何か行動に移す人が出てくるはずです。

最後に、過去にハラスメントをしてしまった人たち、あるいは「ハラスメントに当たるかもしれない言動を取ってしまった」と悩む人たちもいると思います。
そんな人たちは、今日からそれをやめていただければ、いいのです。

トップから社員まで、組織を構成するすべての人の協力があってはじめて、組織は変わります。
自分も組織を良くする一員なのだということを、ぜひ覚えていてほしいですね。

PROFILE 吉本恵子さん

株式会社キャリア・ストラテジー代表。大学卒業後、商社で中国貿易に従事し、フリーランスの中国語通訳として独立。40代で大学院に進学し、日本語学校や大学、大学院などで多くの学生を指導している。産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、精神保健福祉士の資格保有。多くの組織でハラスメント防止研修や相談対応を行っている。

誰もが気にしたいハラスメント防止

2023-03-30 09:38:36 | 特別職国家公務員
“ハラスメント”の意識が変わった「Z世代は… 」と嘆く前に【専門家に聞く】 3/27(月) 11:31配信






「ハラスメントは駄目だ」。社会にそんな認識が広がっている一方で、実際の相談件数は年々増加傾向にあります。
そこで今回は、自衛隊や大学、大手企業といった大規模組織でハラスメント教育や相談対応に当たってきた株式会社キャリア・ストラテジー代表の吉本恵子さんに、
ハラスメントが起きる理由や世代間ギャップとの付き合い方をうかがいました。


■昭和の価値観”を受け継いだ人たち

──陸上自衛隊では2022年、極めて悪質なハラスメントが発覚しました。これは自衛隊を動かしただけでなく、世間の注目を集めましたよね。

吉本さん:私の周囲の人たちからは、「あんなひどいハラスメントが起きるのは自衛隊だからですよね」と言われることがよくあります。
でも、本当にそうかなあ、、実は、そうだと言えない部分もあると思うんですよね。
もちろん自衛隊ならではの特殊な事例もありますが、ハラスメントの本質は自衛隊でも民間企業でも、あまり変わらないと感じています。

どのハラスメントも結局は、「人間関係の中で起こるいじめや嫌がらせ」に集約されるのだと私は考えます。
私たちの身近でも、ひどいハラスメントの事例はたくさんあります。人が集まれば、どんな組織であってもハラスメントの芽がどこかに隠れていることが多いのです。

一般的には、「ピラミッド構造の組織ではハラスメントが起こりやすい」と思われがちです。
ただ実態としては、ピラミッドであるかどうかよりも「上下関係の厳しい組織でハラスメントが起こりやすい」というのが、正確な表現だと思います。





──そもそも、どうして職場でハラスメントが起こるのでしょう。

吉本さん:ハラスメントが起きる大きな原因のひとつは「職場の風通しの悪さ」です。皆さんの職場を思い浮かべてください。
毎朝、明るく挨拶が交わされていますか。あるいは冗談を言ったり、個人的なトピックスを話したりできる雰囲気があるでしょうか。
何を言っても安心して話せる職場、これが「風通しの良い職場」の特徴だと思います。


また、職場内の世代間のギャップも大きく関係してきます。大きな企業では、職場内に10代から60代までの社員が働いていることもありますよね。

たとえば私は昭和世代、いわゆるX世代の人間です。
「24時間働けますか?」という言葉と共に猛烈に仕事をした世代で、私の上司は「俺についてこい!」という感じの強権型のリーダーでした。

ところがいまの若者、つまりZ世代は「それぞれが持つ個性を活かそう」「テクノロジーを使って合理的に働こう」という価値観を持っています。
X世代の人間が昭和を引きずったまま、自分が受けてきた「俺についてこい!」のような指導を若い部下にしてしまうと、受ける方は「え、なに、この人?一方的!」と驚いてしまうのです。


──いつの間にかコミュニケーションのあり方が変わったことに気づけていないんですね。

吉本さん:そうですね。実は、ハラスメントをしている人は、多くの場合「自分はハラスメントをしている」とは思っていません。
自分とは違う価値観を持つ部下を受け入れられず、厳しく叱ってしまう人もいます。
「組織のため、部下のためを考えてやっている」と心から思っているし、「自分は間違っていない」と確信している、そんな人もいます。

しかしハラスメントを受ける側は理不尽な叱責を受けたと感じ、傷つきます。
上下関係がある場合は、言い訳もできず、さらに悩んでしまうのです。ハラスメントは、被害者と加害者の思いが食い違っているケースが多く見られます。

上司に激しく叱責されると、部下は恐怖感から一生懸命働きます。
その結果、一時的に業績が上がることがあります。
そのため、上司の中には自分が「効果的なマネジメント」をしている、と錯覚してしまう人も出てきてしまうのです。

また周囲の人たちも、強権的な指導で業績が上がるのを見て、「ああこんなやり方もあるんだ」と同じことを繰り返す。
ハラスメントは「見て、学んで、継承される」ものなのです。






