きょうは全日本卓球選手権決勝戦と大相撲中日に、麒麟がくる、と忙しいな。篤姫以降、初回で頓挫しているので、久し振りに通しで見れる物にしてほしいな。
きのうは平野玲音のチェロ・リサイタルを相模湖畔に聴きに行ったら、雪に遭ってしまった。
途中、乗換駅の高雄でも山並みは雪化粧だっので一句。
雪高雄 木陰の猿も 寒からむ
相模湖駅に降り立つと、嫌ながらどうしても、酸鼻なやまゆり園事件が思い起こされる。
雪にても 拭ひあたはず 山の百合
湖面は靄り、山面は白髪頭となっていた。ベートーヴェン生誕250年を記念しての公演なのでウィーンの冬を彷彿させ、ちょうど好い雰囲気だった。
むかしチェロ学生と知り合いだったので、よく知らずに聴くようになったけれど、略歴を見ると、皇太子時代の現天皇・皇后陛下に御前リサイタルを披露したり、この楽聖ゆかりの地のバーデン市から「ベートーヴェン・メダル」を授与されるなど、大変な逸材であった。なのに、演奏後のサイン会でボケをかました。著書のサインに、名前だけでは面白くないので、気軽に「信」の一字を加えてくださいと頼んだ。どうしてと聞かれ、説明が面倒なので、師の名前にあるからと答えた。あとでパンフレットを確かめたら、日本での恩師は山崎伸子さんであり、伸と信を間違えていたことに気が付いた。道理で書いた後、怪訝な様子をされていたのが納得できた。
演奏はチェロ・ソナタ第2番から始まり、湖面の靄の中を見え隠れしながら進む帆船のような幻想的なチェロの音色と、夢ばかり追っていては沈没するよと声を掛けるような明瞭で力強いピアノの響きとのハーモニーが楽しかった。当然、チェロが主役であるけれど、弦楽音の領域までに迫ってくる藤本江利子さんのピアノの技量が素晴らしかった。平野さんの著書『クラシック100の味 ウィーンの演奏は上手いより美味い』にも、「ウィーンではチェロ・ソナタのピアニストを『伴奏者』とは呼ばず、あくまで対等であり、チェロだけに耳を傾けず、ピアノとの『音の対話』を楽しんで」と書いてあるので、ピアノに聴き惚れたとしても怒られないと思う。
本は、ウィーンの音楽では、演奏は歌うように弾き、メヌエットやワルツ以外でもクラシックは踊りの要素が内包されているのを意識しなければならないと説くなど、門外漢にもイメージし易く表現されている。また、練習で突き詰めた完成型を披露するのではなく、「二度と同じ弾き方をするな」「古い新聞は面白くない」と教えられていることや、舞台上でのインスピレーションを大事にし、とっさに指使いや弓使いを変えるリスクを恐れないことを指導されるなど、意外な内実を教えている。
チェロ乙女
湖にたゆたひ
音もやふ
鍵を合図に
いざ帆を揚げむ