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緒方芳子氏の数理物理学の世界的賞・ポアンカレ賞受賞に思うこと【2月11日は科学における女性と女児の国際デー】 202202

2022-02-10 20:40:00 | ¿ はて?さて?びっくり!

緒方芳子氏の数理物理学の世界的賞・ポアンカレ賞受賞に思うこと【2月11日は科学における女性と女児の国際デー】
  Mi MOLLET より 220210  小島 慶子


 時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。
 理系の勉強は好きですか。科学者になりたいと思ったことはありますか。

 2021年8月に、東京大学大学院数理科学研究科教授の緒方芳子さんが、数学の世界的な賞であるポアンカレ賞(注1)を受賞しました。
 量子スピン系の数学的理論における画期的な業績が評価されての受賞で、日本人では2003年の荒木不二洋氏以来18年ぶり、日本人女性では初の快挙です(注2)。

 女性の学部学生の割合がずっと2割に留まっている東大の中でも、特に理系は男性が圧倒的多数を占めます。たとえば、2021年11月現在、数学科のある理学部の学生数は662人ですが、女性はたった61人で、1割にも届きません。
 東大では昨年、理事の半数以上が女性となり、女性や外国人など多様な人が学びやすい環境づくりに力を入れています。受賞した緒方さんの所属する大学院数理科学研究科でも、なんとか女性を増やしたいという声が上がっているそうです。

 最近は「STEM(科学・技術・工学・数学)分野にもっと女性を」と言われていますよね。今年の4月には、奈良女子大学に日本の女子大初の工学部が開学します。まだまだ理系の女性の割合は少ないですが、STEM分野を志す女性を応援する声は高まる一方。シンプルに考えても、人口の半分からしか研究者が育たないのは効率が悪いですよね。
 チャンスがほとんど与えられていないもう半分の人たち、つまり女性を後押しすれば、より多くの優れた研究者が世に出ることになります。これは政治や経済の分野でも同じことです。

 昨年は、画期的な出来事がもう一つありました。医師養成課程を持つ大学の医学部入試の合格率で、ついに女性が男性を上回ったのです。
 2018年に発覚した東京医大などの医大入試の点数操作事件。「女性医師はどうせ働き続けられないから」などの理由で、長年にわたって女性の受験生の得点を減点し、合格しにくくしていたことが発覚しました。その後、毎年の合格者の男女比が公開されるようになり、2021年度の受験者総数に占める合格者総数は、男性13.51%、女性13.60%。
 しかも女性の方が男性よりも合格率が低い大学は、前年度の67%から44%に減少しています。入試がフェアになったのなら、医師たちがジェンダーに関わらず長く働き続けられるような職場にすることが急務です。

 実は私、数学は壊滅的に出来ないのですが、生物や地学の勉強は大好きでした。高校生の時には、大学で生物学を学びたいなあ、何か生命に関連する仕事に就きたいなと思ったこともありました。でも、すぐにこう考えたのです。
 「いやいや、きっと勉強しても数学はできるようにならないし、そもそも女子で理系に進めるのは一部の超秀才だけだもんな!」それでも、中高6年間夢中で勉強した生物の知識は今でもとても役に立っています。子どもの健康管理や性教育、パンデミックの情報理解にも、あの頃学んだ知識が欠かせません。熱意を持って教えてくれた母校の女子校の先生方に、心から感謝しています。

 2月11日は「科学における女性と女児の国際デー」(International Day of Women and Girls in Science) 。科学分野に進む女性を増やし、学びにアクセスしやすくする取り組みを進めるため、2015年の国連総会で制定されました。
 今も、「女性は理数系が苦手」とか「女の子が理系を勉強しても将来につながらない」などの周囲の決めつけが、多くの才能とやる気のある女性の翼を折っています。お話にならないくらい数学ができなかった私はともかくとして、理数系が得意で科学に興味があっても「女子だからきっとダメだ」と諦めてしまった女の子たちの中には、きっとたくさんの才能が埋もれていることでしょう。