■若い人もベテランも、みんなが気を遣っている

たとえばある大学の研究室での話です。その研究室の教授は研究に熱心で、探究心の強い人でした。

一方で、その研究室では毎年数人の学生が長期の病欠、休学や退学でいなくなってしまうんです。あるとき、教授がしんみりと話してくれました。

「自分は学生時代、自分の恩師から厳しく指導されました。それこそ1年365日、盆暮の数日しか休みがなかったんですよ。
同期や先輩も、みんなそれが普通だと思っていたし、激しい叱責にも耐え抜きました。
だから自分が教授になったとき、自分が経験したのと同じように学生を厳しく指導しました。
そしたら、学生が研究室に来なくなってしまったんです」

この教授は私と話した後、しばらくの間は言動に気をつけ、学生にとって「いい先生」になったそうです。
ただこの研究室の学生の報告によると、「3か月ぐらいでまた元通りに戻ってしまいました!」とのことです。

ハラスメントは継承されるもので、それを断ち切ったり、解決したりするのはすごく難しい、と感じた事例です。



──世代間ギャップが生まれてしまっているのですね。

吉本さん:私はいくつかの企業で、ハラスメント防止研修を担当させていただいています。
管理職の方向けの研修が比較的多いのですが、「若い世代、特に20代の部下とのコミュニケーションに苦労している」
「どうやって若い人と接していいのか迷う」などの悩み事を聞きます。
「注意しても無視されたり、ハラスメントだと言われたりするのがプレッシャーで、最近あまり注意やアドバイスを部下にしなくなった」という方までいました。

ところが一方で、若い世代の人たちも同じように悩んでいるのです。
「40代、50代の上司とのコミュニケーションがうまくいかない」「話す時にとても緊張してしまう」などの声を聞きました。

あれ?これっていったいどういうことなんでしょうか。オフィスの中で、若い人も年配の人も、お互い相当に気を遣いながら仕事をしている、なんて。
双方から話を聞いて、私はそう思いました。

■「業務中に携帯使用で取り上げ」、これってパワハラ?

私がハラスメント防止研修に取り入れているクイズの一例を紹介します。ぜひ一緒に考えてみてください。

20歳の社員Gさんは、休憩時間を過ぎても、5分、10分とゲームをしています。田中課長が注意すると『ゲームじゃないですよ。
携帯で調べながら仕事をしているんですよ!』
と強めに言い返してきました。田中課長は黙ってGさんの携帯を取り上げました。

これはハラスメントに当たるでしょうか。
参加者に話し合ってもらうのですが、管理職たちの意見交換はかなりの盛り上がりを見せます。
実際に現場で起こっている身近な問題だからです。

答えは「ハラスメントではない」です。

労働者は契約上、労働時間中には職務に専念する義務を負っています。
田中課長がGさんに「仕事中にゲームをしないように禁止する」ことは適法です。

一方で、「黙って携帯を取り上げた」というところに問題も感じます。
「きちんと説明してから一時的に預かる」であれば、Gさんの気持ちも時間が経てば収まったかもしれません。
また「法律では取り上げるのは罪ではない」と法律を振りかざして言ってしまえば、それで二人の関係は修復不可能な壊滅的状態になります。
対話による解決法が、この場合最も適切ではないか、と思います。

ちなみにこれは実際の事例を基にしています。
Gさんは、「携帯の中のネットワークには、何百人もの友だちがいます。だから携帯を取り上げられるってことは、
友人といきなり引き離されることと同じなんです」と言い、最終的には会社を退職しました。貴重な人材が1名流出してしまったわけです。


20代のZ世代の人たちにとって、携帯とはどのような意味、価値があるのでしょうか。

ある組織の若手社員500名にキャリアコンサルティングを行い、退職を希望している人たちに退職理由を尋ねたところ、
「携帯が自由に使えない」「自由がない」という理由が上位にあがりました。

Z世代は買い物や娯楽、学習といったライフスタイルの大部分をデジタルデバイスを使って完結させる傾向にあります。
また、コミュニケーションもSNSなどのオンライン上で活発に実施。情報の収集から発信まで、彼らの生活の中心には「デジタル技術」が存在しています。

X世代の私たちに、Z世代と同じようにデジタル技術をマスターして、Z世代に歩み寄れ、というのは、かなりの無理があります。
そのような違いお互いを理解したうえで歩み寄ってみることが、「ハラスメントのない風通しの良い職場風土」を作るのに大切なのではないかと、最近強く思っています。




PROFILE 吉本恵子さん

株式会社キャリア・ストラテジー代表。大学卒業後、商社で中国貿易に従事し、フリーランスの中国語通訳として独立。40代で大学院に進学し、日本語学校や大学、大学院などで多くの学生を指導している。産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、精神保健福祉士の資格保有。多くの組織でハラスメント防止研修や相談対応を行っている。