和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

「母」

2007-01-04 00:09:19 | 小説。
「お休みなさい」

お母さんの声が、聞こえる。
あたたかい、懐かしい、柔らかな声。

あぁ、僕は、まだ。

「疲れたでしょう。もう休んでもいいのよ」

僕は――まだ。
眠りたく、ないのに。

お母さんの手が、額に触れる。
優しいウタゴエが、聞こえる。

厭だ、お母さん、厭だよ――。

「どうしたの? 眠れないの?」

違う、違うんだ。
僕はまだ眠れない。休んじゃいけない。
僕はフラフラと起き上がる。

「・・・どうして? こんなに疲れきっているじゃない」

そうかもしれないけど、だけど――。
だけど・・・。

だけど。
僕の思考はそこで止まる。

疲れているなら、休めばいいんだ。
倒れてしまう前に、立ち止まればいいんだ。
でも、僕の意識がそれを邪魔する。
休んじゃいけない。立ち止まっちゃいけない。
それが何故か分からないから、僕は言葉に詰まるんだ。

お母さんは、そんな僕に苦笑して言う。

「困った子ね」

くしゃくしゃと、頭を撫でる感触。

「じゃあ、行ってらっしゃい」

――ごめんなさい。

「謝ることなんかないわ」

本当は、ずっと眠っていたいけど。
今はまだ、やらなきゃいけないことがある。
全部、すっかり片付いたら――

また、ここに帰ってくるから。

そんな思いを乗せて、僕は言う。

「行ってきます」
コメント
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