 テクノロジーの発展の促進にあたっては、ジェンダーをはじめとした多様性の反映が欠かせません。AI(人工知能)は「誰が、何のために、何を、どのように学習させるか」がとても重要です。
 極端に言えば、悪意を持った技術者が、人びとを支配する目的で偏ったデータを意図的に学習させれば、人類の脅威となるようなAIが出来上がるでしょう。また悪意はなくとも、人にはどうしても死角や無意識のバイアスがあるものです。学習材料となるデータには、現在の社会の格差や差別が表れています。
 AI開発に関わる研究者や技術者の大多数を占めるのは白人男性。ジェンダーや人種などに対する偏見に留意せずに機械にデータを学習させた結果、就職試験にAIを導入したら女性が著しく不利になったとか、画像認識ソフトが黒人女性を正しく認識できなかったなど、今ある偏見や差別がAI によってより増幅されてしまった事例もあります。
 信頼できるフェアなAIを育てるには、その開発に携わる人たちの多様性と、今ある世界の問題点を把握し、それを改善する方向に技術を生かす視点が不可欠です。

 ちなみに、1997年から20年にわたって行われたNASAなどの土星探査計画、カッシーニ・ミッションでは、探査機カッシーニの開発・運用に多くの女性研究者たちが主導的な立場で関わりました。同プロジェクトには17カ国から260人の科学者が参加、なんとそのうちの3分の1が女性だったのです。
 1988年のプロジェクト立ち上げから関わる中心人物は、ミッション統括科学者・リンダ・スピルカー博士と、探査機運用総責任者・ジュリー・ウェブスター技師長。ミッション遂行とともに、出産・育児と次世代の女性研究者の育成を行なったスピルカー博士は「このミッションを立ち上げたときにはまだ生まれていなかった研究者もいるんですよ。彼女たちこそが私たちの遺産を次世代に引き継いでくれるでしょう」と語っています
(胸熱なストーリーの詳細はNHKオンデマンドの『コズミック・フロント☆NEXT「土星探査機カッシーニの遺産」』で見られます)。

 私にはその才能と機会はなかったけれど、だからこそ多くの理系女性が日本でも生き生きと学び、働くことができますようにと願わずにはいられません。もしも身近に理系を志す女の子がいたら「いいね!」と心から言ってあげたいです。


注1:アンリ・ポアンカレ賞 数理物理学に大きく貢献した研究者に送られる世界的賞
注2:アンリ・ポアンカレ賞受賞後の緒方芳子教授コメント(東京大学大学院数理ニュース2021-1より)



💋昨年8月の慶事!マスコミは文系で海外情報に疎い⁈
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🚶‍♀️…駐屯地:京大外周沿… 🏪 220210^

2022-02-10 17:55:00 | 🚶 歩く
🚶‍♀️…右岸河川敷…駐屯地南西部端…駐屯地:京大南外周沿…:瓦塚古墳…京大:駐屯地東&北外周…:寺界道遺跡碑…駐屯地北沿…隠元橋⇅…右岸堤防道…バイパス側道沿…🏪🍱…京阪沿…戦川沿…右岸堤防道…>
🚶‍♀️13001歩2kg

🌤:隠元橋8℃:風穏やか

瓦塚古墳は?変化分からず、調査終了⁈…
寺界道遺跡は案内板のみ,野添団地あるのみ
 青空に十日夜月🌔が鮮やか!


右岸河川敷にて

瓦塚古墳

同上:全景

京大構内のマンホール

駐屯地北沿にて

寺界道遺跡の案内板

16:03 ちょっと彩雲

1:24🌔十日夜月;月齢9.1



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なぜ今?「暗号技術」50年ぶり改訂のなるほどな訳  202202

2022-02-10 02:44:00 | なるほど  ふぅ〜ん

なぜ今?「暗号技術」50年ぶり改訂のなるほどな訳
 東洋経済 onlain  より 220209  小林 雅一:KDDI総合研究所リサーチフェロー


⚫︎銀行のATMなどで使われている暗号技術が大きく変わりそうです
 ネット・ショッピングやキャッシュレス決済、銀行のATMなど、私たちの便利な日常生活を支える暗号技術が大きく変わろうとしている。

 アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は今年の早い時期に、現在の国際標準「RSA」などに代わる新たな暗号技術の方式を発表する見込みだ。同時に、2024年の規格化を目指した作業に入る。
 この新方式はインターネットの国際標準化団体も早々に支持を表明するなど、事実上「暗号の次世代標準」となる。日本でも金融機関やIT関連をはじめ、さまざまな業界の企業が早晩対応を迫られることになるだろう。

