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和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

【SS】神様の心臓

2013-07-09 15:11:10 | 小説。
「じゃあ、その神様の心臓をちょうだい」

エンゼルさんは、いつものように陽気な調子でそういった。
私は言われるがままに、苦労して見つけ出した「神様の心臓」を差し出す。

「よくできました」

にやりと嗤うエンゼルさん。
その瞬間、「神様の心臓」は光り輝き、熱を帯び始めた。

――熱い。
何だこれ。どうなったんだ?
何もわからない私に、いつも通りエンゼルさんが解説する。

「これで魔王に封印された僕らの神様は復活する。全部キミのおかげだ」

そう、神様が封印されたから――
助けて欲しいと、最初にエンゼルさんはそう言った。
私は、それは一大事だねと・・・そう安易に答えて手を貸した。
私にできることなどたかが知れていると。

私なんかの手で、どうにかなるなんて思わないまま。

だって。
神様の封印なんてだいそれたものが、簡単に解けるなんて思ってなかった。
私みたいな、普通の女の子の力で。
そりゃあ、エンゼルさんの助けはあったけれど。
それでも、結局いつもみたいにどうにもならず、グダグダに終わるんだと思ってた。
いつも通りのなし崩し。

なのに、今、目の前で、「神様の心臓」はその力を取り戻している。
これは・・・おかしいなあ。
マズいんじゃないかなあ。

そもそも、エンゼルさんがいう「神様」とやらのことも、信じてなかった。
ただ、命じられたから、何となくノリで言うことを聞いていただけだ。
手順通りに迷宮に足を踏み入れて。
手順通りに魔物と戦って。
手順通りに封印を解いた。

どうせどこかで失敗するんだろうな、とか思いながら。
どうせ何も変わらないんだ、とか思いながら。

光はどんどん強くなり、熱もどんどん強くなる。
私はなぜか、とても悪いことをしたような――
危険な予感を感じていた。

「ありがとう。そして、さようならだ」

エンゼルさんが笑ったまま、すうっと霞のように消えていく。
それに合わせて、「神様の心臓」もどこかへと消え去った。

そういえば――。
エンゼルさんは「僕らの神様」と言ったけど。
それってつまり、私達人間の神様ではない、別の神様ってことなのかな?
そう思い至って、先ほどの嫌な予感の正体に気がついた。

魔王と神様。

それはつまり、魔王と別の魔王、という意味に置き換えられるんじゃないか。
どちらにしても、人間にとっては非常に害悪な。
そんな、別の魔王の復活を、私は手助けしてしまったんじゃないか。

エンゼルさんがいない今、考えても答えは出ない。
でも、とにかく嫌な感覚だけが私の中に残っている。

夜が明ける。
今日も一日、何事もなければいいのだけど。
コメント (2)
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