Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

数値を治すということ

2013-08-20 12:28:26 | 集中治療

わたしたちが患者を治療するために介入する目的は何でしょうか?

患者をICUからできるだけ早く退室させ、肉体的、精神的、社会生活機能的に元の状態に(できるだけ近い形で)戻すことが第一の目標と言ってもよいでしょう。

ちなみに、ICU滞在中、患者の生理学的、肉体的、精神的な負担をできるだけ軽減する、ことは二次的な目標になります。もし、リハビリ、鎮静などで患者が苦しそうに見えても、早く元の生活に戻れる可能性が高まるなら、それを優先すべきでしょう。つまり、第一の目標は第二の目標に優先する(注1)。

わたしたちが患者を治療する際の目標は何ですか? 自分の毎日のプラクティスを振り返ってみましょう。自分自身のココロの平静が保たれる範囲に数値を修正すること、が目標になっていませんか?

たとえば高二酸化炭素血症を例にとって考えてみましょう。

なぜ高二酸化炭素血症をきたしているのですか? 代謝性アルカローシスは? 死腔換気は? 二酸化炭素産生増加は?

高二酸化炭素血症の弊害は? 意識障害、脳血管拡張、肺動脈圧上昇、頻脈、肺胞酸素分圧低下などですよね。これらの高二酸化炭素血症による弊害とその二次的な影響がある(意識障害→気道確保の必要性、脳血管拡張→頭蓋内圧上昇、肺動脈圧上昇→右心不全、頻脈→冠虚血、肺胞酸素分圧低下→低酸素血症)、または起こる可能性が高いから治療するのですよね。

高二酸化炭素血症を治療する目的は何ですか? 繰り返しますが、PaCO2を自分自身のココロの平静が保たれる範囲(60 mmHg以下? 70 mmHg以下? 80 mmHg以下?)に収めることが目標になっていませんか?

どのように治療しますか? 自発呼吸→調節呼吸にする? 換気量を増やす? 鎮静を減らす?

PaCO2が実際に低下しましたか? 分時換気量(注2)が低下しましたか?

高二酸化炭素血症を治療することによって患者が被る利益は何ですか? 治療後に上記の弊害(やその可能性)が軽減したことを確認しましたか? 

高二酸化炭素血症を治療することによって患者が被る不利益は何ですか? 自発呼吸→調節呼吸にする、換気量を増やす、鎮静を減らすことによって何か弊害は生じませんでしたか? Posthypercapnic alkalosis(注3)→血圧低下は? 鎮静減量による生理学的変化、精神的苦痛は?

高二酸化炭素血症の代わりにありとあらゆるワードが入るはずです。パッと思いつくだけでも、低酸素血症、血圧、脈拍、アシドーシス、電解質異常、肝機能異常、凝固異常、低アルブミン血症、貧血、血小板減少、数限りなく出てきます。

みなさんどうされていますか?

 

 


注1:第二の目標が優先する場合もあります。第一の目標の希望が薄い場合、つまり緩和的な治療方針を取る場合です。

注2:分時換気量はPaCO2のトレンドを予測する最も簡単かつ確実なパラメーターです。ICUにおいて、ETCO2によるPaCO2の予測性能はよくありません(野本 功一, 讃井 將満. ETCO2不要説:ETCO2モニターはICUに標準装備すべきか? Intensivist 2011 第2号)。

注3:高二酸化炭素後アルカローシス。代償が効いている慢性の呼吸性アシドーシスを人工呼吸によって急激に補正したときに顕在化する代謝性アルカローシスで中枢神経系の合併症や死亡などの重篤な合併症をきたすことがある。

 

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