 現在のRSA暗号が発明されたのは1973年だ。それから約50年後となるいわば「歴史的な改訂」の理由は「量子コンピューターの登場」だ。

⚫︎現在使われているRSA暗号はいずれ破られるリスク
 RSA暗号は桁数の大きい自然数の素因数分解は時間がかかることを活用したもの。例えば素数101と211のかけ算の答えは21311だが、21311を素因数分解して101と211を割り出すのは、計算量が膨大になるため簡単ではない。桁数がもっと多くなれば、割り出すのがさらに難しくなるという特性を使っている。

 現在使われているRSA暗号はトップクラスのスーパーコンピューター(スパコン)を使っても、ハッカーなど第三者が破る(解読する)のに1億年以上かかると見られている。つまり事実上、既存のコンピューターでは破ることのできない暗号である。
 しかし本格的な量子コンピューターを使えばRSA暗号を容易に破れることが、1994年に「ショアのアルゴリズム」と呼ばれる数学理論によって証明された。

 量子コンピューターとは、原子や電子などミクロ世界を説明する「量子力学」を計算理論に応用した夢の超高速計算機だ(『日本はまた後塵?米国「夢の超高速計算機」の驚異』参照)。現在のスパコンで計算すると何万~何億年もかかるような超難問を、量子コンピューターはわずか数分で解くことができると言われる。

 もっとも1994年当時、量子コンピューターは理論的には設計可能でも、その実機を作れると信じる専門家は皆無に近かった。このため社会インフラとなった暗号が、量子コンピューターによって実際に破られてしまう心配もなかった。それはあくまで、遠い未来に起きるかもしれない理論的な可能性にとどまっていたのである。

 しかし2013年ごろから、グーグルやIBMなど巨大IT企業が量子コンピューターの実機開発を加速するに連れ、「このままでは意外に早い時期にRSAのような暗号が破られてしまうのではないか」という危機感が専門家の間で高まってきた(昨年、東京大学と日本企業が共同で運用を開始したIBM製の量子コンピューターなどはテスト用マシンという位置づけで、RSA暗号の解読など実務的な用途には使えない)。

 もしも量子コンピューターで暗号が破られれば、私たちの大切な金融資産や個人情報が盗まれてしまう。

 こうした懸念を受け、NISTは2016年、本格的な量子コンピューターでも破ることができない「耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography)」技術の策定に着手した。といっても、同研究所自体がそのような暗号技術を開発するわけではない。むしろ世界各国の研究者らに呼びかけ、そうした新たな暗号技術を公募したのである。

⚫︎量子コンピューターでも解けない超難問がベースに
 この呼びかけに応じ、翌2017年には世界中から全部で69種類の暗号方式(アルゴリズム)が候補として寄せられた。その後、専門家らによる評価・選定を経て、2020年7月には4つの候補に絞り込まれた。

 これらの候補は、日本のNTTやアメリカのクアルコムなどのグループが開発した「NTRU」をはじめ、いずれも「格子問題」や「符号問題」などと呼ばれる複雑・高度な数学の問題を暗号に応用したものだ。
 これらの問題は「量子コンピューターでも解くことができない超難問」とされ、その問題を解くことができない限り、暗号を破ることができない。この点が耐量子暗号として認められる理論的根拠となっている。

 これを実際に証明するため、世界各国で一種の暗号破りコンテストが実施されている。
例えば2021年にフランス国立情報学自動制御研究所が主催した暗号解読コンテストでは、KDDI総合研究所が世界で初めて1161次元の符号暗号を解読することに成功した。
 総当たり方式による単純計算では、世界最高性能のスパコンを使っても1億年以上かかる所を、商用クラウド上で特殊なアルゴリズムと超並列化の手法を使うことによって約375時間で解読した。

 逆に言えば、既存のコンピューターでも現実的な時間内に解けると示すことにより、高度な符号問題でも暗号として使うには1161次元では不十分であることを証明した。量子コンピューターで解読を試みられるとすれば、なおさら危ないことになる。

