熱波がしばしば脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こしやすいことは専門家の間でも知られてきましたが、
ペンシルベニア大学医学部のSameed Khatana氏らの研究によると、
これは心臓や血管(心血管系)が体温調節で中心的な役割を果たしているためであり、
身体がオーバーヒートすると、発汗によって放熱するために、心臓はより激しく働いて血液を身体の末梢まで行き渡らせようとするからなのです。
とくにリスク因子を持つ脆弱な人では、それが過剰な負荷となって、心血管疾患を引き起こしやすくなります。
ところが今日、夏に猛暑日が続くのが当たり前のようになりつつあり、しかも猛暑日は今後ますます増えることが予測されます。
だとするなら、こうした暑熱に関連した心血管疾患による死者は、今後いっそう劇的に増加することにならないでしょうか。
そこでKhatana氏らは、今回の研究で、まず2008年から2019年までの米国の各郡における心血管疾患による死亡者数と「猛暑日」のデータを調べました。
「猛暑日」を、最高ヒートインデックス(体感温度の指標)が90.0°F(華氏90度)=32.3℃(摂氏32.2度)以上の日とすると、
この約12年の期間中に、「猛暑日」によって1年当たり平均1,651件の心血管疾患による超過死亡
(つまり「猛暑日」がなければ避けることができた死亡)が、発生していたことが推定されました。
次いで、この数値と今後の環境や人口の変化の予測とに基づいて、この先2036年から2065年までの期間に起こるであろうことを、
温室効果ガスの排出量の増加が中程度の場合と、大幅に増加する場合の二つのシナリオの下で予測しました。
その結果、まず、温室効果ガス排出量の増加が中程度にとどまるという、より楽観的なシナリオの場合でも
(1年間の猛暑日の平均が近年の54日から71日に増加すると想定)、
1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は平均4,320件に増加する(162%の増加)ものと推定されました。
さらにもう1つの、温室効果ガス排出量の増加が大幅な、より悲観的なシナリオの場合となると
(1年間の猛暑日の平均が80日に増加すると想定)、
1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は5,491件に増加する(233%の増加)ものと推定されました。
ちなみに、この問題による打撃が最も大きいと予測されるのは高齢者と黒人であり、
それにより既存の心疾患に関する人種間の格差も、さらに拡大すると見られています。
<文 献>
Khatana, S. A. M., Eberly, L. A., Nathan, A. S.& Groeneveld, P. W., 2023 Projected Change in the Burden of Excess Cardiovascular Deaths Associated With Extreme Heat by
Midcentury (2036-2065) in the Contiguous United States, in Journal Circulation. 2023 Nov 14;vol.148, no.20, pp.1559-69.
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