Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

国際学会の楽しみ方

2012-10-15 15:25:56 | その他

米国麻酔科学会のためワシントンD.C.に滞在中です。

いくつかこぼれ話をしたいと思いますが、まず.....

とある米国留学中の先生と久々に再会して、最初の話題が、「先生のブログ楽しみにしているんです。もっと更新してくださいよ」でした。見てくれている人の直接の声をうかがえるのはとても嬉しいですが、なかなか難しい課題でもあります。「善処します」風な曖昧な答えでお茶を濁しました(で、さっそく更新)。心の中では「現代的な、ブログ的な短い文章、不得意なんだよねー。どうしても説教的な長いものになっちゃって。意外に大変だし」とつぶやきながら.....

 

さて、本題の学会の感想。

インターネットで世界中が同時に同じ領域の論文情報を得られる時代にあって、国際学会の利用価値もだんだん変わりつつあることを実感します(ということは以前にも述べたような気がしますが.....)。つまりは、新しい情報を求めに来ても、「おお、すげー」と感動することが少なくなったのではないかと.....

教育的なレクチャーを聴いても、自分の専門領域である集中治療に関しては、普段日本で回診、勉強会、JSEPTIC-CTGセミナーIntensivistの編集会議で考えて、勉強して、ディスカッションしていることは全く劣ってないという印象を持ちます。というか、むしろ聴衆の1人として「それは言い過ぎじゃない(自分の個人的なプラクティスを前面に出し過ぎでしょう)」とか、「それはもう古い話でしょう」とか、思うこともしばしばあります(注1)。

もちろん、そう思えるのはある程度最先端の専門的知識をフォローしてはじめてなせることなので、人によっては「知らなかった知識が満載だ、おもしろい」と思うかもしれません。実際に、自分でも、興味があるがご無沙汰しているようなこと、例えば経カテーテル大動脈弁留置術transcatheter aortic-valve implantation (TAVI)の周術期に関わる知識のレヴューをしてくれたワークショップは、知識が一気にわかってとてもよかったです。

一歩下がって冷静に考えると、「ああ、学会って騙し、騙される場所なんだな」ということに気づきます。その最たる場が企業がスポンサーのランチョンセミナーでしょうね。EBMならぬLBM(Luncheon Seminar Based Medicine)と言われる所以です(注2)。

 

個人的に面白かったのはポスター会場でのラウンド。

全部で6~20題ぐらいの同系統の話題(たとえば集中治療システム)を集めて、司会進行(モデレーター)のもとに、一演題数分のプレゼンをしてその後に発表者および関連者10~20人くらいでディスカッションというやつです。要は、同じ穴のムジナなので、そのスジに詳しい輩が集っていて、鋭い指摘、批判をお互いに繰り広げ、「イヤーごもっともです」と口で答えながら、心の中では「わかっちゃいるけど、それはできない事情があったのよ」と愚痴ったり、「おお、鋭い!」(英語では回答に少し窮するような鋭い質問に対し、しばしば"good question"と言いますね)と答えながら、心の中では「いやいや参りました。気づきませんでした。ありがとうございます」と思うことも多いのですね。さらにこういうポスターディスカッションで、次の研究ネタのヒントを貰えることもしばしば。

今回参加したラウンドは、モデレーターの準備、運営が非常に優れており、ディスカッションの内容、指摘は、(残念ながら?)普段日本でやっていることよりも一段上で、非常に得した気分になりました。

以前は、ポスターには、こういうみんなでディスカッションするラウンドが付属しておらず、ポスター貼って終わり、とする学会が多かったのですが、そうすると、学会に出席する主目的が、観光、買い物になったりする。もちろん経済貢献は学会の重要な一側面です。

また、発表は発表で一つとしてカウントされますから、非医療者が聞けば「◯◯先生は国際学会の発表の経験も深く.....」は、英語でプレゼンできて、ディスカッションもできて凄いなあ、というイメージを持ってしまいがちですが、ポスター貼り逃げの経験がたくさんあるだけだったりして、ということも起こるわけです(なんかつい最近騙された某新聞社を思い起こしますが.....)。

ちなみに、最近はもうこの手の「貼り逃げゴメン」は少なくなり、若い日本の先生がたも一生懸命練習して素晴らしいプレゼンをしています。英語が苦手な方でも想定内の質問であればなんとか通じるお答えができる。

想定していない質問になんとか答えられるレベルとなると次のステップ。ただし、同じ穴のムジナなので、多少の間違いは全くOK。専門用語の羅列で、指摘し、指摘され、通じます。とりあえずしゃべる、これが重要です。

そのスジの専門家としてスムーズに意見の交換をできるか否か、となるとさらに次のステップ。

アドリブの話題を振られたときに、無理なくスーッと聞いてもらえる程度に流暢に話せ、聴衆を納得させるか否か、となるとさらに次のステップ。

どのレベルの英語会話力を求めるかによってハードルはどんどん上がっていき、終わりはありません。ちなみに日本に居ながらでも、動機づけと継続で、練習できないわけじゃありません。簡単でないのは確かですが。

 

注1 米国の集中治療は呼吸器内科医主導であり、麻酔科系の集中治療医は少数派であり、最先端で米国のこの業界を動かしている麻酔科医は非常に少ないという背景があるのかもしれません(余談ですが、日本の麻酔科業界もこのトレンドを確実に追っかけていると肌で感じます)。今回のモデレーターも「米国では、麻酔科系の集中治療医の活躍が、カナダ、欧州、豪州に比べると劣っている」とポロッと言っていました。

注2 ちなみにLBAなんてコトバありません。Googleで一件も引っかかんないし。私(の周囲の方?)の造語だと思いますが、局地的に、そう思っている方、すでにお使いの方はいらっしゃるでしょう。もちろん米国でもプレゼン前の利益相反の開示は行いますが、米国では額がデカイだけに、もちろん開示は必要ですけど、開示すりゃ−いいってもんでないんじゃない、単なる免罪符になっていませんか、という正直な感想も持ちます。その一方で、一流医学雑誌に載るような質の高い多施設介入研究は、今時、企業の資金援助がないものの方が少ない。我々はこの呪縛から逃れられない。以前にも増して我々の個人的なモラルが問われている側面でもあります。