Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

コロナの「重症患者」、実は定義がバラバラだった

2020-09-12 14:55:06 | 集中治療
ヒューモニー 特別連載 第16回 "重症”新型コロナウイルス感染症患者とは何か?
 

厚労省 vs. 東京都の"重症”定義論争から、診療報酬制度、病院経営、国民医療費の問題があぶり出されてきました。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62037

https://humonyinter.com/column/med/med-16/

 

病院のハードウェアの余裕、ポリシー、マンパワー、通常診療への影響などにより、重症新型コロナ感染症患者さんが、通常ICUでなく、一般病棟に作られた専用病棟に入室するケースがあります。逆に、診療報酬の要件(診断名行われる処置)が満たされれば、人工呼吸やECMO(人工心肺)治療を受けなくてもICUに入室可能です(注1)。すなわち、“重症患者” と “ICU患者” が完全に一致するわけではないのです

 

 

 

加えて、通常診療を縮小しながら新型コロナ感染症を受け入れてきた病院の経営は苦しく、診療報酬空床補償などを最大限取得しようとするインセンティブが働きます。また、算定できる診療報酬加算は、新型コロナ感染症の場合、通常の3倍で期間も長くなります診療報酬加算は「行われる処置の密度」ベースで算定する仕組みなので、診療はどうしても密な方向へと向かいます(注2)。

 

 

 

重症患者専用ベッドの使用率を把握したいのであれば「ICUに入室する患者」という定義でよいが、重症患者の発生状況を把握したいのであれば「気管挿管して人工呼吸器を使用する」レベル以上を “重症”と定義するほうが正確でしょう。新型コロナウイルス感染症患者の重症度は、酸素療法、人工呼吸、ECMOという介入の必要度と一致しており、上記のような医療者の動機が作用しにくいのが、"人工呼吸"という介入だからです(注3)。

発生する医療費は、最終的には我々国民1人1人が負担する限られた財源から支出されています。医師は、日々、病院経営を守る立場と、医療費を負担する1人の国民という立場のジレンマに悩まされながら、治療を選択しています。少なくとも、私自身は、「選択に迷った時には、医療的、社会的に正しい診療を行う」ことを心がけていますし、若い人にはそのように教えています。

 

注1:例えば、新型コロナウイルス感染症の場合、診断名が「イ 急性呼吸不全」に該当し、”重症度・医療・看護必要度評価票”に則ってA項目(モニタリング及び処置など)4つ以上、B項目(患者の状況)3つ以上満たせば、加算が算定可能になります。またその額は、新型コロナウイルス感染症の場合、通常の3倍で期間も長くなります(重症集中治療管理加算額:通常 1日約14万円 x 14日間 → 新型コロナウイルス感染症でECMOが必要 約42万円 x 35日間 [1点10円])。

注2:例えば、A項目としてモニタリング(心電図モニター)や処置(動脈圧測定)を行うか否か判断に迷う場合、”行う”という判断になりやすい。

注3:酸素療法を行う患者の重症度はさまさまで、重症度に応じて各種の酸素療法があり、医療従事者間で使い方にも差が出やすいし、ECMOの適応にも差が出やすいのです。実際、日本のECMO患者の成績が良い理由の一つとして、海外に比べて重症度が低い段階で適応できるという点が指摘されています。唯一、「人工呼吸器が必要」という判断には、医療従事者間で差が出にくいのです。



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