本日は、「集中治療において意識すべき5つのこと」のつづき、「4.疑問を大切にする」です。
疑問は大切です。そのままにしないことをお勧めします。なぜそうなったのか考え、(信頼できる文献を)調べ、(信頼できる人物に)聞く。そうすることで自分の臨床力がアップします。
なぜ尿が出ないのだろう、脈が速いのだろう、血圧が下がったのだろう、酸素飽和度が低いのだろう。すぐには答えが見つからなかったり、原因を一つに絞れないこともしばしばあります。また、一つ原因が見つかってもその上流にさらに根本原因がある場合もあります。この思考過程を放棄して、対症療法に終始すると、いつまでたっても根本原因に目を向けることができず、結果として根本治療の開始が一歩も二歩も遅れ、患者さんに害が及ぶことになります。
たしかに尿が出なくなれば容量負荷、あるいは利尿剤、脈が速ければベータ遮断薬、血圧が下がればノルアドレナリン、酸素飽和度が低ければ酸素投与、これらの対症療法で表面的に安定させることは治療の第一ステップとして重要です。しかし、対症療法は本質を見抜いて根本治療にたどり着こうというモチベーションを鈍らせる効果を持っています。つまり患者さんが安定したように見えると私たちも安心してしまい、そこから“なぜ〇〇が起こったか”という原因追求の、鑑別診断の、面倒な思考過程を放棄してしまいがちになるからです。
ICUで研修すると、対症療法がすぐにうまくなります。しかし、それはICU研修のごく一部です。もっと重要なのは今述べた原因追求の思考過程で苦しむことだと思います。明確な答えが出ないことも多いのですが、結果として、除外しておかなければならない重大な問題が除外できたり、その思考過程を繰り返すことで真の臨床力がついてくると思います。
さらに考えると、いつもの思考パターンの箱から抜け出して、箱の外に出て考えられるか、異なる角度から問題を眺めることができるかも臨床的実力を示すバロメーターと思います。そこにすでにある材料を見て判断することで満足してしまうルーチーンの罠は恐ろしい。その結果、しばしば追加すべき特殊検査を思いつかない状況が生じます。だから、毎日血球分画、アルブミンを含む血液生化学検査、CRP、胸部X線写真などの何十項目におよぶ検査をルーチーンに行い、見落としを防ぐ意義があるんだ、とおっしゃる方もいらっしゃいますが、そのような過大なルーチーン化も過小なルーチーン化とともに思考することを放棄させる力を持っています。
プロフェッショナルな集中治療スタッフ(ドクター、ナース、CE、理学療法士、薬剤師他)になる道は険しいのです。