 しかし逆に次元数を増やしすぎても問題が発生する。ハッカーではなく正当なユーザーが、正規の暗号鍵を使って暗号文を普通の文章に戻して読もうとする際、システムの処理時間が増大しすぎて使い物にならない。
 このため、量子コンピューターで攻撃されたとしても、暗号の安全性が確保される必要最低限の次元が求められている。

⚫︎今月中にも候補を1つに絞り込む見通し
 こうしたコンテストによる厳しい選別を経て、NISTは現在の4候補の中から、早ければ今月中にも「耐量子暗号」方式をおおむね1つの候補に絞り込む見通しだ(ただし念のため補欠候補も用意されそうだ)。2024年までに、この方式を規格化する計画とされる。日本をはじめとした各国の企業も、情報システムの更新に向けた準備などの対応を迫られる。

 しかし、現在のRSA暗号を破ることのできる本格的な量子コンピューターが登場するのは、早くても10~20年先と見られている。なぜ、金融やITをはじめ産業各界の企業は今から、それに向けた準備を始めなければならないのだろうか。

 これについてKDDI総合研究所セキュリティ部門長の清本晋作氏は次のように語る。
「アプリケーションに応じて、準備を始める時期は異なるでしょう。例えば電子署名にも公開鍵方式の暗号は使われている。これは10~20年先の長期保証を必要とするので、現時点で電子署名されたデータが(将来の量子コンピューターを使って)偽造されないためにも早目に(次世代の暗号方式に)対応する必要があるでしょう」

 すでにアメリカのグーグルは自社のクローム・ブラウザで耐量子暗号の試験的な利用を開始した。

 以上のような「耐量子暗号」とは別個に、「量子暗号」と呼ばれる技術の研究開発も各国で進んでいる。両者の呼称は似ていて紛らわしいので、正確な定義を確認しておこう。
 まず耐量子暗号とは「量子コンピューターによる攻撃に耐える力を持った暗号技術」のことだ。この暗号技術自体は、量子力学に基づく「量子技術」を使う必要はない。先述の「格子問題」や「符号問題」など、主に高度な数学を使った暗号がこれに該当する。

 これに対し量子暗号とは、それ自体が量子技術に依存する暗号技術である。この暗号はまた、量子コンピューターによる攻撃にも十分耐える力を持っている。つまり量子暗号は(NISTが標準化を進める「耐量子暗号」ではないが)語義的には耐量子暗号の一種でもある。

 詳細な説明は省くが、量子暗号とは量子技術に基づく「量子鍵配送」と「ワンタイムパッド(使い捨てパッド)」と呼ばれる強力な暗号化アルゴリズムを組み合わせた方式だ。これにより、理論的にはどんな手段でも(つまり量子コンピューターでも)絶対に破ることのできない究極の暗号が実現されるという。

 この量子暗号では、後述する中国と並んで、東芝やNECなど日本メーカーも高度な技術を有している。両社は2022年1月、野村ホールディングス、野村証券、情報通信機構(NICT)と共同で、量子暗号通信の実証実験を行った。実際の株式取引に採用されているフォーマットに準拠したデータを量子暗号で送信し、この技術が金融分野に適応できることを検証した。
 中でも東芝はすでに2020年10月、量子鍵配送システムを製品として発表。大規模なゲノム(遺伝情報)解析データや金融情報など、高い秘匿性が要求される分野に向けてマーケティングを図っている。

⚫︎アメリカ政府が量子暗号を採用しないワケ
 しかし、アメリカ政府はこの量子暗号を次世代標準として採用するつもりはない。そこには政治的な要因が影響しているかもしれない。
 2016年、中国科学技術大学の研究チームは世界初の量子通信衛星「墨子号」を打ち上げた。2021年1月には、この衛星と地上をつなぐ4600キロメートルの通信ネットワークを築き、この上でハッキングや盗聴を不可能にする量子暗号通信を世界で初めて成功させた。

 アメリカのNISTが量子暗号を次世代規格に採用しなかったのは,中国がこの分野をリードしているためと見る向きもある。他方,量子暗号がいまだ技術的に成熟していないため、システムとしての安定性が欠如していることのほうが理由としては大きい、との見方もある。

