意図を体する
聞き慣れないことばですが、
「意図を体する(いとをたいする)」とは、相手の意見・考え方を受け止め、それに見合った行動をする、という意味です。
上司や目上の人の意見に同意、心を一つにして行動に移す時に使われるようです。
実は、明確な意思表示や指示や命令がなくても、上司の思いや考えを感じ取り、予想し、上司が満足するような形(行動) にして表すことが大切であると、
かなり精神論的な解釈をする人も少なくありません。
日本社会にはこれまで、職場内の上下関係の中で、部下が上司の「意図を体する」ことを美徳と考える風潮があり、それが評価にまでつながってきました。
相手の行動や考えを察する能力は、誰でも持っています。
一方、社会が移り変わり、今は、受け手が察するより、説明する側が、相手にわかりやすく正確に伝えられるかどうか、が重要視されるようになってきました。
私たちがハラスメント防止研修を行なっている自衛隊では、いくつかのコミュニケーションスタイルがあるように感じます。
例えば、
①ハイコンテクストと言われる、同じ価値観を持つ人たちが「阿吽の呼吸、以心伝心、意図を体する」等、受け手側の責任が重いコミュニケーションスタイル
そこでは、言葉による直接的な表現よりも、非言語的な手がかりや文脈、関係性が重視されます。
ハイコンテクスト文化では、人々は間接的な表現や暗示を用いることが多く、メッセージの真意を読み取るには、話者との関係やその時の状況、過去の経験など、
多くの背景情報を理解している必要があります。
例えば、日本や中国等の国は典型的なハイコンテクスト文化とされています。
これらの文化では、会話の中で言葉に出さない部分を理解することがコミュニケーションの鍵となります。
人々は、非言語的な手がかり(身振り手振り、表情、声のトーンなど)や状況のニュアンス、相手との関係性に基づいて、
言葉越しに伝えられる以上の意味を読み取ることが期待されます。
②つ目は、上司が、部下にスムーズに行動できるよう緻密に指示、わかるように言葉で伝えるという、話し手の責任がポイントのローコンテクストのコミュニケーションスタイル、
ここでは、言葉自体がメッセージの主要な運び手であり、背景情報や非言語的な手がかりに依存することが、あまり多くありません。
アメリカやドイツなどの西洋諸国は、このコミュニケーションスタイルが一般的とされています。
ここでは、直接的で明確な言葉遣いが重視され、メッセージはそのままの意味で受け取られることが期待されます。
①や②、その他のコミュニケーションスタイルが、複雑に交錯している組織、それが自衛隊ではないでしょうか。
一方、この複雑さは、最近の若い人にとっては、馴染むのに少し、時間がかかるかもしれません。
もっと大きな声を出せ!とのリーダーの命令に、陸士数名は勇気を出して「なぜ大きな声が必要なんですか」と質問したそうです。
呆気にとられるリーダー。「理由は自分で考えろ、声は大きく出せ、いいな!」
これは、答えを求める若い人の質問に的確に応えてはいません。
理由が明確に示されなければ、動けない、こんな若い人たちが増えつつあります。
阿吽の呼吸ではなく、わかるように説明、すべての表現、ジェスチャーを使ってどこまでもわかるまで誠心誠意説明し、わかってもらう、
そんな時代がやってきたのかもしれません。
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