「待て」
街の門番が、男女二人組の旅人を止めた。
「フードを取れ」
二人は共に深くフードを被っていた。
今日は特に寒い。防寒のためだろう。
しかし、門番には確認する義務があった。
二人は何事かと思いながらも、フードを取る。
「・・・男の方。お前はこの街に入れるわけにはいかない」
「どうして!?」
女が疑問を口にする。
「その髪の色――」
男の髪は、金に近い茶色。
一方女は、純粋な黒。
「呪われている」
門番は、端的に理由を述べた。
「昔から、金髪の者は呪いを受けたとして忌避されている」
「馬鹿馬鹿しい!」
女はヒステリックに抗議する。
「そんなの、ただの迷信でしょう? そんな理由で差別するの!?」
男はおとなしく目を伏せ、何も言わない。
どうやら、女の方が常に主導権を持つタイプのようだった。
「だったら、具体的に説明しなさいよ。彼の髪が金色だと何故街に入れないの?」
「呪われているから、規則だから――それ以上の理由はない」
「くっだらない!」
女はますますヒートアップする。
「大昔の慣習なんかに縛られて、人権すら無視するなんてどうかしてるわ!
もういい。貴方じゃ話にならないわ。もっと偉い人を出して頂戴!」
「それもできない」
「どうしてよ!」
「同じだ。呪われているものを、この街の人間に近付けるわけにはいかない」
「何よそれ! 彼が病原菌でも持ってるっていうの!?」
「そうだな・・・」
と、門番は困ったように思案する。
そして、やむを得ないという風に、言った。
「『病気を持っている』――そういう理解でも構わない」
「分かった。あくまでも彼を迫害するのね? それがこの街の考えなのね?」
「そう思ってもらって結構」
「・・・フン」
行きましょう、と女は言って、強引に男の手を引いて去っていった。
その日の夜。
二人の旅人は、闇に紛れて門番の監視をくぐり抜けた。
息を殺し、見つからないように。
そして、街の中心地までやってきて、ようやく人心地がつく。
通りの真ん中には泉があり、人々の生活の要であることが窺い知れた。
ここまで来れば問題ない、と二人は泉の水で喉を潤す。
――そこで、男の皮膚と、泉の水が、反応した。
具体的には、男に触れた水は緑に変色し。
零れた一滴の水が、泉全てを汚染した。
更に、男の口からは同じく緑の霧が溢れ出して。
男は、わずか数秒で、命を落とした。
女には、何がなんだか分からなかった。
その尋常ならざる様子に、ただただ混乱し、泣き喚いた。
自らの皮膚に、無数の発疹が現れていることにも気付かずに。
そうして、汚染された泉から、街中へとその毒――否、呪いは広がって。
次の日には、完全な死の街と化してしまっていた。
街の門番が、男女二人組の旅人を止めた。
「フードを取れ」
二人は共に深くフードを被っていた。
今日は特に寒い。防寒のためだろう。
しかし、門番には確認する義務があった。
二人は何事かと思いながらも、フードを取る。
「・・・男の方。お前はこの街に入れるわけにはいかない」
「どうして!?」
女が疑問を口にする。
「その髪の色――」
男の髪は、金に近い茶色。
一方女は、純粋な黒。
「呪われている」
門番は、端的に理由を述べた。
「昔から、金髪の者は呪いを受けたとして忌避されている」
「馬鹿馬鹿しい!」
女はヒステリックに抗議する。
「そんなの、ただの迷信でしょう? そんな理由で差別するの!?」
男はおとなしく目を伏せ、何も言わない。
どうやら、女の方が常に主導権を持つタイプのようだった。
「だったら、具体的に説明しなさいよ。彼の髪が金色だと何故街に入れないの?」
「呪われているから、規則だから――それ以上の理由はない」
「くっだらない!」
女はますますヒートアップする。
「大昔の慣習なんかに縛られて、人権すら無視するなんてどうかしてるわ!
もういい。貴方じゃ話にならないわ。もっと偉い人を出して頂戴!」
「それもできない」
「どうしてよ!」
「同じだ。呪われているものを、この街の人間に近付けるわけにはいかない」
「何よそれ! 彼が病原菌でも持ってるっていうの!?」
「そうだな・・・」
と、門番は困ったように思案する。
そして、やむを得ないという風に、言った。
「『病気を持っている』――そういう理解でも構わない」
「分かった。あくまでも彼を迫害するのね? それがこの街の考えなのね?」
「そう思ってもらって結構」
「・・・フン」
行きましょう、と女は言って、強引に男の手を引いて去っていった。
その日の夜。
二人の旅人は、闇に紛れて門番の監視をくぐり抜けた。
息を殺し、見つからないように。
そして、街の中心地までやってきて、ようやく人心地がつく。
通りの真ん中には泉があり、人々の生活の要であることが窺い知れた。
ここまで来れば問題ない、と二人は泉の水で喉を潤す。
――そこで、男の皮膚と、泉の水が、反応した。
具体的には、男に触れた水は緑に変色し。
零れた一滴の水が、泉全てを汚染した。
更に、男の口からは同じく緑の霧が溢れ出して。
男は、わずか数秒で、命を落とした。
女には、何がなんだか分からなかった。
その尋常ならざる様子に、ただただ混乱し、泣き喚いた。
自らの皮膚に、無数の発疹が現れていることにも気付かずに。
そうして、汚染された泉から、街中へとその毒――否、呪いは広がって。
次の日には、完全な死の街と化してしまっていた。