和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

Ark

2024-07-27 21:45:31 | 小説。
「貴方は選ばれました」
という通知が、政府から届いた。

気候変動により数年内に大規模な洪水が起こるという。
それは、日本が沈没するレベルなのだとか。
そこで、政府は秘密裏に大型船の製造に着手した。
納税額の多い理想的な国民100人を、その船に乗せてくれる。

私は、選ばれたのだ。

なるほど、私の納税額は並外れている。
日本人上位100位以内ということか。
いや、それも当然といえば当然かも知れない。
私は常々思っていた。
よく働き、稼ぎ、納税しているのに、メリットがまるでない。
大して納税しない怠惰な国民と、受けられるサービスはほぼ同等だ。
これは理不尽ではないか。

しかし、ここで多額の納税が活きた。
その船に乗せてくれるのなら、多額の税金を払ったのも無駄ではない。
命には代えられないのだから。

ここで「よかった」と思い、思考停止するのが凡人だ。
私は違う。
大型船に乗せてもらえる上級国民は僅か100名だという。
その僅かな人口の「国」に、通貨など必要だろうか?
そう考えた場合。
手持ちの金は全て、洪水までに使い切ってしまうべきではないか。

それから私は連日遊び倒した。
仕事もストップし、ただ莫大な財産を垂れ流すことに心血を注ぐ。
何せとんでもない額である。
普通に遊んだところで一生なくならない。

土地を買ったり、
ビルを買ったり、
人を買ったりした。

大半の無茶は、現金で押し通すことができた。
それで大勢から恨みも買っただろうが、それこそどうでもいい。
どうせ洪水で死ぬ下級国民共である。
文句があるなら上位100位以内の納税をしろと言いたい。
この国では納税をすればするほど偉いのだ。

そして1年ほど経ったある日、再度政府から通知が届く。
「皆さんの努力の結果、洪水は避けられました」
私に残されたのは、下級国民共から買った恨みだけだった。

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