ドナウ川の白い雲

ヨーロッパの旅の思い出、国内旅行で感じたこと、読んだ本の感想、日々の所感や意見など。

うきうきセビーリャ …… 陽春のスペイン紀行 5

2013年06月19日 | 西欧旅行…陽春のスペイン紀行

       (グアダルキビル川とクルーザー船)

< うきうきセビーリャ >

 5月18日。今日は晴れ

 コルドバから新幹線に乗って45分。大西洋に注ぐ河口まであと100キロというセビーリャヘ着いた。 

 コルドバでは川洲に灌木が生い茂っていたグアダルキビル川も、このあたりまで来ると、川幅は広くなり、水量も豊かで、大河の様相を示している。

 川岸には外洋船が停泊し、街の上の空も広く、旧市街に繰り出しているたくさんの観光客たちも、どこかうきうきとして、明るい。

 ここは、フラメンコの本場だし、闘牛も盛んだった。

 コルドバが都として、政治、文化、学問の中心であったのに対して、セビーリャはローマ時代から、地中海や大西洋に開けた商業・港湾都市であり、経済の中心として発展してきた。

 大航海時代には、新大陸から巨万の富を集めた。スペイン各地の巨大なカテドラルも、あの無敵艦隊も、この町に集積された冨によって造られたと言っていい。

 現在の人口は71万人。今も、アンダルシア地方第一の都会である。

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< セビーリャの歴史 >

 この町の歴史は古い。ギリシャ神話に登場し、イベリア半島にいたという部族の王か王妃のものと思われる、見事なネックレスやブレスレットが発見されているそうだ。

 しかし、そんな伝説的に昔のことはともかくとして、グアダルキビル川に臨むこの町の水運のよさに着目し、このあたりの中核都市としてインフラを整備し、今も、市民から、「セビーリャの開祖」とされているのは、ユリウス・カエサルである。

 一方、セビーリャから7キロ離れたところには、イタリカというローマ時代の都市の遺跡がある。BC2世紀に、カルタゴを破ったスキピオが、退役兵士を入植させるためにつくった。ローマ時代は、セビーリャと併存していた町で、城壁、邸宅、水道、公衆浴場、劇場、円形闘技場などが発掘されている。

   このイタリカこそ、ローマ帝国の5賢帝のうちの2人、トラヤヌスとハドリアヌスが出た町である。

 だが、イタリカは、ローマ崩壊後のヴァンダル族の侵入によって、放棄され、無人化した。廃墟になったため、ローマ時代のものが残って、今、遺跡として出土する。セビーリャは生きて発展した街であるから、長年の間にローマ時代のものは取り壊されて、ほとんど何も残っていない。

 711年、モーロ人がアフリカから侵入して、後ウマイア朝を建てた。この時代に発展したのは、王都となったコルドバの方である。

 セビーリャがローマ時代に次ぐ第2の黄金期を迎えたのは、イスラム時代の1172年に建国されたロワッヒド朝の時代である。この時代に、今、セビーリャのシンボルになっているヒラルダの塔も、アルカサルも造られた。

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< ヒラルダの塔とカテドラル >

 セビーリャの市民が、町のシンボルとするのは、ヒラルダの塔である。高さ97mの塔は、街のどこからでも、少し探せば顔をのぞかせる。

   ( ヒラルダの塔 )

 もちろん、モスクのミナレットとして建てられた。

 レコンキスタ後に、モスクの方は壊されて、跡地にはキリスト教のカテドラル (大聖堂) が建てられた。だが、ミナレットは立派すぎて壊せなかった。16世紀にはキリスト教式に鐘楼が付け加えられる。てっぺんに青銅の像があり、風が吹くと回転する。ヒラルダとは、風見のこと。

 塔には70mの高さの所に展望台があり、昇ることができる。面白いことに、階段ではなく、スロープで昇る。人や荷物を背負ったロバが上がれるようにしたらしい。

 キリスト教の大聖堂の鐘楼に昇るには、狭くて急峻ならせん階段を、何百段も昇らねばならない。膝も腰も痛くなり、1、2度経験すれば、十分だ。しかし、ここはスロープというので、挑戦してみた。

 らせん階段よりも広くて、ゆるやかなスロープは、自分のペースでゆっくり昇ることができ、ずいぶん楽だった。ただ、昇りながら異文化・異宗教を感じる情緒はない。苦役のロバになった気分というか。

 

   ( ヒラルダの塔の鐘 )

  ( 塔から望むカテドラルの屋根と白い雲 )

 セビーリャのカテドラル (大聖堂) は、「後世の人々が、我々を正気の沙汰ではないと思うほど、巨大な聖堂を建てよう」という参事会の決議のもとに建設が開始され、100年後の1519年に完成した。スペイン最大、世界で3番目の大きさを誇る大聖堂である。

   外見は、まるで錆びた鉄で覆われたようで、いかにもイカツい。

  ( 中央がカテドラル、右がヒラルダの塔 )

