和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

あとがき。

2013-05-05 22:11:24 | いつもの日記。
久々の小説「夢の通り」でした。
いいタイトルだ。
タイトルが決まって、頭からすらっと書けました。
久々だからかな。

まぁ、久々だからそんなに捻った内容にする必要はないだろう、
ということで比較的ストレートな作品になったかと思います。
そうだよ、これが僕のストレートだよ。
和泉作品に触れたことのない方としては、もしかしたら
ビックリだったかもしれませんが。

いやー、定期的に作品を書くだけのエネルギーが無くなっちゃってさー。
ネタはね、別にいいの。
なくても書けるから。
そんな、前代未聞な、空前絶後な作品を狙って書いているわけではないので。
そこはテキトーでいいんです。
でも、書くことそのものに、やはり最低限度のエネルギーが要るのですよ。

なので、久々に書いたけどまた当分書けなくなりそうです。
気が向いたら書くけどね。
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【SS】夢の通り

2013-05-05 22:05:23 | 小説。
月に一回程度のペースで、定期的に見る夢がある。
繰り返し繰り返し、何度も見てきた。
忘れることのない、夢。

そして今、目の前に、その夢で見た通りの女性がいる。
名前も知らない。
だけどよく見知った、女性。

当然向こうは、僕のことなど知らないだろう。
いきなり目の前に現れても、不審がられるだけだ。
だから僕は、こっそり後を付けることにした。

月の明るい夜。
閑静な住宅街の路地裏。
街灯もまばらな、少し寂しげな道を歩く。
コツコツと彼女のヒールの音だけが響いた。
ああ、彼女はこんな音を立てて歩くのか。
僕は妙なところに感じ入ってしまう。
それはまるで夢の続きのような。
とろける響だった。

もっと――
もっと、彼女を知りたい。

名前は何というのだろう。
どこに住んでいるのだろう。
趣味は? 仕事は? 休日は何をして過ごすのだろう?
知りたいことが次々と溢れ出して止まらない。

しかし、一方でどこか諦観に似た気持ちもある。
所詮夢は夢。
現実とは違うのだ。
夢の続きを、少し体験できただけでもいいじゃないか――。

そんなことを考えていると、ふと彼女のやや後方に男の影が。
僕は様子を窺う。

それは明らかに怪しげな、コートを羽織って帽子を被った男だった。
両手をポケットに突っ込んだまま、やや早足で歩く。
この速度では、すぐに彼女にぶつかるだろう。
そこで、男は右手をポケットから出した。

ナイフ。

薄暗い、微かな明かりに反射する光で、僕はその存在に気付いた。
男は、そのナイフを握りしめ、今にも彼女に襲い掛かろうとする――。

違う。
こんな結末は、僕の望む――僕の夢じゃない。

思うより先に、体が動いた。
必死で走り、男に追いつく。
そしてそのまま、男の背後から強く体当たりをした。
吹き飛ぶ拍子に、男の右手からナイフがこぼれ落ちる。
カラン、と金属質な音が響いた。

何が起こったか一瞬分からないような顔をする男。
しかし、すぐに状況を察したのか、慌ててその場から逃げていった。

残されたのは、僕と、驚いた顔の彼女だけ。
よかった、彼女は無事だったのだ。
「怪我はありませんか?」
僕の問いかけに、彼女はようやく事態を理解する。
「は――はい。危ないところを、ありがとうございました」
そう言って、彼女は優しく微笑んだ。

ああ、そうだ。
この美しい笑顔だ。
これで――

僕は満足して、素早く彼女の白く細い首に手を伸ばす。
がっしりと強くその首を掴み、締め付ける。

――これで、夢の通りだ。

僕の両手で力尽きる彼女。
その怯えた末期の表情も、全て――僕の夢の通り。
コメント (2)
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