 いずれにせよ将来はおそらく、これら2つの方式の間で用途に応じた使い分けが生じると見られている。

 NISTが規格化する耐量子暗号は、ネット・ショッピングや各種ICカードなど一般社会での日常的な用途に使われ、量子暗号は軍事・諜報など安全保障の分野、さらには超先端的なゲノム医療など、より秘匿性の高い特殊な用途に使われるだろう。
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遺伝子を自由に書き換えられる、「遺伝子ドライブ」技術の“過大なリスク” 生物種が絶滅するかもしれない… 202202

2022-02-10 01:06:00 | 気になる モノ・コト

遺伝子を自由に書き換えられる、「遺伝子ドライブ」技術の“過大なリスク” 生物種が絶滅するかもしれない…
   現代ビジネス より 220209美馬 達哉


⚫︎無数の惨劇を生んできた優生思想
 差別的な言動や凶悪事件があるたびに、その背景にある考え方として「優生思想」という言葉が非難の意味を込めて使われる。
 優生思想とは、一言でいうと、人間の優劣は生まれつきのものであって、「優秀」な人間に生きる価値はあるが、「劣等」な人種や障害者には生きる価値がないとする考え方だ。

 これは、19世紀に、当時の進化論や遺伝学から生まれた「優生学」――ある人種の遺伝的な質の改良を目指す学問(現在では否定されている)――をもとにしている思想である。
 とくに問題となるのは、「劣等」な人々は生まれつきの「劣等」な遺伝子を持っているはずだから、そうした人々は生まれる価値も生きる価値もないという差別的な考え方につながるからだ。

 日本で1996年まであった旧「優生保護法」は、不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づいて障害者に強制的な不妊手術をすることをみとめる法律だった。
 現在では、不妊にさせられた被害者の裁判提訴をきっかけに、救済制度の整備や実態調査が行われつつある。
 また、20世紀前半のナチスドイツの時代には、障害者は「生きる価値のない生命」として強制的に安楽死させられていたことも知られている。

20世紀前半のドイツで優生思想に基づく政策を進めたアドルフ・ヒトラー

 こうしたことは、現在では、障害者差別に由来する非人道的な犯罪とされている。
だが、医学技術の進歩に伴って、倫理的に微妙なボーダーライン上の行為も出現している。

 その一例が、産科医療で、胎児に対して行われる出生前診断や不妊治療での着床前診断(胚を子宮に移植する前の診断)である。
 その結果によって選択的に妊娠中絶することを前提とするなら、最終的に「障害者を生まない」事態へとつながってしまうという懸念があるからだ。
 そのため、優生思想を強く批判する人々は、出生前診断を利用した選択的な妊娠中絶のことを「新優生学」と呼ぶこともあるくらいだ。

⚫︎ゲノム編集と21世紀の優生学
 ここまでは、過去と現在の優生思想や優生学のお話だ。

 ここからは生物医学のテクノロジーの進歩を踏まえて,未来の優生学について考えてみよう。
 ここでキーワードとなるのは、積極的優生学・消極的優生学という見方だ。
消極的優生学は望ましくないとされた遺伝子や人々を減らそうとする手法を意味し、積極的優生学はその逆で望ましいとされた性質を増やそうとするものだ。

 2016年に相模原で発生したような障害者を狙った犯罪、ナチスドイツやかつての日本の優生学、新優生学として批判されることもある出生前診断などは、いずれも、この意味で「消極的」であるために、「生かさない」・「生まれさせない」ということになって、生命の価値を軽んじることにつながる。
だが、「優秀」な遺伝的性質を広げていくという場合は、どう考えるべきだろうか。

 21世紀になって技術革新が進んだゲノム編集技術は、人間にとって有用な遺伝子を選び出し、しかも、それを高スピードで拡大させる手法を実現可能にしている。
 それが、親から子への通常の遺伝よりも、遺伝子の拡散をスピードアップさせた「遺伝子ドライブ」技術である。
 人間への臨床応用はまだまだ先だが、動物や昆虫など他の生物ではすでに実用化に向けた実験段階に入っている。

⚫︎遺伝子ドライブを支える「スーパーメンデル遺伝」
 遺伝子ドライブの技術とは、ワープロのように遺伝子暗号を書き換えることができるゲノム編集技術そのものをパッケージ化して遺伝子に組み込むというものだ。
 遺伝子ドライブへと改編された遺伝子は、ゲノム編集の能力を持っているので、それが入り込んだ細胞を乗っ取って、もともとのものとは別の遺伝子に書き換えることができる。

