今日も太陽は、容赦なく照りつける。
直接的な熱はもちろん、暖められたアスファルトからの照り返しもまた辛い。
夏も盛りといえる季節だった。
そんな中、僕はひとりバス停でバスを待っている。
屋根もなく近くに建物もない。
道端にぽつんと停留所がある、ただそれだけだ。
――暑い。
当然の話だが、実に暑い。これはもはや拷問と言えた。
「今日も暑いですね」
そこで不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると、異様な男が立っていた。
年の頃は僕より少し上、30歳ちょっとといったところだろうか。
この暑い中、全身黒のスーツを着ている。
さらに、右手には――黒い雨傘。
僕は、その妙な雰囲気に絶句する。
「お体は大丈夫ですか? 見たところ、手ぶらのようですが」
微笑みながら、男はそんなことを言った。
「あ、ええ、まぁ・・・」
曖昧に笑い返しながら、そう言うのがやっとだ。
この男は、何者だ。
そもそも。
いつから――そこにいた?
このバス停には、見渡す限り僕ひとりしかいなかったというのに。
背中に気持ちの悪い汗が浮かぶのを感じる。
それは危機感というより、違和感。
有り得ないことが、起こっているような。
「今日のような日に手ぶらで出歩くのは危険ですよ」
そんな僕の気持ちなどお構いなしに、男は続ける。
「何せ、日光は猛毒ですからね」
「・・・猛毒?」
その一言を搾り出すだけで精一杯。
何だろう、胸が苦しい。全身に強い緊張を感じる。
「そう、猛毒。ご存じない?」
「いや」
小さく首を振って答える。
猛毒――確かに強い日射しを直接浴びるのは色々と危険だ。
熱中症の恐れもあるし、そもそも日焼け自体身体によくはない。
無論悪いことばかりでもないが、今日のような真夏日にはデメリットが強いだろう。
しかし、それを猛毒というのは些か極端な気がする。
「日光は猛毒ですよ。特に今日のような暑い日は危ない。
太陽の光には目に見えない毒素があるのです。
それは目から、鼻から、耳から侵入し、身体の内側を破壊する。
胃に腸、心臓、そして脳。
全て太陽の毒にやられてしまう。
だからこの時期、知識のない方々は残念ながら亡くなってしまうんですな。
熱中症など、実は大した問題ではないのです。
本当に恐ろしいのは、日光に含まれる毒なのですから」
男は流暢に語る。
そして、付け足すように言った。
「私? 私は大丈夫。この傘があるからね」
自慢気に傘を指さす。
それはどう見てもただの雨傘である。
日傘ならまだしも――ただのいわゆるこうもり傘。
雨には強そうだが、日光にも強いようには見えない。
しかし、確かに今日のような日にはないよりましなのかも知れない。
「とにかく、お気をつけて。
こんな日にどこへ行くのか存じませんが、身体が第一ですよ」
言いたいだけ言って、男はそのまま歩いて去っていった。
そういえば。
僕は、どこへ行こうとしていたのだろう。
そもそも――ここはどこなのだろう。
このバス停には、バスは来るのだろうか。
気付けば疑問は際限なく膨らんでいく。
目の前の道路はどこまでも延びているが、先程から1台も車を見ない。
バスの時刻表に目を向けると、それはただの白紙だった。
ああ、頭が、頭が痛い。
熱中症――。
そう考えて、先程の男を思い出す。
太陽の、毒。
そんなものが本当にあるのなら。
何の用意もなく、何の覚悟もない僕には。
少々辛い日に違いなかった。
直接的な熱はもちろん、暖められたアスファルトからの照り返しもまた辛い。
夏も盛りといえる季節だった。
そんな中、僕はひとりバス停でバスを待っている。
屋根もなく近くに建物もない。
道端にぽつんと停留所がある、ただそれだけだ。
――暑い。
当然の話だが、実に暑い。これはもはや拷問と言えた。
「今日も暑いですね」
そこで不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると、異様な男が立っていた。
年の頃は僕より少し上、30歳ちょっとといったところだろうか。
この暑い中、全身黒のスーツを着ている。
さらに、右手には――黒い雨傘。
僕は、その妙な雰囲気に絶句する。
「お体は大丈夫ですか? 見たところ、手ぶらのようですが」
微笑みながら、男はそんなことを言った。
「あ、ええ、まぁ・・・」
曖昧に笑い返しながら、そう言うのがやっとだ。
この男は、何者だ。
そもそも。
いつから――そこにいた?
このバス停には、見渡す限り僕ひとりしかいなかったというのに。
背中に気持ちの悪い汗が浮かぶのを感じる。
それは危機感というより、違和感。
有り得ないことが、起こっているような。
「今日のような日に手ぶらで出歩くのは危険ですよ」
そんな僕の気持ちなどお構いなしに、男は続ける。
「何せ、日光は猛毒ですからね」
「・・・猛毒?」
その一言を搾り出すだけで精一杯。
何だろう、胸が苦しい。全身に強い緊張を感じる。
「そう、猛毒。ご存じない?」
「いや」
小さく首を振って答える。
猛毒――確かに強い日射しを直接浴びるのは色々と危険だ。
熱中症の恐れもあるし、そもそも日焼け自体身体によくはない。
無論悪いことばかりでもないが、今日のような真夏日にはデメリットが強いだろう。
しかし、それを猛毒というのは些か極端な気がする。
「日光は猛毒ですよ。特に今日のような暑い日は危ない。
太陽の光には目に見えない毒素があるのです。
それは目から、鼻から、耳から侵入し、身体の内側を破壊する。
胃に腸、心臓、そして脳。
全て太陽の毒にやられてしまう。
だからこの時期、知識のない方々は残念ながら亡くなってしまうんですな。
熱中症など、実は大した問題ではないのです。
本当に恐ろしいのは、日光に含まれる毒なのですから」
男は流暢に語る。
そして、付け足すように言った。
「私? 私は大丈夫。この傘があるからね」
自慢気に傘を指さす。
それはどう見てもただの雨傘である。
日傘ならまだしも――ただのいわゆるこうもり傘。
雨には強そうだが、日光にも強いようには見えない。
しかし、確かに今日のような日にはないよりましなのかも知れない。
「とにかく、お気をつけて。
こんな日にどこへ行くのか存じませんが、身体が第一ですよ」
言いたいだけ言って、男はそのまま歩いて去っていった。
そういえば。
僕は、どこへ行こうとしていたのだろう。
そもそも――ここはどこなのだろう。
このバス停には、バスは来るのだろうか。
気付けば疑問は際限なく膨らんでいく。
目の前の道路はどこまでも延びているが、先程から1台も車を見ない。
バスの時刻表に目を向けると、それはただの白紙だった。
ああ、頭が、頭が痛い。
熱中症――。
そう考えて、先程の男を思い出す。
太陽の、毒。
そんなものが本当にあるのなら。
何の用意もなく、何の覚悟もない僕には。
少々辛い日に違いなかった。