「竜田・三室・神奈備といった万葉故地にかかわる地名は、斑鳩町にある。しかしそれらは後世のコピーであって、竜田のオリジナルは、やはり竜田大社を中心にすえた地域一帯 ( 奈良県の三郷町から大阪府の柏原市 ) に求めるべきであろう」 (犬養孝監修 『万葉の道…明日香編 』)。
生駒山 (642m) から南へと尾根が続く山並みの、その最南端が大和川に切れ落ちるところに、竜田山がある。その竜田山の一部を指して三室山と言うらしい。龍田大社の神域である。
龍田大社には、秋の女神である龍田姫も祀られているが、紅葉で有名な竜田川は、大和川の竜田山近くを流れる部分を言った、とされる。
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「後世のコピー」とされる斑鳩町のその辺りは、近年、「奈良県立竜田公園」としてきちんと整備された。
竜田川沿いに2キロ。その一角には三室山があり、春の桜、秋の紅葉の名所である。
ただし、地元の人たちが楽しむローカルな名所で、観光客が押しかけるようなことはないから、桜をのどかに楽しむにはなかなかに良いところである。
本日のテーマは、この竜田公園。
ただ、コピーを本物のようにして紹介しているように思われるのは気が咎めるから、斑鳩町には悪いが、もう少しコピーであることを言っておきたい。
その三室山の麓に石碑があり、
ちはやぶる / 神代も聞かず / たつ田川 /
からくれなゐに / 水くくるとは
( 在原業平)
嵐ふく / 三室の山の / もみぢ葉は /
たつ田の川の / 錦なりけり ( 能因法師 )
の二首が紹介されている。
二首目は、上三句と下二句の関係が「原因→結果」の関係で、眼前の景としては、おびただしい紅葉の落ち葉が竜田川を錦に染めて美しい、と言っている。そして、その源に思いを馳せ、三室の山を強い風が吹いて、紅葉を盛んに落葉させているからであろうと、推測しているのである。
もっとはっきりと、眼前の竜田川の錦を見て、三室の山奥を想像する歌に、次のようなものもある。
たつた川 / もみぢ葉ながる /
神なびの / みむろの山に / 時雨ふるらし
( よみ人知らず )
この歌の場合、竜田川と三室山では気象現象が違っている。眼前のたつた川の紅葉を見て、三室山の時雨を推定しているのである。このように三室山は、竜田川に対して、いかにも奥深い山である。
下の写真のような、川のそばの小さな「丘」では、いかに作歌上の誇張としても、不自然である。
( 斑鳩町の竜田川と三室山 )
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とは言え、それはそれとして、三室山の桜は本当に素晴らしい。丘全体が桜におおわれ、竜田川の流れに沿う桜の林につながり、お天気が良いと、橋の上では、かなりの人数の人が、画架を立てて写生をしている。
山頂まで、5分も歩けば達するが、桜越しに見る春の大和平野ものどやかである。古代の豪族の長が、ここから国見をしたであろうか? このあたり、平郡氏という有力な豪族がいたらしい。
( 三室山から見た大和平野 )
川沿いの2キロに散歩コースが整備され、地元の老若男女が、花見を楽しんでいる。
まだひんやりした空気の漂う川沿いの散歩道には、桜だけでなく、椿や雪柳も咲いて、楽しい。
( 雪 柳 )
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3月末から4月初めの桜の時期を過ぎ、4月下旬の晩春のウォーキングも良い。
( 2キロの散歩道 )
大和の田舎道には石仏があるが、ここでも大切に祀られている。その周りの新緑や山吹の明るくやわらかな彩りもよい。
( 新緑と山吹 )
( 石 仏 )
付近の山も新緑で、遠くに山桜がひっそりと咲いている。
近くには、辛夷の一種だろうか、白い花びらが優雅である。
( 辛夷?)
この時期は、歩いていると、うっすらと汗ばんでくる。
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