心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

脊髄損傷へのiPS細胞移植治療

2022-01-16 19:41:42 | 健康・病と医療

とうとう、慶応大学医学部の岡野栄之教授と中村雅也教授らのグループが、世界に先駆けて、脊髄損傷により手足が動かせなくなった患者に、iPS細胞から作った神経原細胞約300万個の移植手術を実施、順調な経過を辿っているとの発表を行ないました。

脊髄を損傷して2~4週間以内(亜急性期)の患者に対し、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を200万個移植する手術を行ったとのことで、手術後の経過は順調。今後はリハビリをしながら、1年間にわたり運動機能の改善具合や安全性に問題がないかどうかなどを慎重に確認していくということで、今後さらに3人に同様の手術を行って安全性や有効性を確認する計画だそうです。

ただし今回の移植手術の主な目的は、まだあくまで安全性の確認にあり、移植手術の効果そのものにはありません。また今回対象となったのは、亜急性期の患者であって、現実の脊髄損傷の患者の多くを占める、慢性期に至った患者ではありません。さらには、この移植手術によって実際に脊髄の再生が起こったとしても、入念なリハビリなしには有効な機能をもつことにはならず、その場合これがiPS細胞の効果なのかリハビリの効果なのか微妙ともなるでしょう。そうして、iPS細胞の効果と明らかになったとしても、iPS細胞の作製には膨大なコストがかかるとされ、実用化にはさまざまな課題があるでしょう。さらには、仮に後天的な脊髄の損傷である脊髄損傷が完全に治療可能となった暁にも、たとえば特に周産期前後の脳そのもの(しかも大脳基底核)の損傷である脳性まひなどの場合は、なお依然として多くの超えるべき課題を残すことになるでしょう。

いずれにせよ、この移植手術が、今後の医療の世界、そして障がいの世界にも甚大な影響を与えることになるのは間違いないでしょう。

 


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