具体的には、どういうことかを簡単に図解して説明しよう。

図:優性遺伝と遺伝子ドライブ(筆者作成)

 図に示したように、もともと野生の小さいアオ蚊の群れがあって、そこに、一つの遺伝子をゲノム編集した大きなアカ蚊を1匹いれたとしよう。

 第一の場合は、普通にゲノム編集した遺伝子で、メンデル遺伝でいう優性遺伝(顕性遺伝)だったとする。
もともといたアオ蚊の方が圧倒的に多数なので、アカ蚊の子孫は最初の4分の3がアカ蚊になるが、あとはアオ蚊と混ざり合ってしまい、2分の1の子孫にだけ遺伝子が伝わっていく。
 これは有性生殖では両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐからだ。

 もし仮に、アカ蚊のほうがとても優秀で、生存競争に有利でより多く生き残るとしても、ゲノム編集されたアカ蚊が野生のアオ蚊を置き換えるには何世代も必要になる。

 一方で第二の場合は、遺伝子ドライブを組みこんだゲノム編集をしたアカ蚊をアオ蚊の中に入れる。
 アカ蚊とアオ蚊の子孫が両親の遺伝子を一組ずつ受け継ぐところまでは同じだが、違うのは、遺伝子ドライブの遺伝子はゲノム編集能力を持っているところにある。
 そのため、子孫の細胞の中で、アカ蚊の遺伝子は、アオ蚊の遺伝子を強制的にアカ蚊の遺伝子に書き換えることができ、子孫はすべてアカ蚊になる。
すると、アカ蚊の遺伝子はネズミ算式にどんどん拡大していくことになる。
 メンデル遺伝よりもはるかに素早く遺伝子が拡大するので、これは「スーパーメンデル遺伝」とも呼ばれる。
 遺伝子ドライブを積極的優生学に使えば、人間に有用な遺伝子を自然の遺伝よりも素早く拡大させて、集団の遺伝的質を操作することができる。

⚫︎遺伝子ドライブ実用化に伴う「リスク」
 先ほどの図で「蚊」を例に使ったのは、遺伝子ドライブの実用化が最も進んでいるのがマラリアを媒介するアノフェレス蚊での研究だからだ(「ターゲット・マラリア」計画)。
 蚊の場合は害虫なので、人間にとって有用な遺伝子(蚊にとっては不利な遺伝子)を拡大させる計画となっている。
 具体的には、オスに、子孫のメスを不妊化させる遺伝子を含む遺伝子ドライブを組み込むという内容である(蚊にとっては消極的優生学である)。

 2021年には、実際に遺伝子ドライブ蚊を外界に放出する前段階として、大型ケージで効果を試した実験が行われている(Hammonds 2021)。
それによると、遺伝子ドライブを持つオスの蚊を、蚊の集団全体の8分の1から4分の1の数で入れると、1年以内に集団が死滅したという。

 実際にマラリアが蔓延している地域で同じことを行うかどうかは議論の最中だ。
マラリアを媒介する蚊は害虫なので全滅してもいいとの考えもある一方で、どこか一カ所で放出されれば、全世界の生態系に予想外の影響を与える可能性も捨てきれない。

 もっと議論になっているのは、ニュージーランドの「プレデター・フリー」計画で、外来種を遺伝子ドライブで駆逐するための研究だ。
 果樹園や森林や固有種の野鳥を襲う害獣となった外来種フクロギツネに対して、「自殺遺伝子」の遺伝子ドライブを組み込むという計画があるという(ヘレン・ピルチャー『LIFE CHANGING ヒトが生命進化を加速する』化学同人)。
 だが、フクロギツネはニュージーランドでは侵略的な外来種だが、本来の生息地オーストラリアでは保護獣である。
もし、遺伝子ドライブを入れたフクロギツネがオーストラリアに入り込めば、フクロギツネは全滅しかねない。
ゲノム編集による遺伝子ドライブは、強力なテクノロジーであるだけに、それを制御することは難しそうだ。

「遺伝子=生まれつき=変化しない」というイメージが大きく塗り替わり、親から子への遺伝を超えたスーパー遺伝も可能になりつつあるのが、生物学の現状である。
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