      ( コロンブスの棺 )

 例えば、フランスの大聖堂に入ると、それが古いロマネスク様式の教会であれば、重々しく古びた石壁や、この辺りの農家の娘をモデルにしたような素朴な顔のマリア像や、柱の上には奇怪な姿の悪魔除けがいたりして、キリスト教徒でなくても、どこか懐かしい鄙びた趣を感じる。それがもしゴシックの大聖堂であれば、その伽藍の大きさと高さ、そして宝石箱をひっくり返したようなステンドグラスの美しさに目を奪われる。

 ところが、レコンキスタ後、大航海時代に、巨万の富を得て造られたスペインの大聖堂は、内部に入っても見通しがきかず、巨大な聖歌隊席や、金ぴかの装飾で飾り立てられた内陣が建ちふさがる。それらはいかにも権力的かつ成金趣味で、大聖堂のもつべき何か、例えば、幾世代にもわたってこの聖堂で祈ってきた無数の人々の生活と苦悩に思いを馳せたり、啓示の家としての荘厳さを感じたりする、そういう永遠性のようなものが感じられない。

 そのような富をスペインにもたらすきっかけをつくったコロンブスの棺を、4人の王たちが担いでいた。

        ★

< アルカサル (城砦) >

 アルカサルは、カテドラルの筋向いにある。1248年に、カスティーリア勢がイスラム勢の守るセビーリャを攻略したときに、激戦の場となった要塞だ。

 だが、現存している建物は、城砦ではない。ペドロⅠ世が造り、のちにイサベル女王やカルロスⅠ世が増築した宮殿である。

 ペドロⅠ世は、モーロ文化に心酔し、当時、カイティーリア王国に臣従していたグラナダ王国から多数の職人たちを派遣させ、イスラム時代の城砦を、イスラム風の宮殿に造り変えた。

   ( 客待ちする馭者とアルカサルの門 )

   アルハンブラ宮殿より素晴らしいと書いている人もいる。だが、やや誇張的に言えばアラビアンナイト風で、アルハンブラ宮殿のもつ端正さ、繊細・優美さ、光と陰の美しさ、晴朗な静謐感は、ここにはないと思った。 

 

      ( アルカサルの宮殿 )

 それよりも、イスラム時代のままという、アルカサルの石積みの巨大な城壁に、遥かな歴史を感じて、心惹かれるものがあった。

    ( 城壁のミュージシャン )

 城壁の下で演奏するミュージシャンのおじさんがいた。

 欧州旅行をしていると、パリでも、ウィーンでも、ストリート・ミュージシャンにはよく出会う。日々の生活費を稼ぐベテランもいれば、音大の女子学生の腕試し、という感じのストリート・ミュージシャンもいる。

 つい最近まで、楽器のケースなどにお金を入れてもらっていた。今は、自分のCDを買ってもらうというスマートなやり方に変わってきている。見ていると、観光客が結構立ち止まり、10人ほども集まると、CDを買う人もいる。

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< グアダルギビル川の遊覧船 >

 良く晴れ、日の光は斜めに傾いて、なお明るい。川沿いのプロムナードをそぞろ歩いていると、遊覧船に乗らないかと客引きされた。歩き疲れたので、乗る。

 

   ( グアダルキビル川沿いのプロムナード )

 船長のおじさんは、スペイン語混じりのカタコト英語。

 その話によると、この数日の雨をもたらした前線がくる前は、なんと40度を越える猛暑だったと言う。「今は、とても涼しいが、すぐにまた暑くなる。それがアンダルシアだ」。夏は50度になるそうだ

 いい時に来て、良かった。

 川沿いに建つ「黄金の塔」も、イスラム時代のもの。当時は対岸にも同じような塔が建っていて、鉄鎖を渡してあり、昼はゆるめて川底に沈め、夜になると水面まで引き上げて、川からの敵の奇襲に備えたという。

 上の細い円筒と円蓋は後世のもの。当時は金色に輝くタイルが壁面に貼り付けてあったから、この名が付いた。 

     ( 黄金の塔 )

 グアダルキビル川は広々として、傾いた太陽光線の陰影が美しく、気持ちが良かった。

 

                  ★

 セビーリャの街は、小道の脇にレストランのテラス席を設けられ、夜になってもたくさんの観光客がそぞろ歩き、飲み、食べて、うきうきしている。

 本場のフラメンコを見に行きたかったが、深夜になるので、自重した。明朝、早い列車に乗らねばならない。明日は、マドリッドまで帰り、さらに乗り継いで、トレドまで行く。

 昨年12月のスペイン旅行では、海外旅行中、初めて体調を崩し、しんどい思いをした。もう若くはない。 

 それにしても、この街は、パリに似て開放感があり、明るい。空が広い。 雲のたたずまいが良い。

   

 (ライトアップされた街を走る馬車)

      ( 早朝のヒラルダの塔とカテドラル )

 ( 続 く )

   

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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