3 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
3-1 適法性・許容性
プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、一般に、物の発明において物を特定するに当たり、その一部に製法が含まれるクレームを意味すると理解されえている。
クレームは発明の保護範囲(技術的範囲)を画するものでもあるから、第三者に対する予測可能性を確保する必要があり、この観点からは、物の発明の場合、当該「物」の特定は構造を記載することにより行われるべきである。しかし、「生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でない」ことがある(審査基準第Ⅱ部第2章1.5.2(3))とされており、プロダクト・バイ・プロセス・クレームも特許請求の範囲の記載方法として適法と解されている。
3-2 クレーム解釈
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(発明の技術的範囲の確定)については、「製法」の位置づけを巡り大別して二つの見解があり得る。第1は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの対象が「物」であることを重視して、他の「製法」により製造された「物」であっても、それが、「物」として構造において同一である限り、当該発明の技術的範囲に含まれるという見解である(以下「物同一性説」)。第2に、特許請求の範囲には、出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載されること(特36条5項)を重視して、他の「製法」により製造された「物」であれば、それが「物」として構造上同一であっても、当該発明の技術的範囲に含まれないとする見解である(以下「製法限定説」)。そして、この点については、「製造方法」による限定を原則的に肯定する裁判例(東京地裁平成14/1/29日民事29部判決:以下「飯村判決」)とこれを否定する裁判例とがあり、裁判例の数としては後者が優勢といえた。
この点、近時の知財高裁代合議判決(平成22(ネ)10043号)は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について、以下のように判示している。
4-2ー1 判決の内容
(1)本判決は、まず、特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について、「特許法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる」との一般論を述べた上で、「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合のクレームの解釈について、「当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である」との原則論を提示しつつ、「本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される」と述べ、「そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる」と判断し、例外的に、「特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しない」と解釈される場合があることを認めた。
(2)本判決は、続いて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとに区別した上で上記の趣旨を異なった観点から説明している。真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」のクレームであり,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」のクレームであると定義されている。そして、本判決は、「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる」と説明した。
なお、本判決は、立証責任について、「物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である」と判断した。
3-2ー2 検討
(1)まず、本判決の特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定の一般論については異論はないものと思われるところ、特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきという一般論に照らせば、物同一性説が常に妥当するのかについては疑問のあるところであった。この点、飯村判決は、発明の対象物を構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難である場合には、例外を認めるべきと判示しており、クレーム解釈の原則論を踏まえつつ、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが例外的に許容されるものであることを解釈論に反映させたものであり、適切であると解される。本判決は、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームという新規な概念を案出しているものの、その基本的見解は、飯村判決の趣旨と同様であり、妥当なものといえる。
(2)本判決によれば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合であっても、ある製品(以下「被疑製品」)が当該発明の技術的範囲に属するといえるためには、被疑製品がクレームされた製法により製造されたことを立証することが必要なのが原則であり、当該クレームが、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであることが立証された例外的な場合には、被疑製品がクレームされた製法により製造されたことを立証することは不要であり、クレームされた「物」と被疑製品とが構造において同一であるならば、被疑製品は、当該発明の技術的範囲に属するといえることになる。
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